決まった時間に決まった服で訪れると会える猫の話

散歩が趣味です。
とにかく家にいたくないのと、歩いている方が頭が動く気がするので缶ハイボールを片手に夜の住宅街を大人しく彷徨っています。

だいたい23時以降。ある場所に深緑のロングスカートを履いて行くと必ずと言ってもいいほど現れる猫がいるのです。
このロングスカートがミソ。他のスカートやパンツだと会えません。フェチなんですかね。猫から見た人間の服の趣味とか見当もつかないけれども。

「ニャアーン」とコロラトゥーラみたいな声を発しながら寄ってくる猫は、私の足元で寝そべり、背中を地面に擦り付けてゴロゴロと体をゆすります。私はその様子を見つめるだけで、まだ特に何もしません。
しばらくゴロゴロすると、私の両足に八の字を描くようにスリスリしてきます。
しょうがないから(本当は嬉々として)猫を撫でます。

ひとしきり顎や背中を撫で回して、さあ帰ろうかと思うと、その猫は後からついてきて、だんだん私の先を歩くようになり、振り向いては「ニャアーン」振り向いては「ニャアーン」と声をかけてきます。
酔ってるせいだと思うけど、その様子はまるでどこかに案内してくれているようで、「猫の恩返し」を彷彿とさせます。
猫は好きですが、私は鼻炎持ちで何かに反応すると鼻水がナイアガラの滝ばりに放水されるので、その猫について行くわけにはいかないのです。

ある家の前まで来ると必ずと言っていいほどその猫は立ち止まり、私を見送ります。
まるで見えない壁があるようなので、律儀だなと思いながらグイッとハイボールを飲み干して後にします。

そんなことが3、4回続き、その後私は体調を崩して夜の散歩をやめてしまった。
元気が戻って、また歩いたとき、もう猫はいなかった。
誰か他の人を連れて行ったのかもしれないし、いろいろ嫌になってしまったのかもしれない。まぁ猫だし。

あのままついて行ったら、わたしがアレルギーっなかったら、幸せになれたのか、不幸になったのかよくわからないけど、あの道を通ると足元の寂しさにちょっと浸ってハイボールを煽ってしまいます、という話でした。

サポートの分だけ強くなりたい。 アスファルトに根を張る大根のように。