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8月20日(日)

紙が、水面を何度も翻り、その度に詩が、言葉の欠片が、紙に印字されていった。滲むような、たっぷりとした文字だった。時折、黒いインクが文字から垂直に流れていくのがみえる。なんと記されているのか、僕にはわからなかった。なにせ、紙は翻り続け、詩は印字され続けたからだ。
翻ってなでつける、その繰り返しが生きるということで、人は死ぬと、紙も死に、水面は澱み、一冊の本になってしまうのだった。
あのなめらかな羊皮紙のうねりを、もう一度目にしたいと、僕は膝を折って乞うけれど、日向の分厚い本たちはぴくりとも動かない。
留まってしまった、滞ってしまった文字たちを、それでも僕はやさしくなぞる。
読み上げる、僕の拙い声だけが響いている。

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