【小説】哀しみの魔法 序章④ 幕間
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⚘ 蝶は花園に[しず]む
水滴が水面に当たる音がする
目を開けると歪で夢のような世界が広がっていた
色とりどりの花が咲き乱れて
蝶がひらりと飛んできて
水面に浮かんでは、やがて沈んでいく
現実世界でないことだけは確か
わたしは
わたしは何をしていたんだっけ
そうだ
久しぶりにお姉ちゃんが帰って来て
美味しいものを食べて
他愛もない話をして
嬉しくて
お姉ちゃんは相変わらず元気で
なんだか森のいい香りがした
私がずっと昔に作った付け襟を
大事に身に付けて居てくれて
でも相変わらず私のことが苦手みたい
それもそうよね……
すぐに帰ってしまったの
『お姉ちゃん…あのね?わたし、結婚しようと思ってる人がいて…』
驚いて、喜んでくれた
フリだとしても嬉しかった
結婚なんて真っ赤な嘘だよ
あと一日、そうでなくてもあと少しでも長く
一緒に居てくれたら
そんな風に思って
気を惹けるかと思って
でも、もしかしたら
また私のせいで
今度こそ本当に殺してしまっていたかもしれない
この街が、王都があとほんの少しで
どうしようもない災いに飲まれてしまうことを
わたしは夢で視て知っていたんだもの
心細くて
本当は最後のその時まで一緒にいて欲しくて
でもでもやっぱり
ここでいなくなるのは私だけで良いの
もう我がままなフリチルとは
とっくの昔にお別れしたんだから
さようなら、ファ二ー《お姉ちゃん》
どうかいつまでもお元気で…
痛い…痛いなぁ
私を編み込んだ魔法がスルスルと
いえ、
まるで縫い間違えた糸を
ブツブツと無理やり切り解いていくみたいに
意識と身体は
乱雑に
バラバラに
息も苦しいような
瞼が重いような
助けなんて来ないのに
誰か、助けて欲しい…な…んて……
思……たって……
──そうしてそこには跡形も無くなってしまった
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ステファノーチスからの教え