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読書メモ: 翼の翼

 ぜひ読んだ方が良いと薦められて手に取りました。中学受験をテーマにした小説です。

 タイトルと表紙絵から、中学受験を通じたビルドゥングス・ロマンなのかなと想像していたのですがその予想は大きく外れていて、要するに受験沼にハマってしまった依存症患者たちの話なのでした。

 息子の翼くんが低学年の頃たまたま受けた全国テストの点数が好成績だったため、母である円佳は気をよくし、受験塾に通わせ始めます。最初は神童コースをひた走る翼くんでしたが、徐々に歯車が狂い始め……という展開。

 翼くんは驚くべきことにほぼ成長せず、ラストを感動のオブラートでくるむために「多少自立したカモ?」的なフレイバーをまぶしますが、まあ、ドラマツルギー的には主役であるお母様の異常性を演出するピースであり、お子様の内面はおまけ程度でございます。

 かといって主人公も特に成長するわけでもありません。ラストのほうでなにやら付き物が落ちたふうな綺麗事を展開する部分はありますが、あれは禅で言うところの魔境ですわよね。

 そういう意味では夫婦でアルコール中毒に溺れていく、依存症映画の名作「酒とバラの日々」を彷彿とさせなくもないかもしれない。

 いや、このカンジ、もっとなんかに似てるんだよなーと思いながら読み終えた後、あ、そうだ、ネトゲ廃人じゃん、と膝を打ったのでした。

 以下、名作コピペをいくつかご照覧あれ。

うちの両親がそうだった。超ディープなネトゲのジャンキーさ。ハマってからの両親は、1年365日パソコンと向き合ってた
じーちゃんの遺産食いつぶしながらね。会話なんてありゃしない。あるとしてもネットの中で話すだけ。会話の内容も
「一ツ目山のサイクロプスを倒しに行け」 とか。笑える話だろ?うちの家族に限っては父親は父親じゃなくて
「世界中から頼りにされてるマジックナイト」母親は母親じゃなくて「ダークプリースト」 
俺は子供じゃなくて「モンスターハンター」だったんだ
そんな世界にほとほと嫌気が差してさあ で、考えたんだ。「こんな世界壊しちまおう」って
そのネトゲのサーバに侵入して・・・10年分のデータ全部を破壊してやったんだ。人生最初のハッキングさ
その日の帰り道は そりゃーワクワクしてたね。だってもうそっちの世界は無いんだから
ファンタジーのパーティとかじゃなくて「家族」として生活ができるんだってね
そしたらさ 2人とも首吊って死んでたよ
遺書がまた傑作でさ、 『世界が壊れてしまったので 死にます さようなら』 
2人にとっての現実は もうとっくにこっちの現実じゃなかったのさ
元旦那の話だけど、ネトゲにハマって無職に。
狩り中に近寄ってきた子供(一歳)を「邪魔。」と言って振り払って
子供がこけてギャン泣きしてもシカト。
携帯の請求額が五倍ぐらいに跳ね上がったので調べたら課金してた。風呂は入らない。ご飯も画面見ながら。
結局最後まで更生しなかったよ。
ギルマス:「Bさんって社会人だったっけ?」
B:「そうだよーw」
ギルマス:「戦争に向けてギルド強化するので」
B:「うん」
ギルマス:「仕事辞めてくれませんか?」
ギルマス:「あとギルメンが交代でキャラ育成するので IDとパス教えてください」

 うんうん。本書もだいたいこんな感じの話です。系統的にはイヤミス(読んだあとイヤな気持ちになるミステリー)に近いですかね。ワンテーマの軽めのエンタメ作品ですので、小説としての深みはまったくないのですが、これはこれでとっつきやすくていいのかもですね。

 個人的には、現代の教育論の諸相を取り入れながら、さまざまな家庭の中学受験を交錯する群像劇として描き、その結果の悲喜交々をもっと多層的に提示する作品であればぜひ読みたいのですけれども。桐野夏生あたり、書いたりしてません?

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