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平苗子 62歳 元占い師

平苗子いいます。

私ね、去年まで東大阪の石切神社いう有名な神社の参道に台構えさせてもろて、平紫苑いう名前で占い師やっておりました。ほんでいつやったかな、10年くらい前に東京のテレビ局のOさんいう方が、石切の参道を取材に来はったことがあって、それがご縁で今でも年に1回ぐらいOさんとは手紙の交換とかをさせてもろて。不思議なつながりです。
 ほんでね、先月Oさんから久しぶりに手紙が来たんです。
「この先未来はどうなっていくか見えますか?」てね。
Oさんからしたら、私もう占い稼業やめてんの知ってはるから、冗談半分の質問やと思うんですけど、実は私ね、、、見えてもうたんです。
 そのお話、今からしますね。

 元々、私は占い師、いうても水晶玉とか御神木とかタロットカードとか道具を使って占うタイプではありませんでした。拡大鏡で手相は見たりもしますが、今でこそ言えますけど、ほんまはあんまりようわかってなくて(笑)、私の専門は難しい言葉で言うと予知視っちゅうもんらしいんです。集中するとなんや目の前のお客さんの頭の後ろらへんに薄い幕ちゅうかスクリーンみたいなんが出てきて、そこにお客さんのちょっと先の未来が見えるんですわ。
 例えば、この人お金落としはるな、とか、結婚しはるな、とかお客さんのちょっと先の特別な未来がドラマのワンシーンのように見えるんです。そのかわり一切過去は見えません。っていうかね、私に言わしたら過去ばっかり言い当ててる占い師は詐欺師と一緒ですわ。適当に「家族に辛いことあったでしょ」とか「お金に苦労したでしょ」「恋愛で苦労したでしょ」とか言うといたらあんなもん大体当たるんです。それに、人間観察して相手の身なりとか態度見たらどんぐらいの経済的な暮らししてどんな悩み持ってるかだいたい検討つくもんです。せやから過去のことばっかりいうてくる占い師は信じたらあきまへんで。
 ・・・何を言うんやったかいな。そや、未来や。
だから私はカッコつけた占いはようしませんでしたけど、代わりに相手の数年後とかちょっと先の未来を結構な精度で見ることができるんです。だから、だいたい私が見たお客さんは少し経った後にまた私のところに、当たってたで!、って興奮して報告に来てはりましたわ。

 でね、今回世の中このウイルスで無茶苦茶になってもうたでしょ。まあ、私らの生活にはあんまり変わりないんですけど。先週夜寝る前に一人で考えてみたんです。ほしたらね。眠りにつく直前のボーッとした私の頭の中にバーって白いスクリーンが出てきて、天井の鉄の壁に映ったんですわ。
 私自身からこのスクリーンが出てきたんは初めてやったんですけど、何が映ってんのかいなと思うたら、数年後の、この日本の世の中なんです。
 イメージの塊のようないろんな動く写真のようなものが断片的にバッバッバッってすごいスピードで流れてくるんで、全部はよう覚えてないんですけど、覚えてることだけ言いますね。
 まずね、残念やけどこのウイルス騒動は第3波まで来ます。しかも同じやつじゃなくて、変異、言うんですか。ようやくワクチンができても変異変異の繰り返しで、完全に対応するワクチンなんてできません。ほんでタチの悪いことに「異性感染」いうものが一気に流行るんですわ。つまり男女間で感染率が数倍に高まる、ちゅうことですね。
 ほしたらどんなことが起こるかというと、ただでさえソーシャルディスなんちゃら言うて、距離とれ言われてますやろ。あれが、男女間ではもっともっと距離とれ、言うことになります。しまいには外で男女は許可なく会ってはいけない、という条例も都市部ではできるようになるんです。会社の中では男性部屋女性部屋と分かれて、電車も男性車両、女性車両とわかれて、なんなら自宅も男部屋女部屋に分かれてくるようになってきます。
当然、ナイトクラブとか風俗産業とか異性の出会いを主にしている産業は軒並み潰れます。
 ほんで一気に未婚率があがり、当然のことやけど少子化が一気に進みます。

 経済的にも悪化の一途を辿りますけど、
でもね、そんな中、鬼のように進歩するものがあるんですわ。
それが、VRですわ。
ヴァーチャルなんちゃらの略なんでしょ。私らはよう知りませんけど今は一部のゲームとかでやってはるんですやろ?それがリモート技術と相まって急速な発展を遂げるんですわ。
つまり仮想空間の中で人と人が会う、ということが当たり前になってくるんです。
皆がそれぞれにゴーグルみたいなもんを家で被ってその中に仮想空間が映し出されます。
その空間を自由にそれぞれが行ったり来たりできるんですわ。 
ネットのゲームとかですと、今でも友人知人で誘いもってゲームの世界で会話したり一緒にゴルフしたりするもんなんでっしゃろ?それがVR空間の中でおこなわれる、ちゅうことですわ。
 例えば、私がゴーグルをつけて、仮想空間の道頓堀のかに道楽の看板前に立ってるとします。
そこに隣の安田さんとこの奥さんが現れます。画像技術も進化して、ぱっと見も完全な安田さんです。あらまあ何してはんのこんなところで、とか言って、私たちは会話を始めます。実際には私も奥さんも家でゴーグルつけてるだけなんですけど、私たちは仮想空間の中で実際に会って実際に話してるんです。
 それが一層進んで、仮想空間の中で恋愛したりお見合いしたり、しまいには本人同士は現実で一回も会っていないのに結婚する人たちも出てきます。無茶苦茶や、と思いますが、いつ解除されるかわからん世の中で、結婚したい、おつきあいしたい、思うてる人達にとっては切実な問題ですもんね。

 あとね、もう一つ発達するもんがありますわ。
それは、ドローンです。
今でもすごい正確な動きするドローンありますけど、より小型化、精密度が上がって物流のメインがドローンになります。人と人とが会うたらあかんのやから、この技術はドンピシャやったんです。
私のスクリーンに浮かんだのは、茜色に染まった日暮れの空に、無数のハエのように蠢くドローンの大群でしたわ。えらい数になってきますから、事故も最初は多発したんで、政府はドローン法を制定して、車の道路交通法みたいな決まりごとを作ります。
あと自動運転の車も発達します。
言うても人間は乗ってまへんで。
あくまで物流のための自動運転車です。

すんません。私に見えたんはこんなもんです。
まとめますと、外は大量のドローンと自動運転車が行き交うだけ。
人間は部屋ん中で、隔離されてゴーグルつけて仮想世界の中で生きてる。
何というか不気味な世の中になるんやなあと、しみじみ思いました。
でもひょっとしたら、これがどこぞの偉い人が言う、ものすごい合理的な社会っちゅうことかもしれませんねえ。

Oさん、こんな感じでよろしいやろか。
お忙しいんやと思いますけど、また私んとこ遊びに来てくださいね。
もちろん、茶菓子とかお構いは出来ません。笑。
刑務所の生活にも慣れてきましたけど、なんぼ犯罪者言うたかてやっぱり私、誰かとお喋りせな、生きてかれへんわ 笑
あの面会室でお会いする時の、穴の開いたあのアクリル板ありますやろ。
最初は、めっちゃ寂しいもんやと思ったけど、
考えてみたら今は世の中の人もみんなこうやから、平気になってきましたわ。
殺めてもうた主人もこんな世の中になるなんて思てなかったやろなと思います。
勝手な話やけど、生きててくれたら寂しないのになあと、ほんまに後悔してます。

あ、最後にスクリーンに見えてた事、言うの忘れてました。
この騒動が落ち着いてきた少し後に、地震か台風か、ものすごい災害も併発してもうて、
日本中の「電力」が三ヶ月ストップしてしまうんですわ。

ほんまに、未来はどないなってしまうんでしょうね。
ほな、お元気で。

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