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「私の経歴書 10」緊張し過ぎたプレゼン、だめだと思って学べることもある

シンガポールに異動してよかったと思えることがある。今まで全く関係のなかった上長が課長試験のことを気にかけてくれた。何か相談したり、報告することもなかったのだが、その上長の方から、課長試験に向けて日本で開催される研修に積極的に参加したほうが良いとか、日本に行く場合は遠慮なくビジネスクラスを使っていくように声をかけてくれた。気持ちが落ちつかず、そうした声掛けをその時は聞き流していた。
それでも無意識下ではうれしかったのだろう。それが出会いということなのかもしれない。その後、その上長とは親しくなり、様々な学びや出会いの機会を与えてくれることになる。

その上長の勧めもあったので、日本で行われる研修に参加してみることにした。海外駐在者は強制ではなかったが、日本側から声掛けはあった。ビジネスクラスOKとは言ってもらっていたが、気が引けてエコノミークラスで移動した。

事業再編後事業本部に格上げになってからの初めての日本であった。オフィスの場所が変わっていた。事業部長も変わり、見知らぬ顔もある。組織変更もあり自分がいた部署はなくなり、当時の上長は違う部署に異動になって、何か居場所がないとの感じだった。

その研修は、プレゼンの予行練習することだった。研修最終日に事業部長を前にして、プレゼンの予行練習を行なう。さほど緊張することなく終わった。新たな事業部長から「論理があっていい内容じゃないか」とコメントもらって安堵。プレゼンテーマは、自分が課長になったときに取り組む課題。「カスタマイズ設計の現地化」をテーマにした。

それまでにプレゼンなどしたことがなかった。中堅社員になりたてのころ、IE研修の最後に「自分の職場の改善」というテーマで発表したことがあるくらいだ。大勢の人の前で話したのは友達の結婚式でスピーチをしたくらいだけだった。新郎新婦の共通の友だちということで頼まれて引き受けた。
その結婚式でのスピーチの時、不思議な体験をした。余興などせず、ただ喋っただけだが、スピーチする自分が緊張していることを、もう一人の自分が観察しているという感覚を味わった。
「緊張しているが、結構喋れているね」
「笑いがとれた」とか、
スピーチしている自分の中に、もうひとりの自分が時々顔を出してくるのである。
スピーチを始めると、あの始まる前の緊張は何だったかのと思うように、もうひとりの自分が自分を俯瞰して語りかけてくる。聴衆に目を合わせると、もう一人の自分が出てくる感じだった。
その後もプレゼンをするたびにこの現象に出会うことになる。

本番の課長試験のプレゼンが始まった。観衆は大勢ではなく事業本部長を筆頭に5名ほど。プレゼン会場に入る前から緊張していた。プレゼンを始めると、もうひとりの自分が顔を出すのだが、今回は少し勝手が違った。もうひとりの自分までもが緊張しているようで制御が利かない。時間経過を知らせるチャイムが鳴ると動揺してしどろもどろに。プレゼンが終わった。

事業本部長から「海外の駐在者は経営幹部にプレゼンする機会が多いから、もっとうまくできるはず」と言われた。「そんなことをいうの? この1年あったこと知ってますか?」と言いたかったが、人事部長が助け舟を出してくれた。人事部長との質疑応答がメインになり、その他いくつかの質問に答えて試験は終わった。駄目かなと感じた。予行練習であれだけうまくいったのに。油断があったのかもしれない。
半年近くも研修するからか、課長試験の合格率は低くないが、それでも数名は落ちる。その中に自分の名前はなかった。また救済されたとの気持ちになった。人事部長に感謝するしかない。

正式な通知を受け取るのはもう少し後だが、課長試験が終わったことで、落ち着いて仕事に戻れると感じがした。

課長試験でプレゼンしたテーマも新たなミッションになる。何せ、シンガポールでの定常業務の大半がカスタマイズ設計に関わる内容で、それをテーマに選んだのだから。設計者の代わりに、在シンガポールの客先までサンプルを持参、打合せまでしていた。
それが新たなきっかけになった。結果はまるで違う方向に展開していくことになるが。

その後の話しだが、プレゼンの研修を受ける機会があった。その講師は、課長研修と同じように、練習が大切という。練習を繰り返せば、本番でも同じようにできると言う。練習に満足すると、逆に本番のときに躓くと焦ることになると言いたかった。あらすじを押さえて、プレゼンをイメージして頭の中で画像化するくらいがちょうどいいのかもしれないと思う。その後、何度もプレゼンすることになるが、あんなに緊張したのは課長試験だけだった。

事業本部長がいうように、その後経営幹部にプレゼンする機会が増えることになる。うまい下手は別にして、プレゼンすることが苦ではなく好きになっていくのだから不思議ものである。
(つづく)



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