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Japanese Kana Cuneiform

世界で最初の文字は何かということに関しては現代でもよく分かっていない。定説では紀元前3500頃とされているが、ビクトリア大学の人類学者ペッツィンガーは、氷河期の洞窟壁画の幾何学記号のデータベースを作成し分析した結果、いまから4万年から1万年前、つまり氷河期3万年の期間を通して、わずか32種類の記号しかつかわれていなかったことを発見し、氷河期にはすでにこの記号によりコミニケーションを図っていた可能性があるという結論を導き出す。

つまり、これらの記号が文字の始まりを意味するのではないかという主張だ。本人によれば、先行する体系的な研究はなく、仮説の段階にとどまるとはいえ、この説を支持すると、中国の賈湖契刻文字(紀元前6600年頃)やトランシルヴァニアのヴィンチャ文字(紀元前4000年頃)シュメール人の遺跡から出土したウルク古拙文字(紀元前3200年頃)を遙かに遡り、それどころか、もはや文字の発明者はホモ・サピエンスですらない可能性すらある。

集団の情報伝達手段として言語や記号を操るのはヒトの欠くべからざる特徴だとされているが、ここから考えられるのはもっと根本的にホモ・サピエンス集団の情報伝達手段としての記号と言語はどちらが先行していたのか? という疑問だ。
ヒトは人種、民族関係なく等しく言語獲得能力をもって生まれてくるが、概念獲得なしにコミニケーションは成立しない。一部の心理学者は概念獲得が言語獲得の基板になっていると考えておりこの説に立てば、石器などと同様に先行する霊長類との接触から文字を獲得したと考えるのは自然だ。

世界中に散らばった人類種が多様な集団として拡大していったことを思えば、コミニケーション手段としては記号が言語に先行したと仮定してもそんなに無茶な発想ではないだろう。
実際言葉の通じない異邦人とのコミニケーション手段は身振り手振りや、絵を描いた方が遙かに早いからね。

さて、ペッツィンガーの文字は言うに及ばず、ヴィンチャ文字やウルク古拙文字ですらまだ解読不能だ。
では現状ほぼ解読可能になっている最古の文字は何かと問われれば、一般的にはシュメール文字……だと思うのだけれど、この辺は個人的な思い込みもあるので専門家に聞くというのが正解だ。とはいえ合ってるとは思うんだけど……このシュメール文字は、教科書にものっている粘土に棒で引っ掻いたのの並んでいる記号の塊。いわいる楔形的なあれで遺されており古代メソポタミア全域で利用されていた、いわゆる国際言語だ。シュメール語自体はその後ウル第三王朝の滅亡とアムル人の進出とかなんやかんやあった後に、かの名高きハンムラビ王の時代には話し言葉としても完全に死語となってしまったと考えられているのだけれどね。まさに諸行無常。

ところで、楔形文字という呼び方はあくまで文字の形的なあれを指すのであって、この形になっているもの全てがシュメール文字というわけではない。これまた現在では死語となっているエラム語、ウガリット語やヒッタイト語、アッシリアやバビロニアのアッカド語さらには遠くイランの古代ペルシア語などなどいろいろな集団が、この形態を自分たちの言葉の文字として利用している。まあ平たく言えば筆文字とか、ゴシックとかと一緒の分類だと思えばだいたいOKだ。つまりこの形で記録されていればアルファベットや日本語ですら楔形文字だ。

というわけで、やっと本題。今回はこれを文字化する…とはいっても流石に日本語フルセットはきついので今回もカタカナだけ。いや平仮名もね、途中まで始めたんだけど泥縄でルール決めずにやりだしたらちょっと上手くいかないことが分かって、むしろ当用漢字から先にはじめたほうが良かったかも。

スタイルは楔形文字のなかでもわりと洗練されているデザインの……と個人的には思っている、古代ペルシア語をベースにのばす棒とv字の組み合わせ。これをコンポーネントにしていつもの如くGlyphsでペタペタ。コンポーネントを弄るコトで簡単に1軸のヴァリアブルフォントが出来上がり。軸の名前をクレイつまり粘土ね。スタイルをハードとソフトってのは、粘土の固さでスタイラスの掘れる筋が変わるだろうという洒落。まぁこれだけだと芸がないので数字だけ古代ペルシア語仕様にしてある。

つまりアラビア数字みたいに10進法でけた上がりではなくローマ数字のようにCMXCIXとMXIVはどっちがどれだけ大きいのっていうのが一瞬見ただけでは分からないというクソ仕様だ。今回はここを数字をリガチャーするOpentype Featureを利用して実現しているのだが……

100まで作ったところで力尽きました。意味ある? この作業。

註:念のため。文字が言語に先行するなどという頭のおかしい主張をする学者はいない。ジェネビーブ ボン・ペッツィンガーもそのような主張はしていない。旧石器時代の人類が文字を操っていたという確たる証拠もない。櫻井祐子の翻訳を信じるならば、彼女はそれもごく控えめに「世界初の意味をもつ図形のしるしは現生人類が旧世界に足を踏み入れるはるか前」と信じているということだけで、個人的にはこの立論に蓋然性が高いと感じるが、これもまだ学会の定説になったものではない。まだしばらくは彼女と彼女の研究チームの結論を待つ必要がある。また、中華人民共和国の李学勤と彼の研究チームは賈湖文字と商周代の甲骨文字との関係性を研究中だ。時代も文化もかけ離れているが、仮になんらかの結論が得られれば我々の使う漢字が時代を7000年も遡り1万年の叡智と直結する……って、いやいや、この先はまた妄想が膨らみすぎなのでまた別の機会に。

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