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クメール語フォントの作り方


今回の話は、時機的には去年の10月にCBDC絡みのネタとしてそのタイミングにあわせてしようと思っていたものなんだけれど、予定になかった話を先にしたために後回しになってしまっていた……けれど、まぁ、よく考えたら内容的にはCBDCはネタ振りにしかなっていないんだよねコレが。ある意味時期はどうでもよかったといえば、まぁ、どうでもよかったんだけど。

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さて、CBDCというのはCentral Bank Digital Currencyの略で日本語にすると中央銀行デジタル通貨という。まぁ、ザックリ電子マネーということなんだけど、これが民間のスマホ決済デジタルマネーなんかとどう違うのかというと、これは、これが中央銀行が発行する現金の代替として現金と同様の機能を果たすデジタルマネーだということだ。自国の中央銀行によりコントロールできるので金融政策の自由と独立性、透明性を担保できて、ユーザーから見れば現金同様どこでも使える汎用性と、受取拒否のできない強制力、個人間の取引にも使用できる流通性、決済手数料フリーというノーコスト、受け渡し即決済というファイナリティがあって中間業者が必要ないので取り付けや決済銀行の倒産を心配する必要が無いという、そういうソリューションの金融技術だ。これが実現するといままで手数料に阻まれていた小銭どころか1円以下での投げ銭すら可能になるうえスパチャ即振込ということも可能になるのでnoteのユーザーなんかにもメリットはある。で、銀行口座がいらなくなるかもとか、金融のアンバンドリングやらディスインターミディエーションの問題がどうたらとか、貨幣乗数アプローチがぶっ壊れるだとか、それこそフィンテックにともなう細かいことなんかも諸々色々あるだろうけど、そういう話は頭のいい人に考えてもらうとして、巷の話題では人民中国でもこれを冬季オリンピックまでに全国展開するつもりなのだそうなので……って、これをいうと、なんかビックブラザーな香りのするヤバそうな仕組みにも聞こえるかも知れないけど、そのあたりは、勿論運用次第。まぁ、おかしな導入のされかたをすることになったらそういうことも可能なので……システム的にはそういうことには誰かが目を光らせておく必要はあるかもね。

それで、その先進的なフィンテックの導入が世界の先進国を尻目に、いちはやく昨年10月から本格運用されたのが、前世紀にクメール・ルージュのキリング・フィールドとなって大量虐殺とその後の内戦で原始時代の物々交換経済からやり直しになってしまった国民一人当たりGDPが世界平均での10%以下といわれる最貧国のお仲間のLeast developed country、一部の世間では悪名高いフン・セン独裁下のカンボジア王国だ。こういう、社会基盤が脆弱な法もインフラも未整備な途上国がハイテク先端技術の利用では先進国の先を行くというようにテクノロジーの普及が経済発展が進んだ国より先にバイデンジャンプしてしまうチートな状況をリープフロッグ現象といって、今後の途上国の経済発展の鍵を握るイノベーションのひとつなのだが、当然勿論もとからドメスティックにそんな技術開発能力があればワカンダじゃあるまいし途上国がいつまでも途上国に甘んじているわけはないので、この現象は先進国では既得権やら規制やらで社会的合意を取り付けるのが難しく雁字搦めなのを言い訳に途上国を使って臨床実験するため先進国の金と技術とドミニオン・ボーティング・システムなんかが惜しげも無く投入されるということによって成立している。ということなので戦前大日本帝国が大陸でやらかしてしまったようにそういう投資が役に立つか無駄に終わるかは社会的公正さや地域の安定と安全保障とはセットなんだけど……って、まぁ、その話はいいか……それで、意地の悪い見方をすれば、その先進的なファイナンシャルテクノロジーに関してはこの独裁政権下で培った技術が何れ我が国に還流されてしまうということになる……んだろうなぁ、多分。まぁ諜報機関がベネズエラの独裁者と共同開発したチートなバックドアのテクノロジーを自国の選挙で使ってしまったため大混乱みたいなことをソラミツがフン・セン政権を利用してやっているなんてことを言いたいわけじゃ無いので誤解なきよう。カンボジアのようなLD Countryではリープフロッグしたことによって成功すれば万々歳、失敗しても、元に戻るだけである意味失うモノは先進国が出した投資金額と賄賂だけだから途上国としてはどうでもいいと……いや、だから、そういう態度が腐敗の温床に……いや、まぁ、なんでもないです。

で、カンボジア中央銀行によると貧弱なインフラと利用者の金融リテラシーの問題で現在はまだ安定的にデジタルエコノミーを推進するまでには至っていないそうなのだけど、世界的にもデジタルイノベーションの進路はみんなこっちの方を向いているようなので時間の問題かも。ニュース番組風な心のこもっていないコメントでしめると、議論が高まるなか世界に先行して導入されたカンボジアの状況から目が離せません……というくらいしか語れることは無いんだけど。それで、こんなアホな話より、実際のちゃんとした話を聴きたいという感想をお持ちの方は以下を参照。

ということで、今回はそのカンボジアでの地球上で初めてのCBDC、デジタル通貨「バコン」の正式運用開始を記念してカンボジア語……とは言わずに普通はクメール語というのだけれど、そのクメール語表記に使われるクメール文字のフォントを作成しようというわけ。まぁ、そういうわけだから、CBDCの話はホントは実はまったくどうでもいいのだけれど、クメール文字を作ってみようなんてことを思いたった理由に19年にこのデジタル通貨発行のニュースを見たことが切っ掛け……だったりしたということもあったりなかったりしたりするわけなので……え? Honda? いや、まぁ、その、傷口に塩を塗り込むような話はあまりしたくないので……お察し下さい。

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さてさて、という感じで、今でこそLDCという呼び名の途上国に成り果ててしまったカンボジアだけれど、その地域社会はかなり歴史が古く、一時期には……つまり千年から五百年くらい前のクメール王朝時代にはベトナムを除くインドシナ半島全域に支配力を発揮するほどの権勢をふるっていたのだよね。中華文明とヴェーダ文明に挟まれていた古代のインドシナ周辺は殆の日本人が竪穴の掘立で起居していた頃にはもう既に複数の大河と島々、それらの間での貿易が産む莫大な富により古代インド中国と並ぶほどに高度に文明化されていたのだけれど、ただ、自然災害多発地帯なうえに考古学調査も先進諸国のそれよりは進んでいないこともあって意味不明なオーパーツだけを残して海底やら熱帯雨林の闇の中に消えてしまったものもあって……つまりは、まぁ、昔の話はあんまりよくわかっていないことのほうが多い。文字の世界の話をすると欧州世界の多くの言語で用いられる文字の起源が海上交易によって栄えたフェニキア人とその文字に由来するように、東南アジア世界で使われる文字の多くもルーツを辿っていけば同じく失われた交易ルートのことも当然考慮されるというわけで、そういう感じに東南アジアから太平洋の島嶼世界に至るまでの文字の多くが交易ルートに関わるそのある文字の影響下にあるといっても……というか、まぁ、そういう感じなんだけど、それで、結論から先に言えば南亜細亜から太洋世界に至る地域のその原初の文字が何かといえば、それがブラーフミー文字というわけだ。考古学的資料からも広大な南アジア全域に亘って使用されていたことが確認されている。

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ところがそのブラーフミー文字は起源のよくわからない古代文字で、構造も子音文字に母音の記号を合体してつくるという音節文字なので、ひとつひとつの文字が原則としてひとつの子音または母音というアルファベットのような音素文字や、子音のみを基本とするというフェニキア文字やアラム文字の仲間達とは異なった書記体系を持っている。勿論当然漢字ともね。で、そういう感じなので、この文字に影響をうけて誕生した字は、同様のシステムに準拠してしまったため西洋やユーラシア大陸中央の語などとはまた、まったく異なった文字構造を持つことになる。まぁ、あたりまえだけど。

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昔の定説ではブラーフミーはアラム文字からわかれたということになっているんだけど、単純にそれだけだと書記素の構造変化の理由が説明しきれていないような気がするんだよね。個人的には。で、それよりは、これもやはりルーツも解読方法すら不明なインダス文明のインダス文字との関連性を重視する識者もいたりするので、スーラット沖の遺跡から文字が引き上げられているのかどうかは寡聞にして……という感じだけど東の海の果てのイースター島の未解読文字ロンゴロンゴまでもがインダス文字と見かけだけはそっくりな形態で孤立して残ってしまっているということなんかも考え合わせると、この話はこれはこれでいろいろ妄想の膨らむところではある……まぁ、正否の確かめようもないことではあるので、叩いても本当に妄想以上の話は出てこないんだけど。

それで、実はセンチネル族が文字を使っていましたなんてことにでもならなければブラーフミー文字を現在も使っている集団は発見されてはいないはずなんだけど、過去には地球の半分を席巻するほど大流行したこともあって、ブラーフミーから派生したアルファシラバリーな書記体系の文字グループはこの惑星で最も影響力と広がりを持ったファイロジネティックツリーを持っているといっても過言では……っといっても、そのうちのかなりの部分は失われていて、ご臨終かレッドデータブックものなんだけどね……まぁ、でも、そういう数と広がりのおかげでブラーフミーの系統に属する文字は世界で最も種類も多く多様性に富んでいて……と、思ってはいるんだけど、地上に生まれた全ての文字をちゃんと数え上げることは不可能なので、まぁこのあたりの話もかなり適当なことしか言ってませんよ!


で、日本は漢字文化圏で、これらとは系統が違うからブラーフミーのお仲間との関係はまったく無い……かと言えば実はそういうことでもなくて、現在の日本で、漢字、仮名とはルーツの違うAlphabetが混在して使われるようにかつてはブラーフミー文字をルーツとするシッダマートリカー文字をもとにした文字が利用されていた。まぁ、今でもまだ現役だけど一般には卒塔婆に書く以外の用事は無くなったので、現代では石を投げても読める人にすら滅多に当たらない。日本語ではこの文字のことを梵字という。シッダマートリカー自体は現地ではほぼ絶滅したので、何というか、世田谷のセキセイインコみたいなことになってしまっている。他にも山窩文字などのように、カラブリアのサン・ルカコード並みに仲間内の取引に使うために暗号化してしまった文字や、頭のおかしくなった誰かが勝手に創作したうえに古代文字だと言い張っている的な文字なんかは別として、ある程度まともな古文献が辿れる神代文字のなかにはブラーフミー的な書記体系の影響がみられるものも多い。さらには学者によっては平仮名片仮名でさえその影響で……って、いや、まぁ、この話を始め出すとなかなか戻ってこれないので、それはともかく、それで、クメール文字はそのブラーフミー系統の文字をルーツとしていてインドシナ周辺ではわりと早い時期に成立したとされている。多分クメール文字は現在利用されているインドシナ周辺の文字のなかでは最も古い文字……だったはず……多分。

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当然クメール文字は、ブラーフミー同様、子音と母音記号からなるアルファシラバリーな音節文字……専門的にはこのことをアブギダという名前で類型化するのだけれどそれはともかく、そのクメール文字の字形の話をすると、これがおおまかに書体としては丸文字と長体に大別される、いや、失礼。正しくはムール体(aksar mul)と、チョー体(aksar chhor)を含むチュリエン体(aksar chrieng)というグループの二つがある。ムール体はその名の通り丸っこい文字でプノンペンやシェムリアップの街をストリートビューすればよく見られるコントラストの高い看板書体なんかがコレ。本のタイトルや見出しポスターのほか碑文や仏典の本文などにも使われている。もうひとつのチュリエン体は本文書体や日常の読み書きに使われる文字。傾いているもののほうが正式だそうだけど、このうち活字の都合で正立させたものだけをチョー体といって、チュリエン体とは別扱いにする……こともあるらしいのだけれども、外人から見れば印刷物でもWebでも、なんでも正立したチョー体のほうをよく目にするような気がするせいで、チョー体のほうが正式なんだと思い込んでいたよ……まぁ、ちゃんというと他にムール体の一部の字画を省略したコーム体(aksar khom)という書体もあるのだけれど、コレも、ものをよく知らない外国人……って、俺のことか、まぁ、現場感覚のない外人にはその差を脳の感覚器官が抽出するのに失敗するのでムール体と区別を付けられなかったりするのだよね……トホホ。さらに最近ではチュリエン体をもっと大胆に簡略化したジオメトリックな書体も流行っているみたいなので……これが、ゲーム画面でドーンって流れてくると、まったくどう読むのかわからないことと相俟って見た目サイバーな感じでなかなかに格好良い。なので、読めないのにクメール語でゲームをプレイしたりして……この字体に適切な名前がつけられているのかどうかはよくわからないけど、どこの国でもあるように若い世代のデザイナーは字の書き方については何も知らないなどと言われたりもしているようなので多分そのへんは適当なんだろう。まぁ、でも、この辺りはカンボジアには実は免罪符があって、クメール・ルージュが大人を皆殺しにした所為で受けつがれてきた伝統技術や正統的といった知識がなかったことにされてしまっている……という言い訳が通る。それでかなりの無茶も許容されているようだけど……って、いや、まぁ、笑い話にもならない酷い話でもあるんだよ、実はコレは。

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それで、まぁ、共産主義者によって文明が破壊されていた所為で、ちょっと前まではクメール文字で使える活字の種類もそんなにバリエーションがなかったんだけど、経済成長の結果デジタル技術が普及してその後クメール文字がユニコードに登録されて初期にはバラバラだったコード環境が統一されて敷居が下がったとか、ポルポトが鱗や折れがあーだーのこーだのと細かい事をガタガタ指摘して「こんな明朝は美しくないから駄目」などと偉そうなことをいうだけの年寄りを一掃してしまったせいで誰がどんなに自由な解釈でクリエイティブしようが出過ぎる釘を叩く人間がいなくなっているせいなのかどうか、そのあたりの影響は推測するしかないけれど、今では数も種類も日本語のデジタルフォントバリエーションを凌駕するほどに増えてきている。フランス語で書かれていたこのあたりの事情をまとめたサイトを覗いたんだけど……って、コレ、全部フリーなの? すげぇな! クリエイターが自由に使える書体の環境は実は日本語よりよっぽどいいんじゃないの? いや、そこのところはわからんけど、でもこれでCBDCで課金が即チャリンなら今は若いクリエイターには日本よりいいのかも……う〜ん。

で、ここから先は話が適当すぎて本気で真に受けてもらっても困るけど、って、ここから先どころか全てがそうだけど、まぁ、ともかく、それでクメール文字は雑に描くと、だいたい下図のように基本の文字を中心に周囲に音素を表す記号のブロックを組み合わせ音節のクラスターを構成するという構造になっている。うろ覚えで適当に書いていくと一文字一文字それぞれの大きさや高さをどう揃えるかという……これがかなり面倒な構造なのでなかなか一筋縄にはいかない。ホント、クメール文字のカリグラファーには頭が下がる。それでデザイン的には結構いろいろ考えないといけないことが起きそう……っていうか、起きるのだけれどね。

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書き順は、教科書的にはまず中央に子音字母を置いて、次にその下に脚文字(coeng)という連続する子音記号を書いて、さらに回りに母音記号を追加するという構成で、筆順は置いていくその順番に書いていくので、このあたりのお約束もこの系統の書体の構造に理解が及ばないと、なんでこういう順番になっているのかというのがホントにまったく意味不明だ。これで「書きじゅんパズル」作られたら一発で完成できる自信ないわ……動画でチュリエン体のスクリプティングなんかを見たけど、ペンが左へ戻ったり上行ったり下行ったりしていて、これはやたら忙しい、腱鞘炎になりそうだ……実はインド系のアブギダはだいたいの場合、複数の子音を含む子音クラスターを文字として表現する場合、それぞれの子音の音を持つ複数の音節文字を結合してひとつの字母をつくるので、結合したときに消えてしまう内在母音の不在を記号で明示したり、子音文字の形を弄ったり、子音結合全体を纏めて別の文字をつくってしまったりと、ケースによって異なる複雑な解釈で字をつくるのだけれど、スクリプトの書かれやすさは優先されるようで、書字方向だけは比較的わかりやすい。クメール文字は逆で、構造的にはcoengは子音文字とは別の記号という扱いなので規則にそってこれを順に追加していくだけで理論上はどんなに子音結合された音節文字でも字形を変えずに自由につくることができるというルール。文字としてはデーヴァナーガリーよりは遙かに合理的な仕組みなのだけれど書きやすさはそのぶん犠牲になっているような気がする。まぁ、あくまでも印象だけだけど。

どういうことかというと、これをカタカナを使ってものすごく雑に説明すると、下の図のような感じになる。子音字母というのは、例えばかなでいうア行の「かさたなは……」みたいなもののことでクメール文字においては「A」か或いは「O」の母音の音の省略表示形になる。この文字にAやOとは別の母音記号を振ることにより……例えば「かさたなは……」に「I」の母音記号を置けば「きしちにひ……」と読めるようになるというシステム。もちろん「きゃっ」とか「しゃー」とか子音結合されたシラブルに関しても同様な作業を行なって1つの音節文字にしてしまう。従ってワンシラブルであれば日本語にしても英語にしても文字が沢山連なってひとつの単語が長くなってしまうような「ストレッチ(Stretched)」みたいな言葉でも、下図のようにして1文字……まぁ、こういう構造の言葉に文字を数えるという概念があるとするならばだけど、こうして、こういう形にひとつの文字にするという感じ。下の図の右のように音を表す記号を子音字母の回りに書き散らかすというイメージだ。当然こうするとグリフは横にも縦にも大きくなっていくのでひとつの字の大きさは揃わなくなる。これをグルジア語でやると文字の大きさが馬鹿みたいにでかくなってしまうのだけど、クメール語では大抵は音節核の前に来る子音でしか子音結合がおこなわれないうえ、クラスタ数も最大で3つまでという制限があるので、そういうことを心配する必要はないんだけど、原稿用紙の升の中に固定サイズの文字を詰め込むのになれている日本人にはちょっと何が起こっているのかよくわからないかもしれない。なんというか、世界にはこういう文字もあるのだよね……というかこっちの方が数も種類も多いんだけど、まぁそういうことなのでこの文字は文字数を数えるという行為すら原稿のボリュームを計算する役にはまったくたたなそう……って、まぁそういう雰囲気。どう? わかる? え? かえってわかりずらくなった? まぁ、ともかく、そんな感じ。

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だからフォント作る場合は33の子音字と23の母音記号だけあれば良いはずなんだけど、子音結合というクラスターが発生するときに字の形が融通無碍に変形してインターロックするのでグリフのパーツとしてはそれ用のデザインを用意する必要がある。また、Unicode委員会で文字がコード化されたときにクメール語のまともな言語学者もネイティブの専門家も不在だったという事情で、文字とコードの対応が、かなり複雑怪奇な構造になってしまっているというところも厄介だ。詳細は省くけどこれを普通にUnicode対応フォントにするときには少々厄介で面倒ななりゆきとなる。これは思いやりが足らなくて国際標準で途上国が割りを食いがちになるというホワイトヘゲモニーな問題もあって、いくら多文化主義だのダイバーシティだのの念仏を唱えていても社会的な常識が自分たちとは異なった文明も数多く存在するのだということをなかなか皮膚感覚で理解するのは難しいので、こういうところは常に文明的にマイノリティなところでは蔑ろにされがちになって、間違いを開き直って、声を上げなかった方が悪いなどとマウンティングをとりにくるんだよね。まぁ、軍事経済覇権でのマウンティングならば仕方ないとしても文化的な標準でこれをやられるとホント迷惑にしかならないんだけど、やってる本人達はこれでも善行のつもりだったりするんだから、そういうところも困ったところだ。

それで、本来ならこういう時にこそ、いろいろなことが自国に有利となるように国連の国際機関に大量に人員を潜り込ませて無理矢理無理を通しているという新たな覇権へとチャレンジングな某国が第三世界の代表として役に立ってくれてしかるべきなのだが、どうにも自分たちのことにしかまったく興味がないようなので、全然あてにならないんだよねコレも。で、こういうところがいつまでたっても国際的なレピュテーションがあがらないというところになるんだけど、まぁそれはともかく、ということで、これをちゃんとしたフォントセットにしようと思ったらいろいろ纏めて百以上、場合によっては3〜400、下手すると600程度はキャラクターセットを追加してさらに複雑なfutureを追加することが必要……みたいなことになる。そういうことで、本人達は微塵もそうは思ってもいないだろうけど、この事態はあきらかにユニコードコンソーシアムのチョンボでもあるのだけど、そうはいってもコード化する立場からすれば逆に使う使わないにかかわらず可能な子音結合全てに一つづつコードを振っていってしまうという阿呆な事をすると、こんどは山のように文字が増えていって、それはそれでハングルのUnicodeみたいなことになる。なので……って、まぁ、このあたりも段々はなしが諄くなってきたのでひとまずこのへんにしておいて、それで、とりあえず作業をどうするかは走りながらいろいろ考えていく方向。ジョン・カサベテスいうところのインプロヴィゼーションなクリエイションといったら、それは、まぁ、それはそのとおりだけど……いや、ホントはそんなに格好いいもんじゃなくて詰まるところは思いつきの成りゆき任せの行き当たりばったりっていう……酷いねどうも……まぁそういう感じ。

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今回はとりあえず、上のようなオーセンティックなムール体からデザインを始めたけど、まぁとはいっても本当にオーセンティックに見えるのかどうかは外国人のやることなのでよくわからない。なにが正解かまったく不明なので、意匠的にはアルファベットでいうところのアールヌーボ書体を作成しているつもりの感じのノウハウを引っ張り出して作っている。まぁ最終的には代々木のアンコールワットでクメール人にでも見てもらうしか無いのだろうけど……って、くだらない戯れ言ほざいてたらアモック食いたくなってきたぞ……いや、まぁ、そのことはいいとして、え〜ッと何の話だったっけ? 


まずは、数字と記号類。数字は伝統的な数字の字形があってインド数字の影響を受けた10進記法が可能な、ものだが、字形は現代のアラビア数字とは異なる。コードはU+17E0からE9まで、これに2桁数字に句読点を縦に組み込んだ太陰暦の日付記号と、魚河岸の下付の数字のような簡略化された数字記号が別に追加されている場合もある。下がクメール文字の0から9まで、まぁ言われてみれば数字な感じに見えなくもないよね?

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約物は、必要なモノを上げていくとキリが無いけど一応最低限以下のモノがあれば、まぁなんとかなる。最後の៚はkoomuutといって、これは文章の終わりで文の始まりを示す二重丸のphnaekmuanとペアで使用される。美的観点から先頭も左右反転したkoomuutで囲むというパターンもあるけど、そちらの記号はUnicodeではコード化されていない。筆記するときはこの最後のグチャグチャってなっているところを優雅に長く伸ばしていってあげるとそれっぽい雰囲気が出てカッコいい……ような気がするけど長すぎても使いづらくなるので活字を造るときは将来的にはここがバリアブルにビヨ〜ンって伸ばせるフォントにすると良い感じかも、ってまぁ、そんな感じ。

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おっと、冒頭でCBDCの話をしていたのに、肝心な記号を忘れていた。

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これは、お札に日章旗が描かれていることで有名なカンボジアの通貨単位リエル(riel-khmer)の記号。といっても、クメール・ルージュの原始共産制時代ではそもそも貨幣そのものが廃止されていて、その後も経済破綻の所為で市中経済はほとんどドルで回っているので、現金所得そのものがほとんどないというカンボジアの田舎以外では貰ったらすぐにドルへ変えるために両替商に駆け込むことになる公務員の給与として支払われるほかには、ほとんど意味をなしてはいなかったのだけれど……現在はデジタル通貨の導入で、そのあたりの事情も徐々には改善にはむかっている……ということらしい。


さて、それで、問題の文字のほうなんだけど、これは子音の字母(海老茶色)と、子音字母に依存しない独立母音(鶯色)のうちのUnicode化されているものが以下になる。

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子音字のうちឝ(sha-khmer)とឞ(sso-khmer)は現在は廃字なので作る必要は無かったんだけど、まぁなんというか勢い。さっきも言ったけどクメール文字の子音字母はA系列とO系列の2つに分かれていて、それに記号の組み合わせで母音の読みが変わったり変わらなかったりするんだけど、まぁそのあたりは言語のはなしになるので、ちゃんとしたところでお願い! で、あと独立母音というのは、まぁ子音を伴わない母音のことで「あいうえお」に当たる。これらのうちឪ(quk-khmer)は借用字……っていう言い方でよかったんだっけ? 外来語の音に必要なだけなので、それを除いた13音14文字がクメール語の独立母音になる。文字が1文字多いのは、oŭの音にあたる文字(qoo-khmer)のみ字形が異なるឱとឲの2文字があるわけで、勿論古典的な資料に当たるとさらにいろいろな字形もあるわけだけど諸事情により、当然のことながらそれらはコード化されてはいない、まぁともかくこれが独立母音にあたるというわけだ。それであとはそれぞれの子音をcooeng化した字形と、母音のダイヤクリティカルマークを用意して、futureでOpenType Library Servicesを呼び出して、これを組み合わせたときに機能する仕組みを用意すると出来上がり……ということになる。単純にブロック組むように組み立てても、それはそれでうまく嵌まらない図形が出来たり出来なかったりする場合があったりなかったりして、字形が変わることもあるので、その場合、それぞれ別に合字も用意する必要がある。この仕組みは簡単な例をあげると、以下のようになる。

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クメール語のキーボードはMacOSではこんな感じになっていて、បាគង(BAKONG)って入力したいときは ប+ ា+ គ+ ង というふうに打鍵する。 こうすると最初の1文字目が自動的にបាという合字に差し替わる仕組み。つまり、こういうケースをそれぞれ機能するようにプログラムしていかなければいけないというわけ。上の場合はFeaturのcligにlookupすればいいだけなんだけど、それだけだと諸事情があってそうは単純に一筋縄にはいかない場合がある。それで、ここをどうするかというのは……まぁ、かなり込み入った話になるので……気が向いたらまたそのうち。

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