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SIRDS Helvetica

前に読めない人にも読みやすいフォントみたいな話をしたので、180度回って読みにくいフォントを作ろうという回です。まぁ、とはいっても単に読みにくいフォントとといっても色々あって、グラフティフォントとかもその代表だけど、単純に字が下手とか汚いとかそういうレベルの話のからデザインがどうのこうのというレベルまで、もう範囲が広すぎていろいろあって何でもある。で、じゃあ、どういうはなしかというと今回はタイトル画像でまぁお察し。

字が汚くて読めないとか、デザイン云々の話はおいておいて、そもそもフォント設計の時点でなぜわざわざ読みづらいようにデザインしなきゃいけないんだよと言う話なんだけれど、実はわざわざ「読みづらいように設計しました」と大声で胸を張っちゃているフォントがここに存在する。それも、科学的学術的にというわけで、一層たちが悪い。それがSans Forgeticaというフォントだ。

王立メルボルン工科大学(RMIT University)でデザインされたその書体は、学生の理解と情報保持力を強化するという能書きで作成された。つまり端的に言えば「記憶力を高めるフォント」というわけだ。

何故字が読みにくいと記憶力が高まるかというと、テキストを読むとき文字が太くなったりアンダーラインが引かれたりしていると、これは基本的にこれらの単語を他の単語とは異なる方法で読みとり、理解しなさいという合図になって、脳の働きが切り替わる。 Sans Forgeticaは、その形態によって脳に同じような働きをするよう促すので、フォントの特長の認識できないとか、視覚的なリズムの欠如とか、わかりにくい、読みづらいとか、そういうデザイン上の欠陥……失礼、意図と相まって読者に、より慎重にテキストを読むことを強要するという……これはスタンフォード大のRobert A. Bjork教授によると、「望ましい難しさ」として知られる原則に基づいていて、より深いレベルの情報処理を展開するのに役立つ云々……と理屈はまぁ、こういうことらしい、つまり、本はもっとちゃんと時間をかけて読んでください……というわけ。慣れ親しんだものとは若干違うもの……違和感みたいなものにぶちあたると、脳はそれを処理するためにより多くの努力を払う必要が発生するので、その結果として、記憶の定着をより強固にする効果が生まれるだろう……ということを期待する……というのがそのアンサーだ。

さらには、読書時間が増える事によって情報を吸収するのにより多くの時間が必要になって、必然、考える時間が長くなり、結果、理解が進むという効果があるというわけだ。実際RMITで学生400人をモルモットにした結果、 Arialで読んだ場合と比較して、記憶の定着率が50%だったものが57%になって7%もアップ! これは効果テキメンって……まぁ、こういう主張をしているんだが、なんか、どうにも疑似科学っぽい話だ。普通にアンダーラインや太字のほうがマシなんじゃないか? 記憶力を高めるためになぜ苛ッとさせる必要がある? ジョン・クリーズ ? それとも古屋雄作なの? っていうわかりにくい突っ込みはともかく。まぁ、確かに、人間の記憶なんていい加減なもんで昨日なに食べたかすら思い出せないくせに、何十年も前の楽しかった思い出とか、嫌なこととかは、ついさっきの出来事のように思い出せる。たいていは思い出したくないようなことのほうが多くて七転八倒することになるので思い出さないようにはしてはいるんだが、そんな感じで、記憶のレコードに何かを刻みつけようと思ったら、まぁなるべくそういう感じにしたほうがいいというわけだ。そのぶん脳漿にザクザク傷が付いて……あまり健康というか精神衛生上よろしくないような感じにはなるかもしれないけど……健康気にして酒なんか飲めるかバーローっ!……て、いや、アルコールの過剰摂取は脳細胞にあまりよろしくないみたいなんだけどね。


それはともかく、そういうわけで、楽しい思い出というよりは、むしろ脳をザクザク痛めつけて忘れないようにするために、わざわざ読みづらくイラつく書体を作りました。どうです読みにくいでしょう皆さん……という話。


だけどね、だいたい、そんなこと言い出したら、軽度の識字障害持ちはみんな記憶力強者になってしまう。まぁ、ちょっと前にテレビでもやっていた競技カルタの男の子のいい話みたいなことも、あることはあるので、あながちNOともいえないんだけれど、あれは、まぁ、どっちかっていうと本人の意欲と努力の結果だよなぁ。ありなしでいえば、ないにこしたことはないのだが、いや、何が言いたいのだかだんだんわからなくなってきたので、それはともかく、意欲もなければ努力もしたくない駄目なオレみたいな人間にそれをされても嫌がらせにしかならないし、むしろ学習意欲を阻害するような方向にしか意識が向かわない。「こんなもん読んでられるか! ばかやろ〜」ってね。さらに言えば朗文堂じゃないがどんな文字でも慣れなんだから、慣れちゃえば、もうそこに「望ましい難しさ」は生まれないんじゃないかと愚考するわけですよ、もう。こういう一見科学的アプローチにみえるけど一周回っておかしなこといってるぞっていう話にすぐ感化されちゃう頭のいい人達の脳味噌はいったいどういうふうに働いているんだか……そっちのほうが不思議。こんな、イライラするような文字で教育受けたら、アルコールの過剰摂取以上に精神病むような気がするよ……ホント。

もっとも、そういう反応は、本人達もわかってはいるようで、レイモンド・ゴッド・ローウィの言葉を引用して「Most Advanced Yet Acceptable」だなんて嘯いてるみたいだけど、いや、どうなんだろう? それは……神の言葉を曲解してる……どころか意味が正反対になってるような気がするよ……不敬通り越してむしろ不信心。神託の使い方間違ってる気がするんだけど? 

Sans Forgeticaにさらされた脳の変化がどうなるかを調べる研究は、始まったばかりということらしいのでモルモットにされている優秀な学生たちにはご愁傷様としかいいようがない。むしろ、これで精神病んで一周回って虐殺器官……違った、虐殺フォントの出来上がりということにでもなれば……まぁ、文字の違いで人間性格変わるとか、何そのガーメンツ。バリントン・J・ベイリーなの? フォントの観念子にそこまでの力があれば本当にSFだ……と、良いんだけど……それは、それで、まぁ、ともかく、本当に、謹んでお悔やみ申し上げますとともに、心からご冥福を御祈り致します……って、死んじゃったよ境部さん!



さて本題。で、まぁここ、この場所で、わざわざ「読みづらいように設計しました」と大声で胸を張るならこういうコンセプト。というわけで制作しましたのがタイトル画像のこの書体。名付けてSingle Image Random Dot Stereogram Helvetica (シングル・イメージ・ランダム・ドット・ステレオグラム・ヘルベチカ)略してSIRDS Helveticaだ。その名の通りヘルベチカをベースにフォントが全てステレオグラム化しているという驚異のフォントだ。読みづらいどころか普通に見るともはや只のノイズにしか見えないのだが、眼球の筋肉に負担をかけて正しく距離を合わせると文字が文字通り浮かび上がってくるという、ワンダーな仕掛けが施してある。

ステレオグラムというのは、日本語にすると立体視というのだけれど、今ではステレオグラムのほうが一般的に通じやすいかも知れない。特別なメガネを使ったり、右目と左目用の2画像を用意する必要があったりするのだけれど、よってらっしゃい見てらっしゃいで、見世物小屋に置いてある2枚のそっくりに描いた絵画や写真の前に板を置いて左右それぞれの眼で別々に覗くことになるので絵が立体に飛び出して見えてあら不思議という感じで、こういう平面の画像が立体にとびだして見える効果というのは、かなり昔から知られてはいたらしいが、19世紀にイギリスの科学者がこれを理論化してカンや経験に頼らなくてもキチンと簡単に作成する方法がわかった……という。で、その方法とは……っていうこの手の技術的なお話は、Google先生にお願い。

それで、まぁ、なんというか、こういう立体視というかステレオグラムは何年かに一度といった具合で、突然思い出したようにブームが再来したりするというのがお約束……みたいなんだよね。ちょっと昔に子供だった人は雑誌の付録についてくる赤と緑のパラフィンの眼鏡で見ると2色でズレて印刷されている画像からドラえもんやらウルトラ怪獣が飛び出して見えたりするのとか、なんかそんなかんじのやつ覚えてる人もいるかもしれないけど、最近では技術も進歩して、VRメガネで臨場感もバッチリ! 特に、もう子供には見せられない方面では大活躍なんだが……おいちゃんは大人だから見てもいいよね? 

まぁ、その、オーディオヴィジュアルじゃないほうのアダルトな話はともかくとして、作例のフォントのような立体視はシングル・イメージ・ランダム・ドット・ステレオグラムという。その名の通り単一画像で、しかも特別なメガネを使ったりしないで3次元画像を見ることが出来るという立体視のことだ。裸眼立体視とかそういう言い方もされたりする。器具を使わないのでその分見るためにはちょっとしたコツがいる。簡単に説明すると見えているモノにピントを合わせるんじゃ無く、そのちょっと手前か、少し奥にピントが合うように眼球の筋肉を絞っていくんだが、まぁ、慣れてしまえばそんなに難しくはない。自転車乗るのと一緒。なので、当然の事ながら、どうしてもうまく乗れない人も、もちろん一定数存在する。できないから即障碍ということにはならない……と、思う。まぁ気になるなら、くよくよするよりお医者さんに相談した方が良い。で、この辺の詳しいやりかたも、ここでグダグダ始めるよりはGoogle先生に聞いてもらった方がいい。

さてさて、で、そのランダムドットによるステレオグラムの起源なんだけど、これは1960年頃のアメリカのBela Julesz博士の発明に遡り、1970年に日本人のデザイナーによって最初の単一画像でのステレオグラムが作成された……といわれているのだが、この辺も勿論うろ覚え。ちゃんと出典を確認しようと思ったら……またググれないパターンだこれも。あと、同じ70年代の中頃にスイスの前衛芸術家でアクションアートとかスピンアートで有名なアルフォンス・シリング……あぁ〜スピンアートっていうのは、回転する画板にペイントして絵を描くというヤツで、ご家庭でもレコードプレーヤがあれば簡単にチャレンジできる。子供も喜ぶし、実に愉しい。76回転するオヤジのレコードをクレヨンまみれにしてケラケラ笑ってたら……いや、こういう話をしだすと、またいつもの如く話があさっての方向に向かって飛んでいく……で、あ〜っと、何だっけ、あ、そう、その画家のシリングの作品にもそんなのがあったっていう話。え? それだけ? いや、ほら、前衛芸術とか説明始めるとまた長くなるから……ただ、まぁ、RDSに対しての貢献度合いというかビジュアリティの衝撃的なところにアルフォンス・シリングの影響は大きかったんじゃないかなぁと個人的には感じてはいる……んだけどね。どうだろう? で、まあその後もコンピュータの発展に伴って、思い出したようにポコポコと流行り出す。90年代に流行したMagic Eyeとか、そのパチモンみたいなのとか、見るだけで眼が良くなる本…だったっけ、もう書名もうろ覚えだしググる気も無いが、たまごっち覚えてる人なら記憶の片隅くらいには残ってない? え? 今でも出てる? あ〜、そういえば去年だったっけ、ってこういう書き方するとどっちの去年だかわかんなくなるけどあっちの去年にMagic Eye 25 Anniversaryみたいなタイトルの本が出てて、おいおいもうそんなに昔の話だったっけって……いや、まぁ、そんな話はどうでもいいや。え〜っと、何だっけ、なんか、まぁ、そんな感じのやつ……で、最近でもスマホのアプリなんかにステレオグラムで視力回復みたいなものまであるので……まぁそういうところ。で、この文字も、いつもの書体をこのフォントに替えて文章を読むだけで視力回復!……ん〜、なんか開運広告かインチキな健康グッズの売り文句似にしか聞こえないぞ……まぁ、でも、そんな感じ……これなら読むだけでオツムをザクザク傷つけるSans Forgeticaよりはマシな気がしない?……え、ダメ? しかし、どうせRMITは日本語の雑言なんか読まねぇだろうな〜と過信して公共の場で言いたい放題。バイトテロほどじゃないとは思うけど、ほんと酷いなオレ……。

ランダムドットステレオグラム化のアルゴリズムはtechmind.orgに基づいている。というか、techmind.orgからライセンスされたライセンスされたアルゴリズムをつかったMac用のシェアウェアステレオグラムプログラムを利用して作成した。あと、作っておいて言うのも何だが、ほんとうにまったく役に立たない。うまく見えるサイズの巾が限られている。基本ドットが命なのであまり小さくしすぎると本当になんだかわからなくなる。苦労して読み解いた結果、たいした事が書いてないと本当にイラッとする。フォント化してあるので好きな文章を打ち込めるのはいいのだが、その所為で文字と文字の間に要らない垂直線が浮いて見えるのはどうよ? また、文字自体は立体化しなかったのでフォントが紙で切ったみたいにペラッと1枚浮いてみえるだけというのもなかなかに間抜けだ。どこが3Dやねん。あと、眼を外したたあとも瞳の奥がチカチカする。本当に視力回復に役立つのかコレ? アルファベットと数字、それから、いくつかの従属文字しか作っていないのにファイルサイズが馬鹿みたいにデカい。そのせいでフォント選択しただけで固まる。ヒント処理がまったく……あ、いや、ここの解説だけで、もう、ものすごく長くなるのでアレだけど、何だろう……とりあえずホントになにやってんだろうなオレ……って気になる。これはこれで頭おかしくするかも……毎回碌でもないコトしかしてないけど今回はそれにマシマシでろくでなし感満載。満艦飾。いや、ホントこれ思いついたときカラーステレオグラムからのカラーフォント化カラーなのにカラーの意味が無い」なんでやねん。ってネタでオチをつけようかとも考えていたんだけど……う〜ん。この辺、ホントに、裸眼立体視をちゃんと理解してから手を出すべきなんだよな……。



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