禍話リライト 怪談手帖『ルドンの沼の花』
十年ほど前。Aさんが四十代の頃の、ある夏の話だという。
厄介な大きな仕事が片付いて、週の終わり、彼は久しぶりに図書館へと赴いた。
鮮やかな印刷でピカピカに光る新刊や幾つかの雑誌を漁った後、のびのびとした気持ちが高じて、普段赴かない『美術』の棚へ足を運んだ。
「……あのぅ、取引相手が西洋の画家が好きって話してたんですよ。
で、その人の話し方が上手くって。なんかすごく魅力的だったんで……」
背表紙を眺めながら無作為に選んだ大盤の画集で、知らない画家の絵を眺めるのはなかなか面