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余寒の怪談手帖 リライト集

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怪談手帖が大好きすぎて〈未満〉も含め、色々な方のリライトをまとめてしまいました。 原作者・余寒様の制作された書籍、「禍話叢書・壱 余寒の怪談帖」「禍話叢書・弐 余寒の怪談帖 二」…
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2021年1月の記事一覧

禍話「面霊気」

 今ではかなりご高齢の、ある人の子供の頃の思い出である。  彼女の家には喋るお面がいたという。玩具などではない、それ自体はただの木彫りの古めかしいお面。見た目としては能などで使われる翁の面をもっと誇張した笑い顔にさせたような造形だったらしい。  それが言葉を発するのである。  先程、喋るお面が「あった」ではなく「いた」と書いたのは、彼女によるとそのお面 ―― 彼女は“そいつ”と呼んだ ―― が、まるで家の一員のように振る舞っていたからだ。父、母、祖父母、彼女、そして“そ

禍話リライト「河童」(怪談手帳より)

F君のお祖父さんから聞いた話だ。 お祖父さんの家の側に、O淵と呼ばれる場所がある。そこには河童が出る、という。 しかし、そんな話はお祖父さんが子どものころにはもう昔話として扱われていた。水が汚れているわけではないが、淵という場所は突然深くなることもある。だから、水難にあった子どもが出ると河童のしわざということにして、淵に近寄らせないようにしたのかもしれない。 お祖父さんも河童を見たことはないという。ただ、一度だけおかしなことがあったそうだ。 蝉しぐれ降る夏のある日のことだっ