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読書記録|『見えない都市』

フビライ汗の統治する元の国。
マルコ・ポーロは、彼が旅をする中で遭遇した数多の都市を、フビライ汗に語って聞かせる。

ある都市では、前の日の残り滓はすべて葬り去られ、日々新しく造り変えられる。ごみは都市の外へと運ばれて、うず高く積み上がり、いつ崩れるともわからない。しかし、都市はなお、ごみを吐き出しつづける。(「連続都市1」)

またある都市は、調和をもたらすようにと占星術師が綿密に計算したとおりに建設された。しかし、都市には不具の者ばかりが生まれる。占星術師らは、彼らの計算は全く意味を成さなかったと認めるか、あるいは、その状況こそが秩序ある世界と認めるか、その岐路に立たされている。(「都市と空4」)

マルコ・ポーロが語るのは、そんな、どこかに存在するかもしれない都市の数々。それらは、空想的でありながら、我々がよく知る現代の都市でもあるようで。

都市の内部を歩んでいくように読み進めていくと、次第に都市が意思を持った有機的なものに思えてくる。実際は、都市を作り上げたのは人間たちだし、そのシステムだって彼ら自身が構築したものなのだけれど。  

フビライ汗は彼の報告のなかに、自らのつくり上げてきた国が、そして都市が、いずれ崩れ落ちる運命にあることを見たという。そんなフビライ汗が予見した未は、いずれ私たちの都市にも起こりうる可能性なのかもしれない。人の生み出した都市が、逆に人を飲み込んでしまうかのように。  

この、崩壊へと向かう地獄のような時を苦しまずにいる方法として、マルコ・ポーロは次の2つを挙げる。

第一のものは多くの人々には容易いものでございます、すなわち地獄を受け容れその一部となってそれが目に入らなくなるようになることでございます。

第二は危険なものであり不断の注意と明敏さを要求いたします。すなわち地獄のただ中にあってなおだれが、また何が地獄ではないか努めて見分けられるようになり、それを永続させ、それに拡がりを与えることができるようになることでございます。

どちらを選ぶか、それはきっと私たち自身にも迫られている選択なのだろう。


『見えない都市』イタロ・カルヴィーノ(河出文庫)

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