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読書記録|『ぼくのおじさん』

自分の子どもの頃、"おじさん"というのはどんな存在だったっけ。

ときどき遊びに来ては旅行のお土産をくれたり、好きな本の話を聞いてくれたり、身内ではあるけれど普段の日常の外側から来る人、そんな印象だった。おじさんが遊びに来る日にはいつもよりちょっといいおやつが出されるなんていう恩恵もあり、それなりにたのしみなことだったように思う。

でも、おじさんがいつも自分の家にいて、日がな一日ゴロゴロしていたら?

雪男くんのおじさんは、週に8時間だけ大学の非常勤講師をしている。お金がないので雪男くんの家に居候し、たいがいはマンガを読んだり夢想にふけったり、〈タヌキがおなかをすかして気を失う寸前のよう〉に過ごしている。もちろん、お土産なんてくれたことはない。

そんなおじさんの生態は、小学生の雪男くんにとって興味深い観察対象だ。
何しろ、海外に行こうと志してウイスキーとコーラとフウセンガムとチョコレートの懸賞に本気で応募しようと考えるおじさんなのだ。子どもながらにしっかりした雪男くんとの対比で、余計におじさんの斜め上の行動が際立つ。身近にいたらはた迷惑にちがいないけれど、興味の方が勝ってしまうせいか、なんだか憎めないおじさんだ。

もともと児童書として書かれたもので、気軽に読めてユーモアたっぷりな作品。


『ぼくのおじさん』北杜夫(新潮文庫)

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