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目には見えない
本当に大切なものは目に見えないと、小さな小さな王子さまは言った。星の王子さまに出会ったのは小学生の頃。五年生頃だったかな。岩波の函入り布張りの立派な本は、今もわたしの手元にある。
有名なあのセリフは、初読したときのわたしには大して響かなかったように思う。目に見えない大切なものに気づけるほどには、まだその頃のわたしはマセてはいなかった。自分の内側に潜り言語化し始めた頃で、ただひたすらに意識は内に内に向いていた。外側、それもすぐそばにある目に見えない大切なものなんて、見つめようともしていなかった。
◇
大切なものも目に見えないけれど、本当のところも目には見えない。
開けっぴろげに見えるあの人もあの人も、すべてをさらけ出しているわけではない。それはわたしも同じだ。
見えぬ場所に潜む病巣には気づいてもらえないように、痛みも悩みも苦しみも、ひとは衣服で覆いかぶせて気づかせないようにする。
身に纏い見えぬようにするのは、生きていくため、でもある。見ぬふりをするほうが、時に見つめるよりも簡単だから。見つめてみたところで、何かが変わるわけでもないから。他人からも自分からも隠して、なかったことにする。見えないものは、ないのと同じ。
……だといいのだけれど、そうは問屋が卸さない。ときどき、シクシク痛む中身が主張する。放ったままだと綺麗に治らないよと主張する。でも、放っておけば何となくは癒えるから、今を過ごすために放置する。正しいのかは、わからない。
◇
何も言わなくなってからのほうがやばいんだよと言ったのは誰だったっけ。友達だったかもしれないし、父親だったかもしれない。おぼろげだ。
何も言わなくなるのか言えなくなるのかはわからない。言わないほうがいいのかもしれないし、言えたほうがいいのかもしれない。それもわからない。ケースバイケースでもあるしね。
へらへらと笑って、目の前のことに取り組んで、食べたいものを食べて、倒れこむようにして眠る。その繰り返しで今日が明日になるのなら、今はそれでもいいのでしょう。
ひとまずは、ゆらゆらとひとり進んでいる。流れに押されながらかもしれないけれど、わたしの意思もそこにある。それでじゅうぶん、それがたいせつ。
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