見出し画像

【日常スケッチ 】朝6時半前、新宿

朝6時過ぎの山手線は、すでに乗客でいっぱいだ。人の尊厳とは……と問いたくなる殺人的ラッシュ時と比べるとどうってことない混み具合だけれども、座席は満席。朝早くから仕事に向かう人がこんなにいるんだなあ、なんて思いながら、わたしもまた仕事に向かっている。

師走も折り返し地点目前のこの時期の6時の空は、朝と夜とが入り混じる。家を出たときには濃紺一色だった空は淡いブルーに変わり、ビルの合間に見え隠れする東側の空の下側は、ほのかにオレンジ色に染まる。オレンジから白、そしてブルー。電車は進み、空の色も刻々と変わる。朝や夕方の空は時間の流れが見えて、それが昔から好きだ。

時間といえば、朝夕が教える時間は一日の時間だけではない。駅まで行くタクシーのなか、運転手と「まるで夜ですね」と話した。めっきり夜が長くなった。冬至も近い。

家を出た5時15分頃には満月に近い形で光り輝いていた月も、いつのまにかどこかに消えてしまった。電車から見える空は狭く、すでに沈んだのか見えないだけなのかはわからなかった。

画像1

電車は新宿駅ホームに滑り込む。この時間の降車はまだ楽だ。勢いよく吐き出されることなく、自分の足でホームに出た。グラデーションの空は見えない。今日は季節外れのあたたかな日になるらしい。朝の気温も心なしか過ごしやすく、空気は頰を突き刺さず、目を覚ます程度の冷たさだった。西口を出た電光掲示板に記された気温は10度。やっぱりあたたかい。

画像2

銀杏はまだまだ黄色く、気温も相まって秋の様相だ。慌ただしさが歩道を覆う9時前とは異なり、行き交う人たちの足取りはまだ少し遅い。足元で落ち葉が立てる軽やかな音に気づけるくらいには、余裕があった。

画像3

息を吸う。吐く。細胞が一つひとつ目覚めていく。

息を吸う。吐く。空はもう、すっかり水色に染まっていた。

お読みいただきありがとうございます。サポートいただけました暁には、金銭に直結しない創作・書きたいことを書き続ける励みにさせていただきます。