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スイート16              多層世界の別バージョン第2回             スカートパラシユート


ウニョウニョ

2023年6月11日 16:07


「先生、照明がチカチカして落ち着いて授業が受けられません。」

ここはセレン達が通うATO中学校。ちょっと曇り空の午後。天井の照明がチカチカしてて生徒から不満の声が上がった。
「なんとかして。」って。
女性教師は申し訳なさそうに生徒に謝った。
「ごめんなさいね。この間、中国の修理屋さんに頼んだけど、なかなか来てくれないの。」

体格のいい生徒がちょっと反抗的に言った
「ただの古いEL灯でしょ。なんで修理できないの。」

教師はさらにもうしわけなさそうに
「部品が全然手に入らないらしいの、今ではこの国は何も作ってないんだから。なにもかも輸入しなくちゃいけないの。」
修理してくれる人もいないの。

そのやりとりに我慢ができなくなってセレンが立ち上がって言った。
「わたし、見てみます。」
先生は助かったのと困ったことになったというなんともいえない表情を見せた。
「ああ、あなたなら何とかしちゃうかも知れないわね。でも天井は高いし電気は危険よ。」

セレンはまかしといてといわんばかりで
「机の上に大賀君が馬乗りになって、私それに登るから。」
ローファーを脱ぎながらセレンがてきぱきと男の子たちに指示し始めた
「盛田君と井深君は机が倒れないようにしっかり支えてて。でもね。」
セレンは人指し指を口の近くに当てて約束のポーズをした。
「絶対に上を見上げちゃだめよ。スカートの中が丸見えになっちゃうから。」
それを聞いて男子連中がざわついたけど、ほかの女子たちが制した。
「そうよ、男子は絶対約束を守ってよ。」男子たちは、わかったよ王女様とか言いながら机をがっちりと抑えた。
お転婆娘は、教室の備品の工具セットを抱えて戸惑う男の子たちの上にひょいと乗ってすぐに照明を分解しだした。

先生は何か起こったらたいへんなことになると、おろおろするばかり
「セレンちゃん。気をつけてね。ほんと気をつけてね。」

「こんなの簡単よ。ライトはまだ茶色い帯が見えなかったから劣化していない、
それならコンデンサかトランスの不良、もしくは接触不良。」とかつぶやいてると、
下になってる大賀君が「おーーい、まだかよ、お前重たいよ。」
「失礼ね。レディに重たいなんて。もうすぐ照明の傘がはずれるから、もうちょっとの辛抱よ。」
「辛抱じゃないだろ、好きな子が上にのっかってくれてるんだ、御褒美だろ。」支えてる2人がちゃかす。
「るせーー。」顔を真っ赤にして大賀君が怒る。

そのときセレンがつい「あーー。」と大声をあげてしまった。

そんな声をだしてしまったら緊張の糸がきれてしまう。男の子たちはなにがあったのかと見上げてしまった。
そこには白い天国があった。

「トランス焦げてる。」夢中で照明器具の中をのぞきこんでるセレンに他の女の子たちが注意した。
「セレンちゃん。男の子たちが上見てる。」
「いっ。」下を見たセレンと男の子たちの目線があった。「いやーーー。」
おもわずスカートをおさえてしまったので、先ほど切ったばかりのトランスからの高電荷を帯びた線が男の子たちを直撃した
「うぎゃーーー。」一気に天国から地獄に落とされた3人はもんどり打って重なり合って倒れた。
そこに支えを失ったセレンが落ちてきた。スカートをパラシュートにして。
パラシュートは3人の男の子をふわりと包んだ。

臨時ニュースです

政府はこの冬の食料・燃料不足を解消するために
ロシア政府と協議を重ねてきました。ロシアの協力により
ようやく今季のみの合意が得られたと発表しました。

労働者党の部田総理大臣の言葉です
「国民の皆さん喜んで下さい。今年の冬は越せそうです。暖かい部屋と美味しい食事が
今年はあります。だが、この国の将来は暗く厳しく苦しいものがあります。
国民の皆様が怠惰から立ち上がり働かない限り

たび重なる災害。そして人口は大幅に減り、産業も競争力を失い、国民は希望を見出せません。
しかしながら、ロシアはたった一年の猶予しか与えてくれませんでした。
この国が借款を返せなければ北海道は失われてしまいます。
生きていくために外国に担保として渡してしまった九州や四国のように外国になってしまいます。
あの美しい土地を失わないためには国民は働かなくてはなりません
知恵をしぼり汗をかいて外貨を嫁せがなければ国土が無くなってしまいます。」

この発表を受け野党自民党では早速抗議の会見を行いました。
「まさしく現政権は無能の極み。経済政策にも外交にも失敗し
国民から国土を奪い外国に差し出すとはまさに売国奴である。
元々ロシアとの協議は北海道民が厳しい冬を越すために検討されたことである。
それなのにその地を担保にするとは本末転倒である。

この上は北海道の抵抗勢力に協力して国土を守るしかない。」

しかし、その抵抗勢力を除いて大多数の国民は日々の生活に追われ
冷めた無関心しかなかった。もう人口は全盛期の半分しかなく
苦しんで国土を維持する気概もなく今日を生きていくのに精いっぱいで
来年のことどころかどうやって明日を迎えるのかすら考えられなかった。

もうこの国は年老いた。かつて世界中を支配した大英帝国は
今では金融大国に変貌したように。かつて世界の警察だったアメリカが
今では農業大国に戻ってしまった。世界中がひきこもってしまった。

ではなぜこの国が今更産業革命の時代に戻って工場で油や塵肺にまみれて汗水たらして働かなければならないのか
怠惰を覚えてしまったこの国にはそれは無理なことだったのかもしれない
それならどうしたらよいのだろうか。
ロボット、さらなる機械化。人はやはり不要なのか。それなら人が生きていく場所も必要ないのか。 


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