人事が毎年4月行う新卒研修は、2つのポイントを抑えれば初頭効果は抜群だ

新卒の研修はめんどくさい

4月に人事が行う新卒研修は季節行事として多くの会社が実施していると思います。これが割とマンネリしがちで、期間のわりに手間がかかったり、なんならもう決まった期間を埋めるだけのものになったりしがちです。

各所で、
「つぎの新卒研修どうしましょう」
「まぁ前回と同じでいいんじゃない」
という会話が繰り広げられているかと思います。

わたしも、これまで10年以上新卒研修の講師をしたり、人事として新卒を受け入れてきてピタリと手ごたえを感じた経験はあまりありません。いまの私の結論は「人事の行う新卒研修は短ければ短いほど良い」ということとなっています。しかし、新卒の当人たちはキャリアのスタートでとても不安なものです。

そこで「できるだけ短い期間で新卒入社の面々に何を(主に研修の場で)伝達していけばいいのか」ということを来期の研修を考えるにあたり少し自分の整理のために書いておこうと思います。

人事の行う新卒研修の設計として二つの視点から整理してみます。
①その会社・事業環境で"とりあえず"使えるスキル・考え方をすりこむ
②本人が市場価値が上がっていると思えちゃうストーリーをすりこむ

この2つを抑えておけば、大体のところ何とかなると思っています。

①その会社・事業環境で"とりあえず"使えるスキル・考え方をすりこむ

私が新卒で入社した会社は組織人事のコンサルティングや研修をサービスとする会社でした。そこで徹底された教えは「礼儀礼節」でした。コンサルティングという商売柄、その人自身が「商品」となります。そのときのボスたちは新卒1年目の人たちにロジカルシンキングなどのスキルを教えることに否定的でした。その心は「経営者と話すのに、頭でっかちの若造が来たところで本当に信頼をされるのか?されないだろう」という考え方でした。ですので、まずは「誰からも嫌われない」ために礼儀礼節を叩き込もうとしたわけです。もともと礼儀礼節など何も知らない私は、そのあと礼儀礼節(その動作と考え方)に多くの場面で助けられることになります。

まだまだ私が若手社員だったある日のこと。ある会社のプロジェクトの会議の終わりのあとに、食事にいくことになりました。食事に行くメンバーはクライアント先の経営者、管理職数名、私の上司、そして私というメンツです。出張先でしたので、会議後にホテルによって荷物を置いて、1時間後に駅で待ち合わせというスケジュールでした。礼儀礼節の中でも「時間の徹底」を叩き込まれた私は、30分前には、待ち合わせ場所に行くことにしました。ちなにに、私の上司は元甲子園球児でした。

約束の30分前、待ち合わせ場所につくと、まだ誰も来ていません。まず1番乗りをとれたのは、なかなかの動きです。その5分後、元甲子園球児な上司が来ました。「おつかれ」と一言。「もうお前来てたんか、早いな」とかはありません。彼の中で30分前が普通なのです。

その5分後、クライアント先の経営者が到着します。まだ待ち合わせには20分以上あります。経営者からは「お疲れ様です。うわー早いなあ」と感心したような感想を受け取ります。そして、約束時間の10分前になって、クライアント先の管理職数名が到着。これにて、食事会に行くことになりました。

食事の席でも「100%場に気を使いながらも気を使っていないそぶりを見せ、本音でしゃべる」ことに神経をとがらせます。食事の席の私はコンサルタントというか、洗礼されたサービスパーソンでした(なお、これとは別に、元甲子園球児な上司は会食の前には「立ち食いソバを食うべし」という教えを説いてくれました。お腹が空くと食に夢中になってしまうからとのこと)。

食事が無事に終わったその帰り道。元甲子園球児な上司とタクシーで二人になったときに急にこんなことをつぶやきました。「待ち合わせに遅れない。たったこれだけのことなんだけどね、見てんの経営者は」「こいつに本当に仕事を任せられるのか。そのアンテナがすごいのよね、経営者って」と。

礼儀礼節になぜここまでうるさいんだろうと思っていた(怒られてばっかりの)私が納得できた瞬間でした。「前もって学習しておいてよかった」と腹から思えたのでした。たぶん、素のままで生きていたら5分前についておけばいいだろう、と思っていたと思います。食事の席でも、ごちそうを目の前にして自分がお腹一杯になることを優先していたと思います。

たった一回の待ち合わせと食事の話なので、それで万事うまくいくかというとそうではないのですが、小さな信頼を勝ち取ると会議の場などでの発言の影響力も変わってくるわけです。そういったことを見越しての元甲子園球児な上司のつぶやきだったと思っています。

これが私の新卒時に教えられたことでした。それは初頭効果として機能して、のちのちの三流コンサルタントとしてのキャリアの中でも役立つことになりました。

ここであげた「礼儀礼節」は一つの例でしかありません。IT業界でエンジニアを生業としている人に、礼儀礼節はそこまで優先順位が高いものではありません。「何が何でもビジネスマナーをやる」というビジネスマナー狂の人事担当者もいますが、それはあまりよくないのではないかと思うのです。重要なのはその会社経営・事業を推進し始めるにあたって、コアなスキルは何かを特定して「完璧でなくていいし、よくわかってなくてもいいので、さっきまで学生だった人が、とりあえずその動作をできる状態にもっていく」ということだと思っています。

②本人が市場価値が上がっていると思えちゃうストーリーをすりこむ

次に2つ目の話です。最近の新卒として入社してくる方たちは、とっても優秀だと思います。すでに自分でビジネスを持っている人はざらにいますし、何かの通過点として最初の会社を選ぶことなんて当たり前です。「会社の言うこと聞けないなら辞めていいよ」ということを年齢が高い人ほど平気で言いますが、それはそうなんだけど少し乱暴です。現在の労働市場の大きな流れや時代の価値観を読めていないとしかいいようがありません。結果として辞めてもいいのですが、人事から先制攻撃をする必要はありません。

そこで必要になってくるのが「この会社に関わると自分の市場価値があがる」と本人たちに認識をさせることです。

先のコンサル会社を辞めて転職をして人事をやっていた会社では「会社がいかに成長しているか」「それがどのくらい面白いか」ということをうまく伝える役員が多くいました。そして、働く一人一人も本当にそう思っていました。実際、会社はとても成長していましたし、業界でもブランドの価値が上がってきており、採用のレベルも高まっています。

「君たちと働けることはうれしい」「あとは成り上がってくれよな」。新卒研修で話をしてくれというと大体、そんなメッセージをストレートに送っていました。直接的に「ここで働けば市場価値が上がるよ」とは言いませんでしたが、そのストーリーを感じて「この会社で成長できる予感がするぞ」と思ってもらえればしめたものです。それは採用のブランディングからはじまり、選考での意味づけ、そして新卒研修と続くものなので、研修だけで担保することはできません。一連の流れの中で「抑え」の存在として研修は有効的な場であると考えています。

「元リクルートのホットペッパービューティーを立ち上げた人が世の中にはたくさんいる」という話をたまに聞きます。これは揶揄する文脈で使われることの多い話ですが、組織運営の観点から見ると実はすごいことなんじゃないかと思っています。ただの営業だった人(失礼)までもが、リクルートのストーリーに乗って「自分もホットペッパーを作ったんだ」と思っているということです。市場がどう評価するかは置いておいても、本人はそれが市場価値があると思っている。それが新卒に刷り込むべき初頭効果のストーリーです。

さて長くなってしまいましたが「①その会社・事業環境で"とりあえず"使えるスキル・考え方をすりこむ」「②本人が市場価値が上がっていると思えちゃうストーリーをすりこむ」大体この二つを最初に刷り込んでおけば、とりあえず自分の頭で最低限考えて、死なない状態が完成します。それさえ伝わればコンテンツは何でもいいと思います。それをできるだけ短い期間で毎年達成する。これが新卒研修でやるべき事柄だと思います。

そんなことを考えていたところ、来期の新卒研修は優秀な他のメンバーが担当してくれることとなりましたので、いつか使う日まで忘れないように書いておきました。

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