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冬の楽しみ。
冬はお鍋の季節。白菜は甘いし、牡蠣も旨い。牡蠣だけでいいくらいなのに、ちゃっかりは牡蠣が苦手でしゃぶしゃぶを要求するので、牡蠣としゃぶしゃぶのハーフ&ハーフ鍋である。
牡蠣といえば、思いだす人がいる。
以前働いていた職場のY部長である。
「uniくん、今日ご飯食べに行かへんか。Kさんも一緒にどうや。」
「いいですよ。何食べさせてくれるんですか?」
「あのな、新鮮な魚介類が旨い店があるんや。ほんでそこのマスターがな、マッチに似た男前なんや!」
新鮮な魚介類は嬉しいが、マッチに似た男前なマスターは怪しい気がする。
だいたいマッチが居酒屋のマスターになっている姿はあんまり想像できないではないか。
「まぁまぁ、いっぺんマッチ見て旨い魚食べたらいいやんか!」
Y部長がそう言うので面白半分で、派遣社員のKさんにも声をかけ、3人でマッチの店に向かったのだった。
「いらっしゃいませ!」
威勢のいい声が聞こえてきた。
声の主はマッチというより、渡辺正行さんという雰囲気のマスターであった。
「なっ!uniくん!マッチに似てるやろ!」
どんだけマッチ言うねん。渡辺正行やんか。心で突っ込みを入れまくったが、美味しい魚介類をご馳走してくださるのだ。黙って微笑むのが得策だろう。
「uniくん、Kくん、君ら生牡蠣がオススメや‼︎絶対間違いない!新鮮なんやから‼︎」
Y部長はしきりに生牡蠣を推してくる。
以前生牡蠣で食当たりしてから口にしたことはなく、絶対無理‼︎という心境である。
「Kさん、私生牡蠣でえらいことなってから食べたことないねん。どうしよう。部長しつこいし。新鮮やいうし。食べてみようかな。」
そうKさんに相談してみると、Kさんも全く私と同じだという。
2人でどうしたものやらと散々悩んだが、「とにかく新鮮なんや‼︎」を繰り返すY部長の勧めに、ええいままよ!と食べてみたのだ。
美味しいが、すごくミルキーとか、風味抜群というわけでもなく、もみじおろしとぽん酢の味を食べた感じであった。
「部長、私ら食べましたよ、生牡蠣。部長も食べないと!」
そう声をかけてみた。すると。
「僕、牡蠣食べられへんねん!」などと言いだすから何が何やらである。
そしてふと嫌な予感がよぎった。
ちょっと待って。この店私たち3人以外客がいない。あんまり流行っているとは思えない。場所は京橋の駅裏。マッチではなく、渡辺正行似のマスター1人で営業中。
なんかあかん感じしかしないではないか。おっさん、魚介類マジで新鮮か⁉︎あんた新鮮推ししながらほとんど食べてへんやん!ほんまに新鮮なんか⁉︎
あんまり美味しいとは思えない料理を食べ、早々に帰宅したのである。
翌朝気分が悪くて目覚めた。どうもおかしい。二日酔いとも違う。嫌なむかつきがこみあげ、嘔吐が止まらなくなった。嘔吐がおさまると今度は下痢。
食中毒や‼︎すぐにわかった。以前やったのと全く同じ症状である。
会社に電話し、事情を説明して休むと伝えると、なんとKさんも全く同じ症状で休むと連絡があったというではないか!
新鮮な魚介類が旨いマッチに似た男前なマスターの店というのは完全に詐欺であった。
2回も食当たりした生牡蠣は2度と食べないと思っていたが、その後今度は別の上司が本当に新鮮な魚介類のお店に連れて行ってくれた時、
「生牡蠣は2回当たったら抵抗ができてもう当たらへんねん。僕もそうやったんやけど人にそう聞いて3回目に挑戦してんけどな、ほんまにそれからはどうもなくなってん。旨い牡蠣を食べれるのは幸せやで!」
Y部長より信憑性がある話だと感じた私はなんと3度目の正直を信じて生牡蠣にチャレンジしたのだ。
結果、全く問題なかった。
それからは生牡蠣をバンバン食べても食当たりしたことはない。
おかげで冬の楽しみが増えた。
生牡蠣はやっぱり美味しい。
マッチに似てない渡辺正行似のマスターがやっているあんまり流行ってない店で、新鮮じゃない生牡蠣を食べて食中毒になったあの苦しみの2回目がなければ、この楽しみはなかったのかもしれない。
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