嘘つきとはったり屋の違いとは?
「嘘つきは泥棒のはじまり」などと言われるが、嘘をついたことのない人っているのだろうか?
私はある。
小さな頃「マンションサク」という、名前はマンションなのになぜか木造二階建てのアパート暮らしをしていた時期があった。
小学3年の頃までそこに住んでいたが、個性がきつい人々がたくさん住んでいたので、近くの戸建ての家に住む人たちは「サクマンションは怖い。」と言っていたらしい。
ちょうど3年生になった頃、戸建てに住むYちゃんという子と同じクラスになった。
この子がまたいけ好かない女の子で
「uniちゃんちはアパートやから、二階に部屋がないんやね〜‼︎」
などと毎日のように言ってくるのであった。
Yちゃんちは新築建売の一戸建てを購入したばかりで、アパート暮らしの私を馬鹿にしていたのだと思う。
ある日Yちゃんが突然言ったのだ。
「犬を飼いたいなぁ〜‼︎uniちゃんちは犬飼えないの〜?」
あまりにも腹が立った私は思わず
「ウチも犬飼うねん!」と言ってしまったのだった。
「えーっ!嘘〜っ!嘘ついたやろ!」
勝ち誇ったように言うYちゃんに対してもう一歩も引けなくなったのだから、本当にアホな子どもだと今なら笑えるが、当時の私にとっては「これは絶対負けられへん!」などと手に汗を握って思いつめていたのだった。
「お母さん!お願い!犬を飼わせて‼︎」
家に飛んで帰ってお願いしてみたのだ。
「uniちゃん、サクマンションは犬飼われへんやん。」
「なんで⁉︎下のお家は犬飼ってるやん!」
下に住む韓国人の家族が「クマ」と名付けた真っ黒な雑種を飼っていたのだった。当然規約違反だが、無視して飼っていたのでウチも飼ってもいいじゃないかと母に猛抗議したのである。
「とにかく無理なものは無理よ!」
どうしよう。このままでは嘘つきuniって言われてしまう!
ここで正直に母にことの経緯を話してワンワン泣いた私。
母は溜息をついていたが、「Yちゃんにはお母さんがやっぱりダメって言ったから飼えなくなってんって言いなさい。」と言われてしまった。
しかしあのYちゃんにそんなぶざまな姿を見せるのが悔しい。
「uniちゃん、犬まだ飼ってないの?」
Yちゃんはニヤニヤしながら毎日のように問いかけてきたが、動揺してはあかんと自分に言い聞かせ、しらっとした顔を装いながら
「うん。まだやねん。白い犬がいいなぁと思ってるねん。名前はハッピーって決めてるねん!」
ニッコリ笑って答えていたのだが、心の中は大パニックだった。
そんな矢先の週末の土曜日のことだった。ドリフの「8時だよ!全員集合!」を観てしばらくした頃、今は亡き伯母のさっちゃんが突然我が家を訪れた。
手には大きな箱を持っていて、中には真っ白な仔犬が入っていたのだから本当に驚いた。
「これは夢や!そんなことあるわけない‼︎」
何度も頬っぺたをつねったが、めちゃくちゃ痛いので夢ではないと納得した。
「さっちゃん!なんで⁉︎なんで白い犬がいてるん⁉︎」
そう言う私にさっちゃんは言った。
「あのね〜ウチの姪っ子が犬を飼いたいって言ってますねんって知り合いに言ってたらね、くれはったんよ!」
私はもう天にも昇る嬉しさだったが、母はカンカンである。
「とにかくuniちゃんは今日は寝なさい。明日ハッピーちゃんとゆっくり遊びなさい。」
そう言われて、明日からは毎日真っ白でふわふわ可愛い仔犬ハッピーと暮らせる幸せを噛み締めながら、何度もハッピーの頭を撫でまくり「明日またね、おやすみ〜‼︎」と言って眠りについたのだった。
ところが。
翌朝目覚めるとハッピーがいない。
ハッピーはいないが、さっちゃんが寝ているので間違いなく昨夜は仔犬ハッピーが我が家にやってきたはずである。
「お母さん!ハッピーは⁉︎なんでおらへんの⁉︎」
そう泣きながら母に訴えた。
「あのね、uniちゃん。ハッピーはお家では飼えないの。だからね、今朝、新聞配達のおじさんにね、誰か犬を欲しい人がいないかって訊ねたらね、おじさんの知り合いのお家が欲しがってるって言ってくれたから貰ってもらったの。本当にごめんね。」
「わぁ〜ん‼︎お母さんなんか嫌いや‼︎」
あのふわふわ柔らかな白い毛のハッピーを、一度はこの手に抱っこした記憶はあまりに生々しくて、愛おしくて、胸が張り裂けそうだった。
「犬を飼うねん!」
あんな嘘をついてしまった罰が当たったのか?
自分自身を責めながら、いや、ちがう。たったの一晩だったけれど間違いなくハッピーは我が家にやって来てくれて、私は犬を飼ったのだ!というおかしな安堵感も同時にやってきたのだから、何が何やらであった。
週明けの月曜日学校に行くと、Yちゃんが走ってきて言った。
「uniちゃん、犬買ってもらえたん?」
「うん!飼えたんやけどね、やっぱりウチのアパートでは飼ったらあかんらしくて、新聞配達のおじちゃんに貰ってもらったの!ハッピー、ふわふわで柔らかくて真っ白でほんまに可愛かった!Yちゃんにも抱っこさせてあげたかったわ!」
そう言うとYちゃんは大声で
「嘘ばっかり‼︎」と言った。
「嘘違うよ!ウチのお母さんに聞いてみたらいいわ!新聞配達のおじちゃんにも聞いていいよ‼︎」
強気に出れたのは、嘘じゃないのだ!本当にハッピーは我が家に来てくれたのだ!という事実があったからだと思う。
これをきっかけにYちゃんは犬のことは口にしなくなってくれたのだから、さっちゃんには感謝しなければならない。
そして姉のさっちゃんに、娘の私が白い仔犬を欲しがっていることを相談していたと思われる当時の母の気持ちを思うと、申し訳なく思う。
嘘は時に人を傷つけるが、自分や大切な家族を傷つけようとする者から守るためにつく「はったり」は、時に思わぬ方向に導いてくださることもあるのだ。
それにしても。
現代であれば、あの可愛いふわふわ柔らかな白い仔犬ハッピーとの記念写真をパシャっとiPhoneで撮影し、Yちゃんに見せてやれたのになぁなどと今さらながら残念でならない。
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