初心に帰る秋。
本日、以前所属していた書道会に出戻りを果たした。先ほどまで稽古場にいたのであるが興奮で胸の高鳴りは止まらない。
墨の香り、筆が走るサッサッという音。
自分一人で書いている時には感じない人の息遣いを感じ、迷う様子なんかを見ながら動かす筆はなんとも新鮮で嬉しい。
私がお世話になっていた亡き師匠の兄弟弟子だった方が新しい師になってくださることになった。
『ここはこうや!』『これはええ!』と私の書いたものを添削してくださる時の声かけの調子や筆の運び方など、あらゆる所作に亡き師匠の面影を見るようで、懐かしい気持ちが呼び起こされ感激である。
『どの程度やってたんや?』
『ブランクはどのくらいあった?』
『この会ではどの辺りで終了してた?』
稽古のあと、新しい師匠から様々な質問を受け、ひとつひとつ正直に答えていった。
『師範資格を習得するまで師匠に稽古をつけてもらいましたが、師匠が亡くなられた後は独学です。』
そう言うと新しい師匠は、あっ!という表情を見せた。
『ああ‼︎そんな話をあんたの師匠から聞かされたことがあったわ!そうか!わかったわかった。そしたらな、今日は来てはらへん先生と相談してな、あんたのこの会での等級をどこ辺りからはじめるか決めることにするからな。頑張りや。』
今日休まれていた先生というのがご高齢の大先生であられる方であるが、その先生と新しい師匠に全てを委ねることになった。
今日は月に一度の稽古後の茶話会を行う日だったそうで、様々なためになるお話をたくさん聞かせていただくこともできた。
展覧会部長もされておられる新しい師匠から聞かされる展覧会の現状は大変興味深かった。
個人でも団体戦でも、展覧会に出品する場合、どうすれば審査員にアピールできるのか、またどのような工夫が課題かなども教えていただいた。
そして審査員も歳を重ねると良い作品を見ても目に留めることをしなくなりがちなことを知った。目が肥えるとキラリと光るものを見抜くことをしづらくなることもあると。
だから古い作風だけではダメだ。斬新な作風も取り入れるべく筆を選ぶ目や使いこなすテクニックも大切。審査員に驚きを与える作品を目指す必要があることなどなど、私が知らないよその会派の躍進ぶりなどと併せて教えていただいた。
よその会派の学ぶべき良い所なども熱心に勉強されておられるようで、師匠から聞かされる生きた書の世界に圧倒されっぱなしであった。
私くらいの年齢になれば、一から教えていただくことにはなかなか出会えない。
知ったつもりでいることも、さらに深い知識と経験から教えていただけるということは滅多にないチャンスだと思う。
教わることの楽しさとワクワクする気持ちを取り戻せた私は相当ツイている。
知らない世界を知ることは人の心を童心に帰らせる。
書道を始めた8歳の頃に戻った気持ちで師匠からいただく手本を見ながら稽古することはなんと頼もしく嬉しいことか。
初心に帰れば顔の皺も伸びるかもしれない!などとアホなことも考えだす浮かれぶりである。
しかし気は心というではないか!
何はともあれ、そんな初心に帰していただけたことに感謝したい。
新しいことを知る喜び。それを幸運だと感じられる感性だけは生涯錆びさせたくはない。
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