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まる、さんかく、しかく。

今日は次女ちゃっかりの遠足弁当を作った。いつもよりちょっとだけ手間をかけてやり、気持ち長くおかずに火を通す。

旅先でお腹が痛くなったり、嘔吐したりすることがないようにほんの少しだけ時間をかけて仕上げるのは母譲りである。

私の母はお弁当作りが苦手な人だった。毎回念には念をいれすぎた結果、炭と化したタコさんだかカニさんだかの判別も困難な煎餅みたいな飾りウインナーとか、ガッチガチに火が通って箸が刺さらない唐揚げとか、娘の体調を心配しての愛が燃え盛ったお弁当であった。

しかし味付けは不味くないのと、れんこんの炊いたんは絶品だったことと、ウサギりんごが得意だったことが嬉しかった。

『火をしっかり入れとかな危ない!腐ったら大変‼︎』

こればかりを遠足弁当を作るたびに真剣な顔で言っていたのを思い出す。

小学校5年生の遠足の時だった。
美少女だがちょっと根性悪の、先生の一番のお気に入りだった女の子がものすごく豪華な美しいお弁当を持ってきていて、『流石お金持ちは違うなぁ。』と彼女のお弁当を羨ましく見つめていた私。

中身は彩り豊かな三色のサンドイッチ、唐揚げ、サンキストオレンジを美しく飾り切りしたものに、パセリの緑が添えられているお弁当で、ピカピカに輝くセンスの塊みたいな素晴らしい作品のようである。

私のお弁当は、手が大きな母が握りしめた俵むすびの変形版で見た目は長方形の堅結びが3つ、表面の焦げをとんかつソースを振りかけて誤魔化したジューシー感ゼロの堅焼きハンバーグ、赤いタコさんをリクエストしたはずがなぜか炭と化した煎餅みたいなウインナー、お弁当のレギュラーの卵焼きだけが堅くないのは巻きが甘いという何が何やらな黄色の塊、これだけは絶品のれんこんの炊いたんに、可愛く飾り切りされ、変色しないように塩水につけられていた少ししょっぱいウサギりんご。

見た目は完全に残念なお弁当だ。

『お母さんほんまヘタやからなぁ〜。』ちょっと落ち込みながらも味付けは良いのだからと自分に言い聞かせて食べた。

お弁当も食べ終わり、200円までオッケーな駄菓子を食べながらみんなでくつろいでいると、豪華弁当の美少女の顔がなんだかおかしいのに気がついた。

『あれ⁉︎どうしたの⁉︎』

みんなが心配して声をかけていると、あっという間に彼女の顔全体、首を地図のように浮き上がったじんましんが埋めつくしてしまったのである。

顔や首を掻きむしりながら、涙をボロボロ流す姿は、あまりにも痛々しくて可哀想であった。

担任の先生、保健の先生が大慌てで車に乗せて病院に連れて行かれてしまった。

翌日、担任の先生から話があったが、食中毒の一種だと診断されたと言っていた。

今の時代なら食物アレルギーの可能性も疑うのだろうが、当時はそんな診断をされていたようである。

『あぁ、サンドイッチもサンキストオレンジも美味しそうやったけど、お母さんがいつも言ってるように、火がちゃんと通ってなかったんやろか。』

そんなことを思った記憶が残っている。

ただいまー‼︎

ちゃっかりが帰ってきて、真っ先にお弁当箱を開けて、空っぽになっていることを知らせてくれた。これは毎度恒例の親孝行タイムである。

『あのね!すごいことがあったの‼︎』

『何があったん?』

『あのね、ちゃっかりの家のお弁当の卵焼きは丸だったでしょ?Mちゃんちは三角の卵焼きでね、Yちゃんちは四角の卵焼きだったの‼︎まる、さんかく、しかくでね‼︎みんなでビックリしたの‼︎』

まん丸お月さまみたいな顔を満面の笑みにしながら報告してくれた。

やはりお弁当の数だけお母さんの味や形があるのだな。卵焼きが丸かったり、三角だったり、四角だったり。

今日の卵焼きのエピソードは、ちゃっかりが大人になってもきっと忘れていないという予感がする。

#エッセイ

#cakesコンテスト


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