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C調男子とサスペンスおたく。

私の父はお調子者である。
軽い、テキトー、愛想良しであるから、やたらと人付き合いが広い。お洒落好きなので見た目からは60代に見られるが、現実は70代後半の後期高齢者である。

フットワークがやたら軽く、自転車で一駅先まで軽々と出掛けていく。

そうはいってもやはり耳は遠くなってきているし、目も悪いから遠出は心配だと母がこぼす。
私からも父に近場で遊ぶよう言ってもらえないかと頼まれたのだ。

「お父さん、あんまり遠くに出かけるの寒い季節やし心臓にもよくないんちゃう?近場で遊んだら?」

そう言ってみたのだ。

「そうやの〜、最近、朝集まる朝マックのメンバーも1人死んだし、1人は入院中やし。行くとこてどこがあるかの〜」

図書館に本を読みに行っていたが、そこでも仲良しさんができ、図書館ではなく朝マックに集合する楽しみも見つけていたようである。

「そしたら午前中は朝マックの代わりに本でも読んだら?昼からはカラオケか囲碁に行ってるんやろ?」

「そうなんや!また新曲が出たから覚えなあかんし!」

退職後はカラオケを趣味にし、新しい曲を覚えるだの、楽譜からメロディーを読んで心情を表現しなあかんだのと没頭しているのだ。

「じゃあさ、地域の高齢者クラブのカラオケとかも行ったらいいんちゃう?近いし。」

するとさっさと申し込みをしに行き、高齢者クラブのカラオケメンバー登録を済ませてしまったのである。

「uniちゃん!お父さん高齢者クラブのカラオケメンバーになってからお母さん近所の人からずっと声かけられてかなわんの!」

また母がボヤキだした。

「いやいや、あなたが近場を勧めてっていうから、高齢者クラブのカラオケ勧めたんやんけど!何かあったん?」

「お父さんあの調子やろ。歌が上手い!プロ並みや!マイクの持ち方、歌い方が普通の人違う‼︎って絶賛されてるみたいで調子乗ってるねん!近所中に歌手並みとかいう話が回ってるみたいで!お母さんはあのうるさいカラオケの練習されるだけでも迷惑やのに!」

父がC調男子なら母はといえば「サスペンスドラマおたく」なのだ。

昔の火曜サスペンス劇場やら土曜ワイド劇場の再放送を観ることが何よりの楽しみ。船越さんや渡瀬さんを見てニヤつく姿を何度も目撃している。

おたくは自ら外に出て行かずとも満足、C調は外に出て行かなければ耐えられない。まったく噛み合うことがない夫婦で何が何やらである。

父に聞いてみたところ。

「みんな夫婦同伴でカラオケを楽しんどるから、おまえも一緒に行こか?って誘っても、イラン!言うんや。あんなテレビ好きなやつとは知らなんだ!」

やつして、熱唱して、人気者。

ボヤいて、サスペンス観て、引きこもり。

どちらが良い老後かと言われたら、C調人生の方が楽しそうではある。

長い仕事人生を送ってきた父は、老後になって地域との付き合いを楽しみ、長く地域にかかわり専業主婦だった母は、子どもたちが巣立った後は解放されたかのように関わりを減らしたようだ。

人間同じことばかりでは飽きる。
やっていないことを回収せねば勿体無くて死ねないのかも。

考えてみると、ダラダラテレビを観て寛ぐ母の姿を家にいる頃は見たことがなかった。

サスペンスドラマおたくは、母のやりたかったことの一つなのかもしれない。

しかし。

C調男子は昔から基本姿勢にブレがないのには、やれやれである。

#エッセイ

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