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研究会にて。

本日は所属会派の研修会に参加した。

木簡を学ぶのが目的である。

紙がない時代に、木に文字を書いたのだという。

木簡の書体は起筆がとにかく独特で、かなり苦戦したのである。

午前10時から午後16時まで。1時間の休憩を取っても5時間ひたすら木簡を臨書するのは体力を消耗する。

今回の研修会は総勢40名ほどの参加だったが、教授クラス以上の手練ればかり。

私など子ども状態である。

「完全に浮いてるやん……。」

泣きそうになりながら必死で書き続けた。

「雲泉、ちょいちょい休憩しいや。ずっと集中してたら疲れるぞ。」

師匠が心配そうに声をかけてくださったのだから、私は相当追い詰められた顔をしていたのだと思う。

今回師匠に声をかけられ、この研修会に参加することになったのであるが、講師も毎日書道展で受賞するような大御所なので、ともかくハハーッと皆がひれ伏す雰囲気なのがわかる。

そしてその講師というのが、亡くなった先代の師匠の従兄弟だというのだから本当に不思議な巡り合わせである。

顔や体格は似ていないが、話し方、笑い方、言葉の訛り方などが亡くなった師匠と似ていた。

私は全然書けず、どうしたものやらとジタバタしていたが、最後に今日一番の作品を自分で選べと言われた。

選んだ一枚を前に貼り出すことになった。

綺麗に書くな、手本どおりに書くな、先生の手本ではなく、原書を見て書け。

そう言われると緊張する。

形に拘りだすと小さく纏まりすぎるし、オリジナルでいこうと強引にいくと線は乱れ、形は崩れ、もう見てらんない!って状態になる。

最後の最後に「ええいままよ!」と開き直って書いたものを提出することにした。

今日一日やってみてどうだったか?と講師が質問をすると言いだした。

3人に質問すると言い、最後の1人として私が「それではあなた。」と静かにあてられてしまった。

「まったく書けませんでしたが、よい勉強になりました。」

焦りながら返事をしていると、現在の師匠が声をあげた。

「◯さんとこの子ですねん。」

亡くなった師匠が手掛けたのだということを伝えてくださったのである。

「えー!」

「ほぉ〜!」

会場からはどよめきが起こり、私は冷や汗が出てくる。

やっぱり亡くなった師匠は本当に素晴らしい書道家だったのだ。

亡くなった師匠の従兄弟だという講師は深く頷き、「そうでしたか。あなたの字はどれだった?」と今日一番として貼り出した書を見ながら言った。

「右側の一番上です。」

「始めてにしては十分弾けてますなぁ!」

そう仰りニコニコ笑ってくださったので会場から大きな拍手を贈られ、大変恐縮であった。

先ほど家に帰りつき、道具の片付けをしていると、一枚の半紙がパラリと落ちた。

「あれ?先生がくださったお手本かな?」

手にとってじっくり眺める。

いや、違う。今日は先生の手本は一枚も頂いていない。

あれ?これは!

最後に張り出した「今日一番の作品」であった。

どう見ても私の字には見えない。

「えっ!これuniさんの字⁈一文字目と三文字目がどう見ても別人の字‼︎」

JKドカ弁が叫んだ。

そしてまた、今月の墨象を書いてみたと講師が仰っていた「継」の書は、どっからどう見ても私が書いたまだ未提出の作品に瓜二つだったのも本気で驚き、思わず鳥肌が立った。

「おねえ、頑張っとるやないか‼︎」

亡くなった師匠の声が聞こえた気がする。今日はその存在をものすごく身近に感じた。

まさか私の手を持って書いてやしないでしょうね⁉︎

見えない手を私に貸してくださっているのを感じるのだ。

私にとって大切な人物と巡り合うように、亡くなった師匠がご縁を呼び寄せてくださっているとしか思えない。

師匠、絶対に頑張り抜いてみせます!

思わず手を合わせた雨のお彼岸である。

今日一番の字です。

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