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ひま蛙 童話

ある晴れた日のことです。
暇で暇でたまらないカエルがおりました。
昼間っからごろごろ寝っころがっては、何にもすることがないとため息をついています。
カエルの住んでいる水辺は涼しくて、食べ物にも蓄えがありました。
カエルは何にもすることがないし、何もしたくありませんでした。

「暇だなぁ」

そのときでした。
池の中から大きな音がするではありませんか。
カエルはびっくりして、池のほうを見つめました。
すると、ごぼごぼごぼごぼと池のまんなかに何かが動いています。
カエルはおもむろに立ち上がって、目をこらしました。

ごぼごぼ、ごぼごぼごぼ

音は大きくなります。
カエルはおっかながって、近くの葉っぱの裏にかくれました。
葉っぱの間から、池のほうを覗きます。

ごぼごぼ!ごぼごぼごぼ!

次の瞬間、池のなかから、手の平くらいの大きさの石が出てきたではありませんか。

石は平べったくて、黒光しています。
池の真ん中で、その石は空中に浮いていました。ゆっくりと、独楽のようにくるくる回っています。

カエルは不思議そうにその石を見つめていました。
すると、今まで黒色だった石は鏡のように光はじめました。

カエルは不思議そうにその石を覗いて、ことの顛末を見守りました。

次の瞬間、赤い三角印が石に浮かび上がりました。

カエルはよけい石のことが気になりました。

カエルは池のなかに飛び込んで、すいすいと平泳ぎして石に近づきました。

石はカエルの手に収まる、ちょうどいい大きさでした。
カエルはそっと手を伸ばして、石に触ってみました。
すると、石には不思議な映像が流れだしました。

「ぶんぶんハロー」

何やら、はぎりのよい鳴き声が聞こます。

カエルはその石を手にとって、じっと見つめました。
その石には、別のかえるに映っていました。
かえるはびっくりしましたが、石に映るかえるの話を聞いているうちに、これはおもしろいかもしれないと思うようになりました。

カエルは石を抱えて陸に戻りました。

歩きながら石を見つめます。
次から次に、かえるの動画が流れていきます。

かえるは自分が暇であることも忘れて動画を見続けました。

夏の暑さは和らぎ、蝉の鳴き声も聞こえなくなりました。

かえるは一日中、石を見ながらごろごろしています。

「今年は冬眠をするんじゃなくて石を見てようかな」

なんて考えながら、かえるは石を眺めています。

カエルさんの贅沢な暇は、全て石に吸い取られてしまいましたとさ。

おしまい