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詩ことばの森(178)「蔵の中」

蔵の中

なつかしい故郷の家にいくと
欅の巨木のそばに古い蔵があって
白壁がところどころ削れて土が覗いていた

若い頃の祖父が勉強していたという
窓のない闇ばかりの空間で
いったい何を学んでいたのだろう

一度だけ蔵の中に入ったことがあった
真っ暗と思い込んでいたのだが
灯り取りの窓があって
意外にも明るかったのを覚えている

光の射した床から
埃が舞い上がるのを眺めていたら
農家の若い三男の 密かな野望が
空へ空へと
立ち昇っていくのだった

(森雪拾)

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