詩ことばの森⑫「百合」
わたしは、よく考えごとをしながら歩いています。考えごとをしている時、人の目の色は暗くなる、と何かで読んだことがあります。知人が見ていて、「暗い顔して歩いていた」なんて言われてしまい、反省したことがあります。その後も、なかなか癖はなおらず、やはり考えごとをして歩いていましたら、真っ白な百合の花が咲いているのを見つけました。その美しさの前に、わたしはしばらく立ち止まりました。その瞬間は、考えごとも中止し、すっきりした気持ちになりました。わたしの目も、おそらく明るくなっていたのではないでしょうか。百合の詩が生まれたのは、そんな出来事がきっかけだったように思います。
百合
浜辺には風のすきまから
ささやくような花の純白
波のおもかげさがしもとめて
顔をのぞかせている
無駄なことと知りながら
くりかえすためらいとか
とまどいとかすべて水へ
ながしてしまったかのよう
せいいっぱいせのびして
ほそい茎のおれるほどに
空をとおくみつめながら
いつか痛みさえ忘れていた
やがてくちてゆく土に
ひとしれず咲いた花は
まばたくたびしたたりおちる
昼の星のなみだのよう
まよいなく白いばかりに
すべてうつしだされる鏡
みにくさいきづらさ
かくせぬほど見透かされる
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