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「知識は人間を豊かにする」 ハルヒコさんの道

ハルヒコさんの持っている資格は数え切れない。
気象予報士、防災士、調理師、危険物取扱者、総合旅行業務取扱管理者、大型自動車、大型自動二輪、船舶1級、ダイブマスター、小型マリンエンジン整備士、中学・高校教諭(社会科)、ツリークライミングファシリテーターetc…
加えて競技ヨットを高校時代から続けていて、現在も外洋ヨットレースのナビゲーターをしている。
これだけを聞くとさぞやアグレッシブな力強いキャラクターを想像するかもしれないが、実際のハルヒコさんは全く違う。

東京都世田谷区。日本のど真ん中で生まれたハルヒコさんは小さい頃からどこか老成したような雰囲気を持っていた。お気に入りのおもちゃを奪われても、怒ること無く別のおもちゃで遊んだ。小学生の頃には、ボーイスカウトで自然の中で生きる力を学んだ。高校で競技ヨットを始め、強豪校でみんなが殺気立っていてもどこか一人のんびりした雰囲気をまとっていた。京都の大学に通い、勝手に他の大学の講義を受けたり、片っ端から本を読み漁ったり。世の中がバブルで浮かれている頃に、すでにエコバッグやグリーンコンシューマーの話をしていた。

今の言葉で言うならば、きっと彼は人間10回目、人間のエキスパートである。ハルヒコさんはまるで僧侶のようになぜか人を安心させる雰囲気を持っている。

大学を卒業しユースホステル協会で働いていたころ、ヨットで南太平洋を1周するクルーを探している、と聞きつけ、仕事を辞めて参加した。
元々社会生活や人間関係に煩わしさを感じていたハルヒコさんにとって、海の上の生活は性に合った。どこまでも続く水平線、太陽や星の動きで時間や季節を感じる世界。陸に近づくと鳥が教えてくれる。
インターネットの普及していない90年代の南太平洋の小さな島々はまだまだ素朴で、モノも資源も限られていた。定期船がほとんど来ない絶海の孤島では、現金ではなくタバコが貴重な物々交換の対価だった。
島の子供たちに言葉を教わり、島の人たちと同じものを飲み食べる。そこかしこにバナナがたわわに実っていても個人所有という概念がない島、欲しいと思った人が自由に取って食べてよい。
そんな個性的で原始的な島々の営みは、ハルヒコさんには心地よいものだった。半年ほどそんな生活を続け陸へと戻る。

陸上生活で最初に居ついたのはサイパン。改めて見るとなんてことない素朴な南の島だが、着いた当初は大都会に見えて落ち着かなかった。
まず車が怖い。これまで海上で隣を通過するものといえば稀に出会う船や島影だけ。それも水平線から出てきて通って消えるまで丸一日くらいかかる。陸の時間は早すぎた。
スーパーに行けばお肉も魚も野菜もすぐに買えた。でもしばらくは魚を釣ったり、パンの実や果物を取って食べる方が気持ちが落ち着いた。

サイパンで陸上生活のリハビリをしたのち、日本に戻って気象予報士の資格を取ったのは、就職に役立てたいと言うよりは純粋なる好奇心からだった。
海の上で暮らしたハルヒコさんにとって海や空はとても身近なものだった。興味がある分野の知識を深め、学びのゴールを設定するために資格を取る。資格取得はある種の趣味のようなものである。
そうやって年々資格は増えつつある。知識は人間を豊かにする。そう信じているので学びは楽しい。

サトミさんと出会い、彼女の生き方を尊重し旅や引っ越しを重ねても、ハルヒコさんの居場所はどこでもすぐに見つかった。
その穏やかな風貌、幅広い知識はいつどんなところでも重宝される。
何かを追い求めて旅を続けるサトミさんとは異なり、ハルヒコさんはどんな場所でもそこでできる楽しみを見つけられる。だからどこへ移動しようとさほど気にはならず、サトミさんの行動を面白がっている。

若い時から白髪の多かったハルヒコさんは、いつも年齢よりも随分上に見られることが多かった。そして最近やっと年齢が追いついてきた。

屋久島の森で自然を聴く

ハルヒコさんはどこでも生きていける。
未曾有の大災害が間近に迫っていると言われている現在、彼の自然に対する経験と知識はとても貴重だ。本当は複雑な人間関係より、シンプルに自然や動物に向き合う方が性に合う。
けれどたくさんある、自分を豊かにしてくれた知識を他の人に伝えることは嫌いではない。 日常をちょっと豊かにする知識や遊びを提供したり、安全や減災に繋がる情報を発信したり。新たな拠点となる佐賀県武雄市の宿で、ただ泊まるだけではない、彼の知識や楽しみを人と分かち合えるのもハルヒコさんのこれからの楽しみである。


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