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公衆トイレを、トイレ美術館という美しい場所に変える

写真①

今回の記事は、以前に実施した「トイレ美術館」という社会実験の話です。
なぜ11年前の話を書きたくなったのかというと、コロナによる自粛や不安が蔓延する中、自分は新しいことを考えることを忘れていないか、挑戦への意欲は弱っていないか、ということを自問したかったからです。
3密により、トイレのあり方も変化が問われていると感じています。次のトイレを考える上でも、これまでの挑戦と課題を整理するために書いてみます。

今から11年前の2009年、私たちは世界初(たぶん)の挑戦をしました。
それは「トイレ美術館」です。これは私たちにとって、壮大な社会実験でした。

「???」ですよね。失礼しました。

どういうことかというと、町なかにある公衆トイレって、汚い、くさい、暗いなどのマイナスイメージの象徴のような存在だと思います。

ですが、トイレの新築当初はきれいだったのに、時が経てば老朽化してネガティブな状態になる場合が多いと思います。
快適な空間にするには、もちろん、設備の改修や清掃の徹底が必要です。
これに加えてもう1つ大事なことがあります。
それは、きれいに使うことです。

そこで、私たちは考えました。「汚い、くさい、暗い」の真逆にある空間とは何かを。

その答えの一つとして浮かび上がったのが「美術館」です。
美術館の雰囲気を思い浮かべてください。きれい、空気が澄んでいる、あかるい、品がある、、、などではないでしょうか?

そうであれば、「トイレ」と「美術館」を掛け合せたら、トイレの雰囲気が変わり、みんながきれいに使ってくれるかもしれません。そんな仮説を立てたのです。

世界初のトイレ美術館としてふさわしい場所がどこかを、いろいろ考えた結果、出てきたのが表参道ヒルズ横の公衆トイレです。そもそも、表参道ヒルズの横に公衆トイレがあるなんて知らない方がほとんどだと思います。ですが、今度、行く機会があればぜひ見てください(現在はトイレ美術館はやっていませんよ)。ヒルズの横には、渋谷区が設置した公衆トイレがあります。
表参道と言えば、イルミネーションもされる、お洒落なストリートの代表です(よね??)。「表参道に世界初のトイレ美術館ができたらいいね!」そんな思いでこの企画はすすみました。

名称は「表参道トイレ美術館」です。

写真②

では、表参道トイレ美術館とは一体どのような内容なのかを説明します。

もともとというか、建物の用途は公衆トイレですので、それは変わりません。簡単に言うと「アートが飾ってあるトイレ」です。

通常の公衆トイレに、アートを飾ることで美術館のようにしてしまうという意味です。そうすることで、公衆トイレのマイナスイメージを払拭し、品がある空間に変わり、トイレを思わずきれいに使ってしまうことを促す仕掛けです。
この企画にご協力いただいたアーティストは次の8名です。当時も今も感謝しかありません。なお、並河進さん、田中偉一郎さんには、この企画の立案から、コピー、アートディレクション、設営などなど、全面的にサポートいただきました。

<アーティスト>
日比野克彦、ひびのこづえ、小林紀晴、大橋陽山、新見文、古谷萌、並河進、田中偉一郎(順不同)

2009年11月7日と8日の2日間、トイレを大切に使おうという気持ちを込めた日本トイレ研究所のスローガン「トイレに、愛を。」をテーマに、8名のアーティストがトイレ内に作品を展示することで、“表参道トイレ美術館”が実現しました。

そのときの状況を簡単にまとめたレポートはこちらです。


結果は、2日間の合計来館者数3,314人で大盛況でした。
この2日間、トイレ美術館前では、道行く多くの人が振り向いたり、写真を撮ったり、笑ったり、驚いたり・・・普段は気にもされない公衆トイレが大きな注目を集め、多くの方々に来館して頂くことができました(来館と言いましたが、見学されたのか、トイレを使われたのかは分かりません)。

グラフ

188名から寄せられた来館者アンケートの内容を分類すると、今回の取り組みを「支持する」は 79.8%、「どちらかというと支持」は 13.3%、「支持しない」は 5.9%でした。
「支持する」の内訳として、“美術館という発想が良い”という意見が最も多く、次いで“作品の支持”“表参道トイレへの支持”という内容でした。

おおむね賛成ということでほっとしましたし、この2日間は、トイレがとてもきれいに使われたことが印象に残っています。普段であれば、ごみが置かれがちだったのですが、ほとんどありませんでした。

一方で、表参道トイレ美術館を開館する際に、課題になったことがあります。それは、本物のアートを置くかどうかです。盗難されたり、壊されたりしたらどうする?という問題です。場所がトイレだけに、ずっと管理することは困難です。この対策として、レプリカなどを展示するという案も出ました。
そこで、この件について、すべてのアーティストに率直に相談しました。

驚くべきことに、全員からの回答は「本物でいこう!」です。

このとき、アーティストの方々の心意気とチャレンジ精神の強さに衝撃を受けたことを憶えています。この思いが来館者(トイレ利用者)にも届き、幸いにもトラブルはありませんでした。本当にありがたいことです。トイレをつくる人、管理する人、アートをつくる人、トイレを使う人のコラボレーションです。

ですが、トラブルが絶対に起きないということは保証できないので、今後どこかで実施する際は、工夫が必要です。また、表参道トイレ美術館につづく、第二弾が出来ていないことも課題です。

トイレというのは、そのまち、その施設の品格をあらわします。だからこそ、提供する人と使う人が協力しあうことが不可欠で、こころやすらぐ空間的価値や時間的価値が求められていると思います。

トイレ美術館、またどこかで開催したいなぁと思っています。

#公衆トイレ

#トイレ美術館

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