この時代に、革のブックカバーを開発したのは「誰もが作りやすかった」から。
世の中に、多くのモノが溢れている時代。それでもなお、私たちUNROOF(アンルーフ)が商品を生み出していく理由。それは、私たちの商品が広がれば広がるほど、社会に希望が広がっていく、と信じているから。商品開発の裏側を赤裸々に語るシリーズ「#UNROOFのものづくり」。
今回はUNROOFの代表的な商品となりつつある「あらゆる厚みに調整できる」ブックカバーの誕生について。本を読む手段として、電子書籍が広がる中、紙の本のために使用するブックカバーを、いま、なぜ開発したのか。そんな商品開発の裏側について。
|人が違えば、個性も違うという当たり前
いきなりブックカバーの開発話から話が逸れてしまいますが、開発に欠かせない、UNROOFの姿をご紹介させていただきます。UNROOFでは工房全体の約8割の方が発達障害、身体障害、精神障害のある革職人です。ブックカバーが正式に商品化するまで、UNROOFではお財布や、名刺入れ、キーケースなど、20工程以上ある商品がほとんどでした。革小物製品の初心者の方では、革職人として活躍できるようになるまで、1年以上の育成期間が必要でした。
UNROOFの多くのメンバーは入社するまで革小物を製作するときに使用する工業用ミシンを触ったことがないため、ゼロから革小物の作り方を教え、革職人として育成していきます。
「障害」と一言にいっても様々な障害があり、発達障害の中の、一つ、ADHD(注意欠陥多動性障害)、をとってみても、たとえ同じ診断名であっても、人が違えばその人のもつ個性はもちろん異なります。過集中傾向があり、20も30もある工程を集中力をもって一気に作り上げるメンバーもいれば、多動傾向が強く、周りに気をとられてしまい、20以上の工程があるとなかなか先に進めないということもあります。
また、障害の影響や特性上、メンタル面でのアップダウンがあったり、気候や気温、疲れの溜まり具合で体調面のアップダウンもあり、毎日同じパフォーマンスで働くことが難しいこともあります。
もちろん自分たちでていくビジネスで、毎日同じパフォーマンスではなく、終わっているはずの工程までが終わっていない、ということが起こるのは非常にハラハラしてしまうのも事実です。そんな時、つい早く生産することを職人に促してしまうのが通常かと思いますが、私は無理してでも、周りに合わせる必要はないと思っています。人が違えば基準も違う。そんなことは当たり前でも、経済活動のうえでの基準がバラバラだと困ってしまいますし、その基準からあまりにかけ離れてたパフォーマンスになってしまっていると、「あの人はダメだ」というレッテルを貼ってしまうのは違う。
人間、そんなときもあるよね、とその人自身と向き合い、何を、どうしたら、どこまでの基準までいけるのかという期待と、そしてその人自身がどこまでいきたいと思っているのか、お互いを理解しながら生産基準を決めていく、ということを大事にしています。
|条件をクリアしたのがブックカバーだった
UNROOFがものづくりする上で大切にしているのは「その商品1点1点ごとのこだわり」です。生産している立場になると、今日も明日も「同じアイテム」となりがちですが、ご注文いただいた方へお届けできるのはその中の1点。その方が数ある商品の中からUNROOFの商品を選んでくださった、その1点だけです。時間をかけて、こだわり抜いて作った商品、それが何時間かかって出来上がる商品でも、お客様が一生大事にしてくださる時間を思えば、生産している時間自体は一瞬であり、とても尊い時間だと思っています。なので、UNROOFでは「生産性」という言葉は職人の生産活動に向けるのではなく、なるべく商品を開発するときにだけ使う言葉にするように心がけています。(これがなかなか難しい・・・!)
そうして、突き詰めてできあがった商品が、ブックカバーでした。商品開発をするときの最初の条件は、生産性を重視するため、【工程が少なく】【なるべく平面である】こと。そして、【初心者の方でもすぐに製産に関わることができる】ことでした。UNROOFは単に革工房を運営しているのではなく、事業そもそもの目的は誰もが働きやすい職場としてのあり方を探り、自立できる道筋をみつけること。そのため初心者の方でもしっかり働きながら生産できる、というのは非常に重要なポイントで、それこそが「生産性」を決める大事な要素だと思っています。
そして次に考えたのは、平面のアイテムということ。平面のアイテムで、かつアイテム自体がもっているポテンシャルや販売価格のイメージを考え、複数の候補の中から、最終的にブックカバーや手帳カバーのようなステーショナリーシリーズのラインナップができあがってきました。
|ブックカバーの可能性に賭けて
ブックカバーというアイテムは読書を楽しむ人が愛用しているアイテムで、書籍自体の価格は決まっているけれど、その本を守るためのアイテムにいくら払うかは自由です。より素敵な時間を過ごそうと思えば、その想いに見合った商品を選びますし、より長く使っていきたい、と思えばそんな想いを叶えてくれる商品を探すのではないか。そして、私たちが作り出す商品が、そんな願いを叶えられる商品であれば、手に取っていただけるのはず、と思いました。
ブックカバーというアイテム自体は世の中にたくさんあり、また電子書籍がでてきてから紙の本は廃れているような印象も受けていました。しかし、その一方でただ単純に紙の本の人が電子書籍に移行したというよりも、電子書籍で読書をする機会が増えた、だけで、むしろ紙の本を愛する読書家たちは熱を増していったのではないかと思います。
そこでアイテムとしてはブックカバーを作るぞ、と決め、ブックカバーの商品開発がはじまりました。単なるブックカバーでは私たちがあえて作る必要もなければ、今更作ったところで、正直選んでいただける自信もありませんでした。今の時代に、ブックカバーを作るのであれば、圧倒的に読み心地がいいもの、そしてブックカバーの弱点を潰せる商品にしなければ、と。
ブックカバーの最大の弱点は、なんといっても”対応できる厚みが決まってしまっている”こと。そして書籍出版側はそんな都合はお構いなしに様々な厚みの本を出版します。そのため、平均値をとりにいくブックカバーが多く、結局どの本にもいまいちフィットしないブックカバーが世の中に溢れていました。
実はUNROOFでも、厚み調整の方法として主流となっていた片側を折り込むタイプを作っていたのですが、折った箇所が跡になってしまい、読んでいるときに片方だけが膨んでしまい、どんどん使いづらくなっていく、という本末転倒な商品がありました。(下写真)
このブックカバーの形は必ず改善しなければいけない、という使命感もあり、やっっっと完成したのが、このセパレート型の「あらゆる厚みに調整できる」ブックカバーです。
シンプルだからこそ難しい。シンプルだからこそ見えてしまう、縫製の丁寧さやコバ処理などの細かい部分はUNROOFの職人が得意とする部分です。そんな手仕事をしっかりと受け止めてくれる商品設計をしていく中で、2つのパーツに分かれてしまっても、それぞれを一つのアイテムとして仕上げる完成度の高さには自信がありました。
もちろん、従来の形のブックカバーよりも一手間はかかりますが、かけるべき一手間だと思ってこの形でリリースしました。初めはこの稀有な形のブックカバーが読書好きの方にどのように受け入れてもらえるか心配だったのですが、「厚みの調整ができる」という利点をしっかりと感じていただき、手に取っていただける機会が徐々に増えてきました。ありがたいことに、東京都内の書店さんでもお取り扱いをいただいており、UNROOF初のオフライン販売も実現しました。
|だから、作り続ける
UNROOFの商品は、時代だけに合わせた商品開発ではなく、マーケットインでも、プロダクトアウトというほどのものでもないかもしれません。でも私たちがもっている"人"という尊い資源をしっかり活かしていく商品開発をしていく必要があると思っています。
アイテムそのものがもつ可能性、そしてUNROOFならではのいくつもの条件をクリアしていくこと。口でいうほど簡単なことではない。それでも、私たちが作り出すからこそ意味がある商品、そしてUNROOFの商品が広がれば広がるほど社会に希望が満ちていくことを、願って。今日も明日も、これからもものづくりを通して一人ひとりの雇用、そして自立できる社会への一歩を歩み続けます。
:UNROOF事業代表 岡
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