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【感想】読書感想文「世界の終わりのためのミステリ」_非実在女子大生、空清水紗織の感想Vol.0033

「Q.人はなぜ、謎に惹かれるのか?」
「A.知ることは、生き残ることとイコールだから」

人間の意識を半永久的に持続可能な人工身体にコピーしたヒューマノイド=〈カティス〉が生まれた近未来。
〈カティス〉の女性・ミチが目覚めると、世界から人類は消失していた。
搭載された〈安全機構〉により自殺はできず、誰もいない世界で孤独な時間を生き続けることに絶望していた彼女は、少年の姿をした〈カティス〉のアミと出会う。
〈人類消失の謎〉の解決を目指すと語る彼に誘われ、ミチは失われた人間の頃の記憶と永遠に続く時間を生き続ける意味を探す旅を始める────。

人類が消失した終末世界を、人類の残骸=ヒューマノイドのふたりが旅する、最果ての〈日常の謎〉。
日本推理作家協会賞受賞作家が、人間が〈生き続ける意味〉を問う終末旅行ミステリ!

[新刊案内] 2023.06.09 | 世界の終わりのためのミステリ | 星海社
https://www.seikaisha.co.jp/information/2023/06/09-post-sekaowa.html

あーーーー好き。
舞台設定も、キャラ造形も、お話も、全部好き。
終末世界で旅する話って、なんでこんなにワクワクするんだろう。
テイストは異なるけれど、美少女ゲームの「はるまで、くるる。」も世界が終わった後のお話で楽しかった。
こういう系が好きなんだな、私。

自身の失われた記憶を取り戻したいミチと、世界が終わった謎を知りたい阿見。
それぞれの目的を叶えるべく旅をしながら、その道中で生き残ったカティスと出会っていく。
構成としてはこんな感じ。

・第一話〈江ノ島スーサイドカフェ〉:この世界や、カティスの仕様説明、そして世界はなぜ滅びたのか、ミチは何者なのかという問題提起

・第二話〈かくれんぼメテオライト〉:家族愛、そしてカティスとして生き続ける意味への懊悩

・第三話〈新宿シンギュラリティ〉:カティスとAIの差異、そこに生まれる愛情、そして自己理解

・第四話〈別離エアポート〉:カティス同士の愛、そして他者理解への進展

他人のことが怖く、知ろうとしなかったミチが、少しずつ他者を知ろうと踏み出し、それが自己理解に繋がっていく様が感動的だ。
私も内向的で、周りの目線を怖く感じてしまいがち。
そして、本書を読んだからと言って、明日から他人を知るための努力がすぐにできるかといえば、それは難しい。
けれど、ミチが一歩踏み出してくれたこと、他者を知ろうとすることで未来が拓ける可能性が提示されたことは、私には救いのように思える。
ミチのようになれる未来が、もしかしたらあるのかもしれない、そんな淡い期待を持たせてくれる。

世界の謎が知りたかったのに、身近にいたミチのことは知ろうしなかった阿見が、最終的にはミチとの距離を詰める判断をしたのも微笑ましい。
自分を知ること、世界を知ること、その一助になるのは他者を知ることなのではないか――
少し大仰に思える命題が、本書では軽やかに頭に入ってくる。

二人の旅の続きが読みたい。
続編、期待しています。


余談。
巻末の、星海社FICTIONSさんの広告で「天アンカット」について記載があった。
偶然、この広告とは別経由で、そのような製本手法があることを知ったタイミングだったので「あぁ、この本もそうなのか!」という感動があった。
確かに直近読んだ「幽霊列車とこんぺい糖 新装版」もそうだったし、数年前に読んだ「魔女の愛し仔」もそうだった。
手元にある星海社文庫さんのフェノメノシリーズも「天アンカット」だった。

私が気付いていないだけで、色々なものに作り手の思いが込められているんだなあ、それをもっと感じ取れるようになりたいなあ、ということを思った一冊にもなりました。

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