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【感想】読書感想文「幽霊列車とこんぺい糖 新装版」_非実在女子大生、空清水紗織の感想Vol.0030

この“夏”をきっと忘れない。
絶望を生きる少女たちの、ひと夏の甘き死と再生の物語。
百合小説の傑作と名高い富士見ミステリー文庫発の青春ミステリー、待望の復刊!

寂れた無人駅のホーム。
こんぺい糖。ひまわり畑。
そして、あの廃棄車両。
リガヤという名の、不思議な彼女を連想させる四大要素。
思えばそこから、あたしの夏は始まった。
飛び込み自殺をするはずのローカル線が廃線となり、生理不順で味覚障害な中学二年生・有賀海幸の保険金自殺計画はムダになってしまった。
途方に暮れる彼女は、タガログ語で“幸せ”を意味する名を名乗る年上の少女・リガヤと出会う。
「ボクがこいつを『幽霊鉄道』として、甦らせてみせる!」
謎めいた彼女は、廃棄列車の復活と自殺志願者の海幸に〈死〉を与えることを誓うのだった。
海幸とリガヤの、忘れられない夏が始まる。

[新刊案内] 2023.06.09 | 幽霊列車とこんぺい糖 新装版 | 星海社
https://www.seikaisha.co.jp/information/2023/06/09-post-yuurei.html

ネタバレあり感想。

死にたい少女 海幸と、生命力に満ち溢れた少女 リガヤが出会う物語。
ボーイ・ミーツ・ガールならぬ、ガール・ミーツ・ガール。

百合作品は「やがて君になる」ぐらいしか触れていないので、百合の文脈の中での立ち位置とかは分からない。
ただ、純粋に美しいなと感じた。
海幸とリガヤ、二人でしか織りなせない夏のドラマ。
痛々しくて、瑞々しくて、目が離せないお話だった。

実際の映画が登場し、それをモチーフとした描写が多い。
なので、精神が病んでいく様がパラレルで分かりやすい。
本当は広いはずの世界が、どうしたって狭く感じることってあるし、その狭い暮らしの中で、どんどんと気分が沈んでいくのも分かる。
ここら辺の描写がリアルで、自分の過去もフラッシュバックしてきそうになるぐらい。

でも、海幸は生まれ変わった。
自分よりも死に近づいている人を前にして、ちゃんと踏み止まれる子で良かったなあと思う。
そしてリガヤと、互いの舌先でこんぺい糖を転がしたときに、味覚障害の海幸が甘さを感じるシーンで、一気に報われたなと感じた。
リガヤにとっては、姉の死と切っても切れない行為だったけれど、それを海幸と行うことで、今度は生きることと結びつくことになる。
死の象徴だった行為が、二人にとっての生の象徴として上書きされる、まさに再生の物語。

ラスト、二人がひまわり畑を見ながら終わるのも、締めくくりとして凄く素敵。
リガヤは序盤でこんな風に言っていた。

太陽か月、どちらかを選べといわれたら、そりゃあ人は太陽を選ぶだろう。

P82

二人とも、自身のことは月、つまり選ばれない方だと思っていたけれど、最終的にはお互いのことを太陽だと思い、そしてお互いのことを選んでいる。
太陽を象徴するひまわりに見守られながら、二人で新しい道を一緒に歩きだすなんて、なんだか感動的だ。
この先も、お互いのことを選び続ける二人であってほしいなあ。

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