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【バトンインタビュー長崎市編②】 宿とアンティーク着物で長崎を盛り上げる「長崎かがみや」のおかみ 市原ゆかりさん

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 どのように「まち」を自分ごととして捉え、何に価値を見出して取り組んでいるのだろうー。そんな疑問を、長崎と佐世保を中心に信念を持って活動する人にぶつけ、価値観を探るバトンインタビュー。
 第2回の長崎市編は、本河内1丁目にゲストハウスとアンティーク着物のレンタル事業を展開している「長崎かがみや」のおかみ、市原ゆかりさん。紹介してくださったアルマスゲストハウスのオーナー、瀬川たかこさん(前回の記事)とまちのことについて語り合うことも。これまでアンティーク着物での撮影会や、80人超で浴衣を着て市中心部を歩くイベントなどを仕掛けてきた。その原動力は「長崎が好きで、長崎のために何かしたい」という熱い思いだった。

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 福岡県出身。10代の頃からなぜか長崎が好きで、免許を取って初めて出かける場所に選んだり、稲佐山まで初日の出を見に行ったりした。中でも、長崎の路地裏が好きで、その先に何があるか探検したくなる風景に魅了されていた。地元の短期大を卒業後、イベント会社に就職。出張で全国を飛び回ったが、長崎は特別。何度訪れても恋焦がれる存在だった。
 20代の頃は仕事か、旅かの生活。長期の休みが取れてはアジアに旅に出かけた。見知らぬおばちゃんに気前よくお酒を奢ってもらったり、値段交渉で折り合いがつかなかったり…。一番記憶に残っているのがゲストハウスでの人との出会い。世界中から訪れた宿泊客と夜を明かすほど語り合った。
 長崎市出身の旦那さんと結婚してからも頻繁に旅に出かけた。将来は2人とも脱サラし、長崎でゲストハウスを開きたいと考えていた。

 「昔は文化を敬ったり、歴史を学んだりすることに興味がなかった」と言い切る市原さん。そんな価値観を変えたきっかけが、着物だった。
 結婚後に赴任した愛媛県で、古い建物で古い着物を着る体験会があり、初めてアンティークの着物を着た。
 「かわいい!」
 一瞬で一目惚れし、その日から着物にのめり込んだ。給料が入っては、何着もレンタルし、何着も買った。着物屋さんに足繁く通い、着物のたたみ方など教えてもらったり、手伝いに行ったりした。
 所作の美しさを身につけようと茶道を習い始め、気づくと4年が経っていた。だがお茶の先生になりたいわけではなく、季節ごとに生ける花が異なるといった世界観を純粋に楽しんでいた。
 「何かにお金をかけるなら、目的を持って行動する性格なのにな」。ある時、ふとそう思い、これまでの人生を振り返った。そして閃いた。「私は長崎でゲストハウスをやって、着物を着て、お茶を立てて人に出すんだ」

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▲長崎かがみやの外観(市原さん提供)

 こうして旦那さんと長崎でゲストハウスを営む準備を本格的に始めた。愛媛県の次に赴任した広島県から長崎まで宿探しをし、京都の古民家ゲストハウスで運営のノウハウを学んだ。
 探し初めて3年、理想の家が見つかった。宿ができるような部屋数が確保でき、着物のレンタルスペースも兼ね備えている。神社の鳥居をくぐり、旧長崎街道の近くという物語を感じられるところだ。 
 2010年、宿とレンタル着物を提供する「長崎かがみや」が誕生。まだゲストハウスという概念すら長崎に浸透していない時期だったが、外国から多くの旅人が訪れた。「長崎のまち並みはアンティーク着物が似合う」と考えていたことから、撮影会やイベントも積極的に実施。2016年には、浜の町に近い場所にレンタルキモノ専門店「キモノホッペン」をオープンさせた。

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▲イベントの様子。街中を浴衣を着た人たちで埋め尽くした(市原さん提供)

 これまで、宿や店のお客さんに心を使ってきた市原さんだが、叶えたい夢がある。それは長崎の「旧市街地」構想の実現だ。
 新市街地を企業のオフィスや新しい商業施設が立ち並ぶまちとすれば、旧市街地は古いものが残るまち。旅先での観光地はほとんど新市街と旧市街に分けられていたという経験から、「旧市街地の個性を磨けば、旅人はもっと長崎を楽しめる」との思いでこの考えに至った。
 長崎に置き換えると、市原さんは「長崎駅周辺が新市街地エリア、中央橋周辺が旧市街地エリア」と語る。現在、都市開発が行われているのが長崎駅周辺で、歴史を感じさせ、旅人の好きな路地裏が多いのが中央橋周辺だからという。

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▲市原さんの妄想図
 
 では旧市街地を磨くには、どうすればいいのだろう。市原さんは、中央橋に「鉄橋」の通称で親しまれている銕橋(くろがねばし)があることに注目。鉄橋は、まちの台所と言われる築町と、繁華街である浜の町をつなぐ大事な拠点で、日本で初めて架けられた鉄橋でもあり歴史がある橋だ。
 浜の町と築町を行き来する人を増やすため、さらにエリアを分ける。つまり、浜の町はショッピングを楽しめるエリア、築町では長崎の名物である魚や蒲鉾を食べられる食のエリアとする。
 鉄橋から川を覗けば、川岸に長崎らしいステンドガラスが埋め込まれてあり、インスタ映えにももってこい。「通りたいと思う人が増えるかも」と妄想は止まらない。
 「あれもしたいし、これもしたいな…」。市原さんの長崎愛はこれからも深まっていく。

 

【店舗情報】
長崎かがみや

◎住所:長崎市本河内1丁目12−9
◎電話:095ー895ー8250

レンタルキモノ専門店 キモノホッペン

◎住所:長崎市鍛冶屋町6ー25 アミティ崇福寺通り3階
◎営業時間:午前10時〜午後7時
◎定休日:火曜
◎電話:095ー826ー2583

【編集後期】
 ゆかりさんと話していると、長崎のことが大好きなことが伝わってくる。私は長崎市出身だが、高校までは長崎を出たくてしょうがなかった。だけど、ゆかりさんのように地元のことを好きという熱量のある人がいることに感謝したいし、嬉しい。自分のまちに対する思いを改めて見詰め直すことができ、どんなまちが好きなのか考えるきっかけになった。

 UNNYAでゆかりさんとコラボ企画も考えています。また正式にリリースする時はお知らせいたします◎わくわく。

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文・こけ 写真・さおりん 挿絵・ほのか

 

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