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守護霊とのつながり方④ 仏教をリバースエンジニアリングする

前回から続くこのシリーズは緋文くん(@pornpoemer)と鋭意執筆中の共著の理解を促す「補助線」のつもりで書いている。

ウヂやイエといった現代では混同されがちな別系統の霊性を明らかにすることで、われわれに本来備わっている霊性を段階的に開発することがひとつのねらいだ。リオタールの謂う“大きな物語”との「つながり」を回復してほしい、そんな思いがシリーズを続けさせている。

さて、本記事では前回までに各自で調べたウヂやイエといった自身の霊的な系統とは違った、オルタナティヴな視点から深掘りしていこうと思う。

「仏教をリバースエンジニアリングする」なんて大仰な副題を付けたが、今回はご先祖の本籍地を元にウヂを確かめたり、家伝を求めたりする必要はない。仏教は究極のミーム📚であり、ウヂやイエのようなゲノム🧬とは対極のところに位置するからだ。

そもそも、仏教はゲノムを遺さない。

経典(梵語で sūtra、英語では thread つまり縦糸であり、伝統的に釈迦の口説としてみなされてきた)や、それにまつわる膨大な註釈書は、ゲノムを遺さない誓願を建てた出家者たちが遺した「ミーム」である。
これはウヂ/イエといったゲノムを基幹とした「物語」と違って、法を求める意志、即ち菩提心(梵: bodhi-citta)を原動力とするクラウド・コンピューティングのようなものだ。

横文字を横文字で説明してしまった。つまりどういうことか。

これまで書いてきたようにイエ/ウヂを基に神の道を求めようとすると、すべての生命を記憶するサーバーやストレージ、神々とのネットワークのような基盤(=インフラストラクチャー)が前提となる。神道家はそうした物理的でローカルなインフラを整備して、惟神(かんながら)に運用・保守するインフラエンジニアのような役割を担うと言ってしまっていいだろう。

対して僧侶、つまり仏道を歩む者にとって、そうした惟神のインフラはさほど重要ではない。経典という縦の糸、2600年に亘って口伝されてきた釈尊直説の真理を会得してしまえば、遺伝子や家のようなハードウェア及びソフトウェアは必要ない。経典を理解する言語能力(インターネット環境)さえ整っていれば、老若男女やその出自の貴賤にかかわらず、究極の悟性たどりつけるからである。生まれではなく、ただ行為(カルマ)のみが霊性を規定する。
そうして物理的な規定に依ることがない、ハイパーバイザー(仮想化技術)を基にした巨大なクラウドシステムが、現実に存在している。

仏教である。

たとえば卑近な例を挙げるなら、われわれのお祖父さんやお祖母さんを弔ってきた菩提寺がそうだろう。
江戸時代に整備された旧弊なシステムではあるが、葬式や法事といったイニシエーションではまだまだ力を持っている。「堕落した在家仏教」などと揶揄されがちな本朝の伝統諸宗派も、その法源は偉大な祖師方によって確立されたクラウド・コンピューティング技術にある。
世界宗教たる仏教は特に東アジアに顕著に弘がっているが、中でも本朝の仏教観は独特のものがある。これは最澄による円頓戒(円満頓速の戒)を当時の天才たちが何代にも亘って研ぎ澄ませ、速度と互換性を究めてきた技術的な歴史が大きい。「出家者の悟達をサポートする衆生」のような小乗的発想から、経典の数文字でも耳にした、否、毛孔から入ったヒト・モノ・コトのすべてを救済するという宇宙規模のユーザビリティを展開する、東アジア有数の巨大クラウドベンダーとなるに至った。

そうした営みの総体としての仏教を反転工学(リバースエンジニアリング)するにあたって、重要なのが佛・法・僧の三宝だろう。
先祖供養を宗とする大和民族に、三宝の頂点たる佛の存在意義を一言で表すなら彼岸の管理者だろうか。死後、肉体から遊離した魂魄はある部分は世界に離散する一粒の原子になり、ある要素は拭い難い行為(カルマ)としてこの世界に因果の穢れを遺す。「このわたし」が死ぬとき、決して世界は「このわたし」以前ではあり得ないのだ。たとえば原子の一粒、すべての行為の因果関係を打ち消すような奇跡を行使する権限が付与されたとしても、「その権限を行使した」因果は世界に対して不可逆的な変化を齎す。一切は流転し、万物は滅びに向かって駆動し続ける。無常である。

そうした悪多く善寡き穢土においても、如来の光明は燦々と衆生を照らす。神との「つながり」を得られない靈すら、神々を優に跳び越える宇宙よりも巨きな御手を、ただ救いを待つ独りの念佛者に向かって差し伸べられる。

如来の慈悲は、衆生(ユーザー)視点に立ったクラウド・コンピューティングであり、また同時に、黄泉の国への旅路に迷う靈を漏らすことなく記録する仮想サーバーを構築した管理者の智慧でもあるのだ。

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