仮面ライダーかスーパー戦隊か
この世界は仮想、謂わばゲームである。
あなたは〈世界〉と呼ばれるものと分離されていることを覚り、この難易度の高いゲームを開始しなければならない。
ここ日本サーバーでは、二つのオンラインゲームがプレイ人口も多く、攻略情報も揃っているため、それなりに高難度ながら幅広い世代にウケている。神絵師たちによるファンアートも豊富で、老若男女にガチ勢やエンジョイ勢問わずアカウントを持っている人が多い。一部界隈ではミーム化していて、半ば「一般教養」のように扱われるクラスタもある。
一つは〈法華経〉というゲームだ。
この作品は、アカウントを創るだけで憧れの仮面ライダーになれる!というのが売りで、無課金でも序盤から煌びやかな装備をゲットし、悪い敵をガンガン倒す正義の味方に「変身」できる爽快アクションゲームである。
俺が小さい頃はちょうど平成ライダーシリーズが放映されていて、『アギト』に出てくるギルスという仮面ライダーが好きだった。およそ味方ライダーとは思えぬ禍々しいビジュアルに残酷な攻撃方法、ライダー本人も「変身してしまうこと」に苦悩しながら戦っていて、濃厚な「昭和ライダー」の匂いを──当時のガキ安眠は当然そんな歴史について何も知りはしないが──感じていたのかもしれない。
そんな憧れのライダーに変身して、ライダーキックを決めることができる!
法華経は神ゲーだ。
今の子たちはどうか知らないが、当時のゼロ年代の子どもたちは、「仮面ライダーかスーパー戦隊か」みたいな好みのジャンルの違い、ちょっとした「趣味の差」が出来上がっていたように思う。『コロコロ』か『ボンボン』かほどの明確な「差」は無いものの、毎週日曜朝を楽しみにしていたキッズたちは変身ベルトかそれとも戦隊ロボか、貴重な誕生日やクリスマスのプレゼントにどちらのおもちゃを買ってもらうか真剣に悩んでいたものである。
◆
ゲームの話に戻る。
さて二つめの人気ゲームは〈浄土三部経〉だ。
こちらはプレイ人口だけなら法華経より多く、近年リメイクもされて法華経同様に熱心なプレーヤーが多い。
三部作のタイトルだが、三作ともはじめは人間サイズの怪人との殺陣やドラマがあり、最後は怪獣と戦うために巨大な合体ロボに乗るという要素が共通している。仮面ライダーと同じく「変身」もするが、この怪獣vs.巨大ロボというのが本作のサビだ。
仮面ライダーのおもちゃと言えば変身ベルトだが、スーパー戦隊シリーズのおもちゃはなんといっても変形合体ギミックを搭載したロボである。
戦隊ロボット。人間を超えた汎用人型決戦兵器。増幅した巨大な悪に対抗するため、人類が技術の粋を集めて造り上げた救済装置(突然ロボを讃える詩を詠むな)。
子どものころ、実はおもちゃを買ってもらうなら、変身ベルトよりも戦隊ロボ派だった。ベルトは装着してしまうと、見えない。遊ぶとき目に見えて、触れて、ブンドドできる合体ロボたちにガキ安眠の異常な蒐集欲が満たされたものだった。
ガキのころは性欲なんかそんなに無いし、食にもがっついてなかったので、実践倫理とは即ち合体ロボを我慢する修行のことだった。
このゲームの最期には、デケェロボが実際にやってきて、俺たちを素晴らしい世界に連れて行ってくれるらしい。
変身ベルトが欲しい人の気持ちもよく分かるが、俺は超カッチョイイ合体ロボを眺めているほうが、どうしようもなく好きだし、性に合ってると思う。ベルトを付けて暴れ回る自分の姿がうまく想像できない。信仰はイメージの世界だ。
南無阿彌陀佛 南無阿彌陀佛
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