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【歴史群像シリーズ】自動販売機は無人店舗の夢を見るか?~特化したがゆえの繁栄と限界~①飲料自販機について

今回は飲料自販機について書いてみようと思います。というのも、「自販機を並べれば無人店舗のできるのではないか?」という意見をちらほら見かけるようになり、そうした無人店舗も実際に増えている状況の中、何故この波に乗る人が少ないのか、このあたりを考察してみようと思ったからです。

ただこの業界は歴史が長い上に様々な要素を含むため、いくつかの要素を理解しないとなかなか全体を把握するのが難しい…ということで、まずは「飲料自販機業界の成り立ち」から書いてみます。なお、この話はいろいろな人の話から総合したものを、複雑な事情の部分をあえて隠してて作ったものなので、実際とは異なる可能性があることをご承知ください。

■全ては赤色から始まった~コカ・コーラから始まった自販機の隆盛

さて、日本で自販機がこれほど多く見られるようになったのは、いろいろな理由はありますが大きくはコカ・コーラボトラーズ(以下CCB)の取り組みが大きく影響していると言われています。

(コカ・コーラ販社(ボトラー)は違う意味で面倒な説明が必要なので、ここは一旦ボトラーズとしてまとめています。)

元々は商店における手売りが中心だったのですが、「おばあちゃん、店先にこれ置くと勝手に売ってくれるよ」と言う触れ込みでお店の前に自販機を進めたのが始まりだと言われています。お店からすると手間なく良く出る飲料が売れて、CCBからすると店内の他飲料を押しのけて自社商材を売れるというWin-Winな関係にあったのです。今でこそオフィスなどのインロケが収益の中心ですが、昔は路面機に代表されるアウトロケが収益の中心だったのですね。

■日本の気候事情と自販機の爆発的な発展

日本は元々高温多湿な夏と低温乾燥な冬とが同居する世界であり、お茶に代表されるように飲料の需要が元々高かったせいか、「手軽に買えて、ひんやり冷たい」自販機の飲料は消費者に非常に受けました。

これまで飲料はスーパーなどでレジ待ちして買わなければならず、今すぐ飲みたいというニーズに応えられませんでした。しかし自販機はすぐに買えてすぐに飲める、しかも冷たい。この利便性を当時のスーパーなどに代表される小売店では出せず、後年になると今でこそあたりまえのホット対応機も出てきて、売れないと言われた冬場にも販売機会を増やし、より大きな市場に成長していきます。

そしてスーパーなどの小売に卸す金額とは異なり定価販売だったため、利益率も非常に高いのも特長です。最盛期だと売り上げの半分、利益の8割近くを自販機の売り上げが占めていた時代もありました。こうしたドル箱であることを背景に、さまざまな所に飲料自販機は進出、時にはメーカー同士が新規ロケーションを争って札束で殴り合う時期もあったそうです。

こうしてメーカーの思惑とその利便性が市場に受け入れられた結果、最盛期には全国で280万台の飲料自販機が稼働するほどになりました。

■ライフスタイルの変化と冬の時代の到来

こうした飲料自販機の栄華にも次第に影が差し始めます。レジ待ち時間が短く、さまざまな商品を手に入れることができる「コンビニ」の隆盛です。

スーパーほど待ち時間が長くない、飲料以外にも手に入るなどの利便性が高く評価され、急速に市場を拡大。その煽りを受けて直接的な競合であった路面機の売り上げは激減、売り上げが伸びずお荷物になっていきました。ただ、路面機は広告塔の役目もあったためすぐには撤去されませんでしたが、全体的な売上低下によりローテートのタイミングで撤去されるものも出始めました。

そして大きな打撃を受けたもう1つの出来事が「3.11」。計画停電など電力不足に悩まされていた都市部では「パチンコ」「自販機」が非生活必需サービスとして槍玉に挙げられました。当時の自販機は非常に電力を喰う機材が多くあり、特にその消費量が大きかったホット販売が激減するなどの冬の時代を迎えます。もちろんこれは省エネ機の出現を促し結果としてロケに置きやすい(電気代負担の少ない)機材が出ることになりますが、それでも売り上げが落ちた路面機を旧型だからという理由で撤去することを回避することはできませんでした。

これまでは「置けば売れた」時代だったものが、ライフスタイルの変化により市場のニーズが変化したことで冬の時代を迎えることになります。

■ビジネスモデルの転換~アウトロケからインロケへ

そうした中、より高収益を上げる自販機が何かに注目が集まり、インロケでの需要がクローズアップされるようになりました。特にオフィスにおける需要は外に出ない(出たがらない)IT業界を中心に膨れ上がり、見逃せない市場へと変化していきます。

こうした中、市場はこれまでの「とにかく増やす」から路線変更、「儲かるエリアに集中して置く」というスタイルに変化していきます。元々時間をかけず欲しいものがすぐに手に入る自販機は高層化するオフィスとの相性が良く、会社の福利厚生としても有効であることから市場拡大していきます。これに合わせて「ロケーション紹介」企業も出現。オペレーションはしないがロケーションとの仲買で稼ぐ企業が出るなど、再び自販機が見直されるようになります。

■飲料主体からトータル提供へ~物販自販機の隆盛

こうやって飲料がオフィスの中に浸透すると、今度はコンビニ的な要素を求められるようになりました。飲料が売れるなら軽食も売ってくれないか…そうしたニーズは飲料自販機では満たせないため、今度は物販自販機が目を出し始めます。

物販自販機は高額であり(飲料自販機の5倍ぐらいの値段)今でも10万台ぐらいしか出荷されていませんが、飲料も販売できること、スパイラルやベルトなどいくつかの搬出機能を持つことで様々な商材が販売できることにより、主に長期保存パンやカップ麺、菓子などを販売することとなりました。飲料自販機と大きくオペレーションが変わらないこともアリ、最近では飲料自販機+物販自販機の組み合わせを「無人店舗」として売りにしている企業も出てきている程度に普及しています。

■そして今…自動販売機は無人店舗の夢を見るか?

物販自販機の出現により無人店舗への足がかりが整ったかのように見える昨今、でも実際に自販機だけを揃えて無人店舗と言っている企業はまだまだ少数派です。行けそうで行けない、届きそうで届かない無人店舗…様々な企業が2015年ぐらいから取り組みながらまだまだ遠いのは何故か?それは物販自販機の性能に依存するものでした。

ということで、まずはここまで。次回は物販自販機について書いてみようと思います。

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