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自殺の現状と、身近に死にたい人がいたらどうするか、の話

某テレビ番組に出演歴のある若い女性が急死したことが話題になっている。

5/24現在では自殺とまだ断定されていない訳なのだが、断片的な情報から誰もが「そうであろう」と想起している。

この事件に伴い、SNSを始めとするネットでの誹謗中傷やネット上の暴力・いじめ(cyber-bullying)が改めて問題になっており、「芸能人も一人の生身の人間です」と有名人が続々と誹謗中傷を批判するコメントをしている。


しかしながら、誹謗中傷と批判の区別もつかないような人たちが、新たな誹謗中傷を生み出している。

この記事は自殺に関する日本の現状を簡単に述べ、最後に具体的な相談先を複数紹介する。

自殺に関する基本的な知識を身に着けたい人、つらい・死にたいと感じている人が近くにいてどうしようか悩んでいたら、ぜひこの記事を読んで欲しい。

日本の自殺の現状

まず、日本の自殺者数はどれくらいいるのだろうか。

国内の金融機関の破綻などが引き金で、1998年(平成10年)に自殺者が急増し、以来14年連続で3万人を超えていた。

しかしながら、昨今の(微々たる)景気回復に加え、自殺対策基本法などの法整備が進み、行政や民間団体を中心とした自殺対策が徐々に功を奏した結果、現在は2万人まで減少している。

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景気変動により1998年から異常事態が続いていたのが、ようやく元の水準に戻ったというだけで、未だに諸外国と比較して高い自殺率を維持している。

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(出典:https://www.nippon.com/ja/japan-data/h00681/)


男女比で見ると、男性:女性は約7:3で、男性の高い自殺率が特徴である。これには諸説あるが、男性は女性に比べ悩みを誰かに打ち明けにくいこと、雇用状態に左右されやすいこと、衝動性が高いことなどが要因として挙げられる。

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(出典:https://www.nippon.com/ja/japan-data/h00681/)


また、データが古く申し訳ないが、20代~30代の死因の一位が自殺であり、これは現在も大きな変化はない。日本は若者が未来に希望を抱きにくい世の中なのかもしれない。

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自殺の要因は様々で、NPO法人ライフリンクが過去に自殺者のご遺族に調査した結果では、いくつかの要因が複合的に重なった上で最終的に精神疾患になり、希死念慮(死にたいと願うこと)や心理的視野狭窄(死ぬ以外に解決策がない)という症状に陥り、自殺に至るとされている。

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自殺は個人の問題ではなく、社会の問題

さて、ここまでのデータで懸命な方はお気づきだろうが、自殺は決して個人の問題ではなく、例えるなら社会に毎年必ず2~3万個の落し穴があって、誰もがそこに落ちる危険性があるということ。すなわち自殺は「社会の問題である」と捉えることができるということだ。

なぜなら、一個人の問題であるならば毎年の自殺者数にはかなりのバラつきが出るだろうし、多くの方が亡くなれば翌年には減少してもいいはずだが、そうはならない。

そもそも人はなぜ自殺をするのか、もう少し掘り下げたい。

最新の研究では、元々本人が持っている自殺潜在能力(男性である、衝動的である、痛みに慣れていること等)に加え、所属感の減弱(どこにも居場所がない)、負担感の知覚(人の迷惑になっている)の3つの要因が重なり合った時、致死的な自殺行為に至るとされている。

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例えばラグビーやボクシング、プロレスなど身体接触が激しいスポーツをしている選手、何度もリストカットなど自殺企図を行っている人も痛みに慣れているため、自殺潜在能力が高まる可能性がある。もちろんそれだけでは自殺を考えないが、更に「居場所がない」、「人の迷惑になっている」などの社会的要因が加わることで、致死的な自殺企図に発展する可能性がある。

以上のようなデータから、人はソーシャルな生物である以上、人との関わり合いが必須となるが、時としてそれは人を死に追いやる要因となるのである。

批判と誹謗中傷の違い

では、今回の場合、女性はなぜ死に至ってしまったか。結局のところ、本当のことは当事者にしか分からないが、あるテレビ番組の出演をきっかけに度重なる誹謗中傷を受け続けたことが要因であることは推察できる。

ネットで多くの誹謗中傷を受けることで、先に挙げた「人の迷惑になっている」、「居場所がない」という思いを強めてしまい、最終的にはうつ状態に陥る。すると、症状である「希死念慮(死にたいという思い)」が高まってしまい、具体的な手段を実行してしまう。

つまり、匿名だろうが実名だろうが、そして現実だろうがネット上だろうが、本人の容姿や人格、行動を執拗に中傷し続けることは、人を死に追いやる殺人的行為であることが分かる。

これはまさしく個人の問題ではなく、社会の病巣ではないか。

「批判」と「誹謗中傷」の違いは簡単なようで難しい。

「批判」はある根拠に基づいて間違いを指摘すること、「誹謗中傷」は根拠のない悪口で明確に相手を傷つける意図を持った攻撃であることだ。

ここを勘違いして、「相手は間違っているから、人格や容姿も含め攻撃的な言葉で相手を正すのは正義だ」として、批判と誹謗中傷をごっちゃにして攻撃する人が何と多いことか。

また、批判と誹謗中傷の違いが分からずに「何も言えない世の中だ」と嘆く人がいたり、逆に批判を全て誹謗中傷と捉えて被害者ぶったりする人も多い(これはまた別問題の話にはなるが)。

私は彼女が出演していた某番組を観ていないのだが、記事によると思いを募らせていた彼にあることがきっかけで罵詈雑言を浴びせてしまい、それをきっかけに彼女の人格や容姿に対する誹謗中傷が絶えなかった。

この場合、私が思う最大の加害者はテレビ番組であって、若く未成熟な人間の恋愛模様を「視聴率さえ取れればいい」と面白おかしく放送することにあると思っている。確かにテレビは面白くなくては視聴率が取れないし、番組に関わるスタッフ一人ひとりの思いもあるだろう。それでも、視聴者に未熟な人たちがいること、その対策が出来ぬまま放送していて、何の罪もない、ということは無い。

そして次の加害者は、彼女の行動について「あれは良くなかった、どんなことがきっかけであれ人に罵詈雑言を浴びせるのは良くない」と批判に留めておけばいいものを、会ったことのない彼女の人格を否定したり、容姿に関する差別的発言を繰り返したりするネット上の人たちである。

そのような人たちは、相応の刑罰が下るよう法整備を進めていくことが日本には必要なことだろう。韓国ではそのような法制度も進んでいるという。

と同時に、個々人においてはネットで誰かを批判する時は、それなりの覚悟を持ち、その内容が単なる「誹謗中傷」ではないか、発信する前に一旦立ち止まって考えることをお勧めしたい。

そもそもネットで誹謗中傷をすることは時として人を死に追いやることであるという事実を、日本は情報科目等に組み込んでネットリテラシー教育を行う必要があるだろう。

自殺は防ぐことができる

実は、自殺をすると完全に決意して死に至る人はほんのひと握りで、大抵は「死にたい」と「生きたい」の間をシーソーのようにアンビバレントな状態で揺れているのが普通で、自殺は防ぐことができるとされている。

自殺者は亡くなる前に8割以上が何らかの相談機関や身近な人間に悩みを打ち明けており、誰かがそのサインに気づくことは難しいが、日頃からアンテナを張ることは可能だ。

ネットでの誹謗中傷や死にたいほどつらい気持ちを抱える人が身近にいた場合は、まずは悩みを否定せず聞き、相談初期はアドバイスも控え、ただそばにいて、味方になってあげて欲しい。

死に関する相談を受けることはとてもエネルギーを使うので、相談される側も辛いが、ひとりで抱え込まず、必要に応じて下記のような相談窓口を紹介して欲しい。

また、どこか支援先へ実際に足を運ぶ際は、同行して寄り添うことが望ましい。なぜなら相談者は大抵の場合、相談に行くエネルギーが落ちてしまっているし、解決なんかできないと思い込んでいるし、何より勇気が出ないからだ。

そこまで出来ないよ、という人は、メール等で実際に相談先に行ったかどうか、結果はどうなったか、など、「あなたを気にかけているよ」というメッセージを送り、出来る範囲で寄り添ってあげてほしい。

具体手的な相談先

寄り添いほっとライン(社会的包摂サポートセンター)…音声ガイドに従い、悩み別に相談が可能です。電話が可能な方にお勧めです。https://www.since2011.net/yorisoi/

寄り添いチャット(LINE相談 社会的包摂サポートセンター)…電話をする力がない方、何とLINEで相談することが可能です。https://yorisoi-chat.jp/

こころの健康相談統一ダイヤル https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/kokoro_dial.html

東京自殺防止センター https://www.befrienders-jpn.org/

NPO法人ボンドプロジェクト…10~20代の女性限定相談窓口ですが、対応する職員も若手の女性なので、ピアサポートの感覚で相談可能です。https://bondproject.jp/

ミークス…10代の相談窓口紹介サイトです。親に頼ったり、周りの大人に頼ることが難しい人にもおすすめです。https://me-x.jp/


明らかな精神疾患を抱えていたり、自傷他害の恐れがある、DVや虐待などの生命に関わる相談を受けた際は、すぐに相談者のお住まいの自治体に相談する必要がある。

精神疾患・自傷他害…お住まいの自治体の保健所、保健センターの保健師に相談してください。なお、自傷他害の恐れが強い時は無理せず警察や救急に相談を。https://www.mhlw.go.jp/kokoro/support/consult_2.html

児童虐待…189 イチハヤクでお近くの児童相談所につながります。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/dv/index.html

DV相談ナビ…お住まいの自治体の相談先なども紹介してくれます。http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/dv_navi/index.html

厚生労働省自殺対策相談先のまとめhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_sonota.html

結語

日本の自殺は深刻だが、この数年でようやく元の水準に戻った(それでも深刻な事態に変わりはないのだが)。このまま減少を続けていくことで日本の不幸を少しずつ減らすことができる。

しかしながらコロナ禍で未曽有の事態が続き、その影響で失業者が既に1万人を超えているという推計もあり、経済的な支援を中心とする自殺対策の推進が望まれる(北欧では自殺率が景気に左右されない国もある。景気で左右してしまうのは、セーフティーネットが脆弱であるという証左に他ならない)

自粛警察というワードが出るほど、日本は和を以て貴しとなす反面、同調圧力が強すぎて「生き」苦しさを生み出しているのかもしれない。

日本は良くも悪くも「個性を大切に」とか言いながら、小中学校では規則に縛られ、少しでも目立つことをしようものなら先生にこっぴどく叱られるのだから、同調圧力が強まるのも無理はない。

批判と誹謗中傷を分けて考え、コロナ禍でますます重要となったSNS等オンラインツールを楽しく活用するためには、今一度ネットとの向き合い方を考えたいと、自戒を込めて思った次第である。

この記事が一人でも多くの目に留まり、誰かが救われるといいな、という一心で執筆した。(後で見返して駄文っぷりに削除するかもしれないが、まずは公開してみる次第であります)

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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