【ミゲル・サポチニクが第1話で示した本作の方向性に、さらに豊かな文脈を与えたのが監督のクレア・キルナーである。第4話、男たちの会話を隙間から覗く登場人物の視線のショット、鎧を脱ぐことに焦点を当てたセックスシーンの撮影。そして、第5話の「歓迎の宴」のシーンでは、完璧な美術の中で大量の人間が動き、それぞれの思惑が視線となって怒涛の勢いで交差する様子を、矢継ぎ早だが的確なカット割りと空間把握で見せていく。第9話では、次の王を巡って勢力が二分され、内戦状態に突入する国家の迷走を「王都で消えた王子の捜索」というアクションで象徴的に描き切った。『ゲーム・オブ・スローンズ』では観られなかった視点で、王都という空間を撮影したクレア・キルナーの仕事は、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の原作『炎と血』が、ウェスタロス大陸のオールドタウン、知識の城に所属する大学匠(アーチメイスター)ギルデインによって書かれた歴史書であることへのカウンターにもなっている。女性の監督であるクレア・キルナーの撮影の勝利は、男性によって書かれた歴史に対する異議申し立てとして、新たな視点を提示できているのだ。】