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【短編】お気に召すまま


 宇宙人がやってきた。侵略だー。私が中学を卒業した頃。最初アメリカがこてんぱんにやられ、もうダメだね地球、と全世界が哀しみに覆われた時、一人の救世主が現れた。宇宙人の死体を偶然発見した日本の科学者たちが全力で死体を解剖、人類とは違う特異な生体メカニズムを研究応用、通常の人間の何億倍もの力を持つスーパーマンを改造手術によって生みだした。
 そのヒーローが私の従兄弟だった。トシオくん。なぜトシオくんかは分からない。ある条件が適合したのだと噂されている。
 トシオくんは宇宙人を見事撃退。
 けれども、トシオくんはその力と引き換えに十分毎に射精しなければならない体になっていた。この場合、精液は工場の廃液のようなものらしい。
 地球を平和に導いたトシオくんはもちろん英雄だった。
 私が十七歳、トシオくんが二十歳の時だった。

「まだ処女?」
 トシオくんの家に呼ばれ、突然求婚された後、そう質問された。私はそうだと答えた。
「いきなり聞くとか普通じゃないし」
「そうかな」
 そう呟いて、ちょっと、と言ってトシオくんは立ちあがり、部屋の奥にあるカーテンで仕切られた空間に隠れた。しばらくするとテレビによく出ている女優さんがカーテンから出てきて、じゃあねと部屋を出て行った。倒すべき敵のいない今、トシオくんは世界中から好きな女を自由に選んであてがわれる、精子ドピュ男だった。

 トシオくんが、血縁でしかも男性経験のない私をオモチャにして遊ぼうというのは明白だった。
 私は言った。
「何百万人と肉体関係のあった人とか無理」
「誓う。結婚したら膣に挿入するのはお前だけだ」
「信じられないし。それからお前とか呼ばれたくないし」
「分かった。お前って言わない」
「だいたいオナニーでドピュっとけばいいじゃん」
「自分ですると虚しい」
「道具を使うのは許すよ。でも人間相手は堪えられない」
 トシオくんは傍らの本を手に取り、数ページめくって電話をかけた。女を呼んでいる。毎回同じ女性としていると刺激が薄められてなかなかドピューできないらしい。なおさら私と結婚なんて不可能だ。
 私は言った。
「不幸になる結婚をわざわざ選べない」
「違うよ。昔から好きだったんだ」
「うそ」
「本当だよ。子供の頃からずっと好きだった」
 そう言ってる間にふくよかな女性が現れた。私の目の前でトシオくんの陰茎を乳房ではさみこみ、ドピュドピュっ。
 私は精液の濃厚な匂いを初めて嗅いだ。

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