【短編】唾とばしちゅる
メレンゲが鼻についた。
年下の恋人が休日にやってきて突然ケーキ作りを始めたのだが、途中で飽きたのか、私に悪戯をしだしたのだ。
彼女は、たいてい、二人でいる間中はほとんど嬌態ばかりをしめす。私の鼻についた白いものを見て、ひとしきりげらげらっと笑って、それからまたお菓子作りを再開した。
私は言った。
「大人と子供の間を行ったり来たりだな」
「子供の部分を見せられる人なんてあなたしかいない」
私たちは運命の二人だった。互いに互いが自分の半身だ。
うそじゃない。
政府が結婚相談所を始めた。
半信半疑で役所に設置された窓口に行ってみると、質問責めにあった。全部答えるのに一か月かかった。
性格診断アンケートを皮切りに、何百という異性の画像を見て好みかどうかを点数で回答したり、それから鐘型の自慰器具も使わされて形状や性欲傾向まで調べられた。
二日目ですぐに私が、嫌気がさしたと担当者に伝えると、こう言われた。
「この一か月でこの先何十年先のことが保障されるんです」
なるほど。
そして、この革新的行政サービスは、誰でも受けられるわけではなかった。他人が決定したことに従順であることが、受給資格の必須条件だった。その適性もこの一か月間の間に審査される。だから途中で離脱させられる人もいる。
そして一か月後、私は役所から彼女の連絡先を教えられた。
まだケーキ作りをしている彼女に、私は言った。
「唾とばし」
「ちゅる」
私たちは性格も合っていたし、体の相性も抜群だった。何より一番驚いたのが、この唾液交換に一切嫌悪感がないことだった。
私の唾を、彼女は飲むのに抵抗がなかった。
唾とばしちゅる。この行為の名称。
結婚は時間の問題だった。
またこれもすごいが、このサービスを受けても結婚を強制したり、追跡調査をしたりされない。
ごくわずかの例外を除き、あまりにベストカップルなので結婚しないはずがないからだ。まあ結婚を政府が強制したら人権侵害だが。
彼女がケーキを食べてコーヒーを飲み、言った。
「幸福」
「私たちは国家に飼われた幸福な羊だ」
綿密な調査に基づく結婚マッチングは、研究開発に膨大な費用がかかったらしい。しかしそれでも帳尻は合うそうだ。
従順な二人の人間は大人しく税金を納め、やがて子供を作る。そして羊の子は羊だ。
あと、それからきっと、まちがいなく戦争もなくなるだろう。
メスの奪いあいは争いの火種なのだから。
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