時間は止まってくれない
時間は止まってくれない。
学生時代が終わって、就職して3年。やっと慣れ始めた毎朝通勤電車に揉まれながら考える。
今までの人生、本当にこれで良かったのかな。これが正解だったのかな。
何かに流されて決めていなかったっけ。私は本当に、この選択肢を選んで幸せになれるのかな。
決断の時はいつも「待って、もうちょっと」と言いたくなるような早急さで私を引きずった。
「先輩、先輩生きてます?」
隣を見ると同じ部署の後輩が微笑んでいた。
「ごめん気づかなかった」
「いいんですよ。俺も今気づきました」
この後輩は出来が良くて、今の仕事は私よりきっと向いている。
仕事の話をつらつらしながら考える。転職でもしようか。でもその選択の瞬間にも私はきっと迷うし、選択の後もくよくよする。
「今の仕事楽しい?取引先の田中さん、君のこと褒めてたよ」
「本当ですか?それは嬉しいな。仕事、楽しいですよ。先輩がいるから部署の空気良いし」
「それは良かった」
「先輩はどうですか?」
「でも仕事でもなんでも、「楽しく」なるのは誰かが努力しているからですよね。俺にとっては先輩もその一端をになってくれているみたいに。もちろん自分でも楽しくなるように努力はしてますけど」
その言葉が記憶のそこを揺さぶった。
仕事が楽しい、と明言していた時期が私にもあった。
直属の上司が私の恋人だった時、人生で一番生活が華やいでいた。
仕事がうまくいけば尻尾をふって会いに行ったし自分のために様々な努力をした。
時が過ぎて、色々なものが擦り切れて掠れて消えた記憶。
あの時の私は彼のために努力をした。
今はどうだろう。
顧客を満足させるため、後輩が居心地よく仕事ができるように。
だれのために努力をしているのか。
「先輩?」
「ああ、もうつくね」
自分のために努力をしてみようか。
他人に向けて自分が努力することに満足していたけど、私は他人が自分に向けて、同じように努力してくれることを期待していた。
見当違いな期待が私の自信のなさを生んでいた気がする。
君にはもう、期待しないよ。