東北きりたんの毒キノコ解説『ツキヨタケ』

ご無沙汰です。無名博士の墓です。
さて、九月に入ったので秋らしいネタを。


毒キノコですね。今回は特に有名であろうツキヨタケについて解説していきます。

ツキヨタケは日本で最も食中毒を引き起こしているとされる毒キノコですね。一応クサウラベニタケとカキシメジと合わせて食中毒キノコの御三家なんて呼ばれ方もされているそうですよ。

因みに御三家にはもう一つ、猛毒キノコ御三家というのもあるらしく、ドクツルタケ ·、タマゴテングタケ、シロタマゴテングタケがこれに当たるそうです。猛毒というと、コレラタケやカエンタケ、ミカワクロアミアシイグチなんかも結構エグイみたいですね。この辺りもいつか解説してみたいものです。

そういえば猛毒といっていいのかどうか分かりませんが、以前変な物質講座で紹介したTrogia venenataもそうでしたよね。日本にいるのかは不明ですが。

ツキヨタケはツキヨタケ科ツキヨタケ属の担子菌類で、学名をOmphalotus japonicusといいます。厚労省のページではO. guepiniformisとなっていますが、最新の学名はO. japonicusだったかと記憶しています。古い文献だとLampteromyces japonicusになっています。実はただえさえコロコロと学名が変わりがちなキノコの中でも特に変更回数の多いキノコとしても一部では知られているみたいです。因みにキノコの学名がよく変わる原因は、これまで形態的特徴に基づいて行われていた分類(旧分類)が、分子系統解析の結果とあまりにも乖離していたためだとされています。分子系統解析、つまり遺伝子解析の結果に基づく分類は新分類といいます。まだ分類が進められている途中のようで、今後も色んなキノコの学名が変更になるのではないでしょうか。知らんけど。

で、ツキヨタケは日本で最も食中毒の多いキノコとして知られています。毒キノコ中毒のニュースが出たらだいたい原因はツキヨタケってくらいです。毎年発生する毒キノコ中毒の4割くらいを占めているのではないでしょうか。

なぜこんなに中毒が起きるかと云えば、要は山に行けば割とそこらへんによく生えていて見た目が紛らわしいきのこだからです。特にシイタケやムキタケ、ヒラタケに瓜二つです。ムキタケとは本当によく似ています。そして見た目のみならず発生時期(秋)や生息場所(広葉樹の枯れ木や倒木)も共通しているので、お互い似たような場所に生えているわけですね。それで間違えて採ってしまうということです。ムキタケやヒラタケとツキヨタケが一緒に群生していたら見抜けない人も多いのではないかと思います。

ツキヨタケを食べると30分くらいで腹痛や下痢、嘔吐など消化器官系の中毒症状が現れ、幻覚が見えることもあるようです。大抵10日程度で症状は治まりますが、過去には死亡例もあります。といっても、ここ15年くらいは死者は出ていなかったように記憶していますが。

ツキヨタケの毒成分はイルジンSです。厚労省の方にはイルジンMも書かれていますがあれは海外のO.illudens菌糸培養物由来の成分であって、ツキヨタケ子実体からは報告はないです。恐らく引用元の文献の誤訳かと思われます。

イルジンSはイルダン型セスキテルペンの一種で、スピロシクロプロパン構造が特徴的です。他にも類縁体でネオイルジン類や、生合成経路がある程度共通しているとみられるツキヨール類(イルドイド類と総称されますが)などが知られていますね。あと余談ですが、イルジン類を含めたイルドイド類はその殆どが菌類から見つかっているのですが、植物で唯一ワラビからも類縁体が見つかっているんですよね。プタキロシドというイルダン型ノルセスキテルペノイド配糖体です。アグリコンがイルダン型ノルセスキテルペノイドなのです(旦炭素数が1少ないですが)。一応ワラビの発がん物質とされており、灰汁抜きで分解されるといわれています。この辺りの菌類と植物の関連性も気になるところですね。

それとイルジンSといえば抗がん剤として使えるのではないかということで研究がされていましたね。イルジンSから得られる誘導体の一つであるイロフルベンが確か臨床試験まで行ったとか行かなかったとかというはなしが2000年代にあって以降あまり音沙汰がないように思われるのですがお蔵入りしちゃったのでしょうかね。因みにワラビを灰汁抜きして得られるプタキロシド分解物のプテロシンも何かの難病の薬になるかもしれないみたいな論文がどこかから出ていたような記憶もあるのですが失念しました。間違ってたらすいません。まあ創薬関連は私にはちょっと分からないところが多いですね。

さて、そんなツキヨタケですが、見分け方はいくつかあります。まずはシミの有無です。ツキヨタケは子実体を割くと内部の柄の辺りに紫色のシミが見られます。これはツキヨタケの特徴で、これの有無でツキヨタケを判別できます。あとは柄の周りのツバのような隆起帯がツキヨタケにはあって、ムキタケやヒラタケ、シイタケにはありません。そしてツキヨタケは光るキノコとしても有名なのですが、実際新鮮な子実体を暗闇に置いて目が慣れてくるとぼんやりとその蛍光を観察することが出来ます。

因みにこの蛍光に関わる物質は以前はイルジンSではないかともいわれていたようですが、一応ランプテロフラビンという別の物質によるものといまでは考えられています。

あと、これは山形県衛生研究所の報告で、大麻の検出か何かにつかうビーム試薬を使った呈色反応でもツキヨタケを判別できるようになったそうですよ。確か検査キットを開発したとか何とかという話でしたが、どういう原理なんでしょうかね。

因みにツキヨタケに限った話ではないのですが、キノコは基本的に産地や個体によって形質のばらつきがとても大きいので、上記の鑑定法が必ずあてになるとも限らないのでご注意ください。何の文献で読んだか忘れましたが、イルジンSの量も個体ごとに全然違うらしいですよ。

あと先ほど出てきた山形県衛生研究所ですが、ツキヨタケに関する研究を結構長くやっているみたいで、中には塩蔵と減毒に関する報告もあります。なんと山形県の一部地域ではツキヨタケを塩漬けにして食べていたらしいんですよね。そこで実際に塩漬けにして水で戻したものをマウスに食べさせて実験したという訳です。結果、確かに毒性が弱まっていたとのことでした。ただし、後の研究で塩蔵後もイルジンSが残留する可能性も報告していますし、あくまでマウスの実験なので、信用して食べるのはよした方が良いでしょう。身近な調味料でイルジンSのシクロプロパンと不飽和カルボニルを何とかできれば無毒化できるような気がしなくもないのですがどうなんでしょうかね。

さて、こんな感じでつきよたけについて解説させていただきました。次はどんな毒キノコを解説しようか悩んでいます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?