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逃げる犯人と追う刑事に分かれ心理戦を楽しむ非対称ゲームに見る推理の歴史

ふるあた! 皆さん、こんにちは。秋山です。

本記事は『アナログゲームマガジン』で連載している、古今東西の推理ゲームを調べてレポートする『推理ゲームふるあた』の第8回です。

本記事の序盤は無料でお読みいただけますが、途中から『アナログゲームマガジン』の定期購読者のみ読める形式となっています。試し読み部分で「面白そう!」と感じていただけましたら、ぜひ定期購読をご検討ください。本記事だけでなく、過去の全記事が読み放題となります。

前置きは以上となります。早速、本題に入っていきましょう。

はじめに

今回のテーマは、非対称です。

非対称というのは、一方のプレイヤーの条件と他方のプレイヤーの条件が同一でない、つまり対称的でないことを意味します

たとえばサッカーというスポーツにおいて、11人のチームメンバーのうち10人は手を使わないのが原則とされます。彼らはフィールド内を自在に走り回り、足や胸、頭を使ってボールをコントロールします。一方、ゴールキーパーの役割を担う11人目は、決められたエリア内であれば手を使うことが許されています。その基本的なポジションはゴール前で、ゴールを守ることが主な役割となります。

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この点にだけ注目すれば、ゴールキーパーとそれ以外のチームメンバーの条件は非対称であると言えますが、サッカーはチーム戦です。11人対11人と俯瞰したときは、その構図は対称的です。

ただ、PK(ペナルティキック)の際だけは異なります。PKに参加するのは、ボールを蹴るキッカーと、ゴールを守るゴールキーパーだけです。この瞬間だけを切り取ると、両者の条件、役割は非対称となっています。

スポーツに限らず、多くのゲームは対称的なデザインとなっています。ゲームの構造上、先手が有利だったり、後手が有利だったりしますが、先手だからといって後手が使えない駒が使えたり、後手だからと言って勝利条件が変化したりはしません。

しかし、なかには一方のプレイヤーと他方のプレイヤーとで、異なるアクションを取れるゲーム、勝利条件の異なる非対称ゲームもあります。たとえば子どもの遊びであれば『鬼ごっこ』『ケイドロ(ドロケイ)』、デジタルゲームであれば『IdentityV 第五人格』(2018年~)など知名度の高いタイトルはいくつかあります。

今回は、アナログゲームの非対称ゲームのなかでも、推理要素を含むものを取り上げます。

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本題に入る前に、もう少し本記事であつかうゲームについて説明させてください。

非対称ゲームは2人用ゲームに目を向けると、数多く発見することができます。クニツィアによるリビングカードゲーム『ブルームーン』(2006年)はブルームーンシティの新たなる支配者となるべく、9つの種族からひとつを選び、プレイヤーごとに異なるカードデッキを持って戦う対戦型のカードゲームです(両プレイヤーが同種族を選択した場合は非対称ではなくなります)。

人間軍とオーク軍の攻城戦をテーマとした『ストロングホールド』(2009年)は、さらに特徴的です。人間軍を担当するプレイヤーは城壁を侵略者から守り抜くことが目的。オーク軍は人間軍が防衛する城壁のいずれかひとつを突破することが目的です。両プレイヤーの目的は真逆の方向を向いており、各プレイヤーが操作するユニットの能力も異なり『ブルームーン』以上に、非対称性が高いと言えるでしょう。

寡聞にして恐縮ですが、ウォーゲームの世界にも非対称性が見られます。一方がドイツ軍、もう一方がフランス軍というようにプレイヤーごとに特色があるというケースは多いです。

最近の作品で特筆するものがあるとすれば2人~4人用の『ルート』(2018年)でしょう。各プレイヤーはゲーム開始時に、それぞれ異なる派閥を選びますが、選んだ派閥ごとに使える駒が決まり、ゲーム中は異なるアクションを選ぶことになり、そして異なる勝利条件を目指しプレイすることになります。多くの非対称ゲームが1対1もしくは1対多である中、1対1対1対1の非対称型は珍しいです。

3作ほど具体名を挙げて紹介させていただきましたが、今回は、これらのゲームを深堀りするわけではありません。本連載は、あくまで推理ゲームに焦点をあてているので、非対称ゲームのなかでも、特に他プレイヤーの心中を推理する必要のある、推理要素の多いゲームを中心とさせていただきます。この点、ご了承ください。

推理要素の多い非対称ゲームの年表

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まずは『推理ゲームふるあた』恒例の年表を用意しましたので、ご覧ください。

推理要素の多い非対称ゲームのはじまりは、ロンドンを舞台に怪盗Mr.Xとスコットランドヤード(ロンドン警視庁)の刑事たちに分かれて戦う、1983年のドイツ年間ゲーム大賞受賞作『スコットランドヤード』(1983年)です。

日本国内において、ボードゲームが流行するきっかけとなったであろう大型タイトルに『カタンの開拓者たち』(1995年)や『ドミニオン』(2008年)などがあります。『スコットランドヤード』は『カタン』以前に、ドイツゲームの代表格として取り上げられたことが多く、世代によっては馴染み深いタイトルでしょう。

ここから先の定期購読者用エリアでは『スコットランドヤード』の歴史や派生作品だけでなく、非対称ゲームにおける革命的な1作や、昨今の日本国内における流れを幅広く紹介します。また、今回の年表を作成するにあたり、51作の非対称ゲームを調査しましたが、その全作リストも掲載しています。ぜひ定期購読をご検討ください。

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