リアル体験型/没入型ゲーム好きにオススメしたい名探偵気分を味わえるミステリーゲームの歴史と性質まとめ
ふるあた! 皆さん、こんにちは。秋山です。
本記事は『アナログゲームマガジン』で連載している、古今東西の推理ゲームを調べてレポートする『推理ゲームふるあた』の第5回です。連載ではありますが、今までの記事をすべて読んでいただく必要はなく、本記事から読んでいただいても大丈夫です。ちなみに第1回と第2回が無料記事で、第3回以降はそれぞれ100円で販売中です。
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前置きは以上となります。それでは始めていきましょう。
はじめに
今回のテーマは、リアル体験型ゲーム、です。
いままでに本連載で取り上げてきたゲームは、いずれもパッケージとして一般販売されているボードゲームが中心でした。それに対して、今回、取り上げるリアル体験型ゲームはイベントもしくや公演と呼ばれるものです。ボードゲームが形あるものを遊ぶ有形のゲームだとすれば、リアル体験型ゲームは会場に足を運んで遊ぶ無形のゲームとも言えます。
ゲームとしての性質は、あらゆる点においておおきく異なりますが、ひとの手によって作られ、デジタルを介さずに遊ぶという観点においては、広義のアナログゲームと呼べると、わたしは信じていますので、この連載のひとつとして取り上げさせてください。
リアル体験型ゲームとは?
まずは、リアル体験型ゲームという言葉の定義からはじめていきましょう。
デジタルゲームの場合、プレイヤーはコントローラーを握り、ゲーム画面のなかに存在する主人公やキャラクターに対し、自身を投影するようにして遊びます。たとえば『メタルギアソリッド』であれば、プレイヤーは、ソリッド・スネークになったつもりで、疑似的に敵のアジトに潜入したり、難解なミッションをこなしていきます。
一方、リアル体験型ゲームにおいては、プレイヤー自身が実際にからだを動かして潜入捜査をしたり、用意されたエアガンを用いてミッションのクリアを目指したりします。SCRAP社が手掛ける『リアル潜入ゲーム』シリーズでは、プレイヤーはスパイとなって、用意された施設内でリアルなスパイ体験を得ることができます。
ゲームからは少し離れますが、たとえば遊園地にあるお化け屋敷は、幽霊やゾンビなどの架空の存在に襲われるという恐怖体験を、生身で得られるという点において、リアル体験型と言えるでしょう。デジタルゲームのように疑似的にではなく、あくまでプレイヤー自身が生身のままで、主人公体験を得られるゲーム、それがリアル体験型ゲームです。
リアル体験型ゲームはリアルではない
ここで、ひとつ断っておきたいのですが、すべてのリアル体験型ゲームが、必ずしもリアルであるとは限りません。
そう言って、ほんものの銃やナイフを配って、リアルに殺し合いをさせる。これではリアル体験型ゲームではなく、ただのデスゲームです。
リアル体験型ゲームの場合、司会は同じセリフを口にするかもしれませんが、プレイヤーに配られるのはせいぜい殺傷力のないオモチャです。しかも多くの場合、そのオモチャはフレーバー(ゲームには直接関係しないが、世界観に風味をつけるための要素)に過ぎず、実際には、どういう条件を満たせば、他プレイヤーを殺したことになるのか、ちゃんとしたルールが定められており、そのルールのなかで遊ぶことになります。
つまり、リアル体験型ゲームと言っても、体感がリアルであるだけで、実際にはデジタルゲームと同じように、疑似的に体験しているに過ぎません。
謎解きと推理
リアル体験型ゲームに対する理解度が深まったところで、いよいよ本題である推理ゲームに入る……その前に、あらためて謎解きゲームと推理ゲームの違いを整理しておきましょう。
一般に謎解きゲームと言うと、SCRAP社のリアル脱出ゲームを思い浮かべる方が多いことでしょう。また「被害者を殺した犯人を推理する」を「殺人事件の謎を解く」と言い換えると、推理と謎解きが同じように思えてきます。
連載の第2回「推理ゲームってどんなゲーム?」にくわしく書きましたが、謎解きにおける謎とは、パズルゲームにおける法則探しに等しいと考えています。「AがB'のとき、A'は?」という謎があったとして、この謎を解くための第一歩は「どうしてAがBになるのかを考える」です。AがBになる仕組みが分かれば、おのずとA'がなにになるのかが分かってきます。
対して推理とは事実を元に分かっていないことを推しはかることです。ひとつの連続した文脈(コンテクスト)を持つ物語のなかで、プレイヤーに開示されていない部分を想像して、真相を解き明かすのが推理ゲームです。謎解きと推理、これらは似ているようで非なるものなのです。
リアル脱出ゲームにおける謎解きは目的ではなく手段
リアル体験型ゲームという概念を、より深く理解していただくために、はみだしコラム的に、SCRAP社のリアル脱出ゲームにおいて、謎解きという行為は目的ではなく手段である、という話をさせてください。
謎解きゲーム業界において、SCRAP社がパイオニアであり、リーディングカンパニーであることは議論をまたないでしょう。しかし、同社の代表コンテンツである、リアル脱出ゲームが謎解きを目的としたゲームではないことは、あまり知られていないように感じています。
SCRAP社の会社概要を見ると、まっさきに「株式会社SCRAPは、物語体験をお客様に提供します。」というコーポレートメッセージが目に飛び込んできます。その下には、こんな説明があります。
そう、彼らの目的は「自分がリアルな主人公になれる体験」や「まだ誰も知らない世界に入れる体験」を提供することであって、謎解きはその物語体験を実現するための手段に過ぎないのです。
たとえば『エヴァンゲリオン』とコラボした『崩壊するネルフからの脱出』において、プレイヤーはネルフの職員となり碇シンジたちパイロットを勝利に導く作戦を立案することになります。たとえば『呪術廻戦』とコラボした『呪霊棲まう廃校からの脱出』において、プレイヤーは呪術高専の生徒となり虎杖悠仁たちと共に任務の遂行にあたります。これらの作品において、プレイヤーは謎を解くことで、使徒に対して有効な作戦を思いつくことができたり、呪霊を祓うための手段を思いつくことができますが、ゲーム中に謎解きという直接的なキーワードが出てくることは少ないです。あくまでネルフ職員や呪術高専の生徒を疑似的に体験するための手段として、謎解きは位置づけられています。
ユーザが求めているのは、謎を解くことではなく、その世界において主人公となり活躍する体験だと考え、リアル体験型ゲームを作りはじめたからこそ、SCRAP社は現在の立ち位置を勝ち得たのかもしれません。
リアル体験型ミステリーゲームの年表
前段が長くなりましたが、いよいよリアル体験型ゲームにおける推理ゲームに入っていきましょう。まずは、いつもどおり主要作品の年表を用意してみたので、概要を掴んでいただければと思います。なお、ここからは業界の慣例的に推理ゲームではなく、リアル体験型ミステリーゲーム、略してミステリーゲームと書くようにします。
言い訳になりますが、いままでの年表づくりは市販されているボードゲームだったため、BoardGameGeekやWikipediaをはじめデータが豊富で、過去を振り返りやすかったです。対してリアル体験型ゲームは、演劇の公演に近しく、過去作品の確認は至難です。
わたし自身、謎解きを遊びはじめたのは2016年の終わりからで、リアル体験型ゲームに興味を持ったのもそこからなので、肌身で知っているのは、ここ5年だけとなります。ボードゲームのとき以上に、取り上げるべき重要作品が抜けているかもしれませんが、お気づきの際は、寛大な気持ちでご指摘いただけると幸いです。また、ご覧いただければ分かる通り、今回は国内作品に限っています。
言い訳が済んだところで、年表を見ていきましょう。
今回、ミステリーゲームを調べていったところ、約130作を確認しましたが、そのうちの7割は1987年から作品発表をはじめたE-pin企画によるものとなります。近年になってdp96sや、すゞひ企画など新たな団体が頭角を現しますが、歴史という観点からも作品数という観点からも、ミステリーゲームはE-pin企画が牽引してきたと言っても過言ではないでしょう。
ここからは、各団体ごとの傾向や、ミステリーゲームの特性、そして近接コンテンツとしてイマーシブシアターを見ていきます。
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