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「唐揚げロボット」開発のアールティ・中川友紀子さんに聞いた、ロボット会社経営術【コモさんの「ロボっていいとも!」】

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こんにちは、コモリでございます。

ロボティクス業界のキーパーソンの友達の輪を広げるインタビューコーナー「ロボっていいとも!」のお時間となりました。



ここ最近、大学の先生とのインタビューが続いた当コーナーですが、今回は久々に企業側のキーパーソンの登場になります。


今回のゲストは、ロボット業界で会社創業して約15年と、生き残るのが難しいロボット業界の中で長年活躍し続けるベテラン経営者。その歴史を聞くだけでも、ロボット業界で生き残るための様々なヒントが出てくるのではないでしょうか。

Foodly_協働01

また、今回のゲストが現在展開しているロボットは、通称「唐揚げロボット」という唐揚げを弁当に盛り付けることができるロボットFoodly
。普通の人だとピンとこないかもしれませんが、ロボットに携わる人ならこれの凄さはよく分かると思います。

この唐揚げロボットがどのように誕生したのか、そしてこれまでの会社経営の苦労話や将来の展望など、ロボット開発会社を長年経営してきた知見をいろいろ聞いてみたいと思います。



それではゲストをお招きしましょう。本日のゲスト、玉川大学 岡田浩之先生からのご紹介、株式会社アールティ 代表取締役の中川友紀子さんです!

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中川 友紀子
株式会社アールティ 代表取締役

中川:こんにちは。よろしくお願いします。



ハードウェアの人とソフトウェアの人をつなぐ人

――まずは自己紹介というか、ご自身がロボットに関わるようになったキッカケなどを伺えますか?

はい、アールティというロボット開発などを行っている会社の代表をやっています中川と申します。

本格的にロボットに出会ったキッカケは、大学1年の時の「マイクロマウス」ですね。

元々アニメ漫画の『サイボーグ009』が好きで、人工臓器を扱うような勉強をしたいと考えていました。ただ、入学直後に人工臓器について教えてくれる教授が異動してしまい・・・。

そんな失意の中でサークル勧誘活動を受けていたのですが、とあるサークルで見かけた迷路を素早い速度で動き回るマイクロマウスに魅了されて・・・

マイクロマウス研修_社内大会02

※イメージ


――そこからロボットにどっぷりハマったんですね。

いや。実は大学のサークル時代は、結局ロボットを動かせるようにはならなかったんですよね。

というのも、当時はコンパイラとかも何十万円もするような時代でしたし、技術も当時はよく分かっていなかったので。先輩もいたし、機材もサークルで所有しているものもありましたが、とにかく難しかったですね。


――ではそのような状況下で、ロボットにより深く関係するようになったキッカケは?

今はディープラーニングでAIがブームですが、当時はファジィ・ニューロが流行っていまして。私が入った研究室は画像認識やロボットなどをやっているところでした。

その中で私は画像認識の研究をやっていたのですが、その中で「カメラが動かない」ということが不満でした。固定カメラによる静止画だけで研究していると「カメラをロボットに載せて、可動で撮影した画像が欲しい」という気持ちになって。そんな経緯もあって、実はロボカップに参加するようになったんです。

その後、日本未来科学館に入ってASIMOの展示やメンテナンスをしていたりして、さらにもう1社挟んでから、2005年に現在の会社を創業しました。


――どうして創業しようと思ったのですか?

日本未来科学館で仕事をしていた時に、「ロボットではサービス分野が面白くなるのでは」と感じていました。

先ほども話したとおり、私は元々は画像認識などのAIが専門でしたし、創業した2005年前後は愛知万博開催などでロボットのブームも来ていたので、「AIでスマートに動くロボットを作ってみたい!」と思って独立しました。

ところがその当時、自分が考えたAIで動かせるロボットがひとつもありませんでした。「独立したのに、これは困ったぞ」となって。(笑)

でも会社を立ち上げてしまったので、何かしらの事業をやっていかないと仕方ないので、まずはロボット人材を育てる教育事業を始めることにしたのです。で、その過程であることに気づいたんです。


――どんな気づきですか?

肌感覚的に同様のことを思っている方ももいると思うのですが、ハードウェア業界の人はソフトウェアのことをあまり知らないんですよね。で、逆も然りで、ソフトウェア業界の人はハードウェアのことをあまり知らない

一方私はと言うと、ハードウェアもソフトウェアも両方やっているので、ハードウェアに関わる人の気持ちやソフトウェアを作る人の気持ちがそれぞれ分かるんですよね。たとえばハードウェア業界の人が集まっているところに行くと「中川さんはソフトウェアのことをよく知っていますよね」と。ソフトウェア業界の所に行けば「中川さんはハードウェアの人なんですね」と。

自分の中では「そんな区別を付けなくても良いのに・・・」という想いがありましたけど、一方で両方の気持ちが分かるからこそ、今の会社で独自のポジションが築けたのかなと思ってます。


――独自のポジションとは?

20210125_アールティ会社説明共有資料 (1)_ページ_6

自分の会社をパソコン業界で例える時によく言っているのが、「うちの会社はApple社みたいな会社」というもの。つまりソフトウェアもハードウェアも両方やる会社という意味です。

ロボット業界では、ソフトウェア開発会社は既存のハードウェアにソフトを実装するケースが多いですし、ハードウェア会社ではソフトウェアを開発することはほとんどないです。

アールティは両方やるので、ハードウェア会社・ソフトウェア会社とそれぞれ手を組んで事業展開や受託開発したりすることができます。



中食業界にロボットのイノベーションを

――なるほど。そんなアールティさんが展開している事業の中で、食品工場で稼働しているFoodlyがありますよね。まず、このロボットについて教えてもらえますか?

Foodlyは一言で表現すると、食品工場で作業される方の隣に一緒に並び、盛り付け作業ができる双腕人型協働ロボットです。

よく「唐揚げロボット」と言われるのですが、その理由はFoodlyが唐揚げのような形やサイズがバラバラの個体が積み上げられた食材でも画像認識で個体を判別し、またロボットが苦手とする柔らかさのある物体でもピッキングできるからです。

Foodly_ネジのないボディ

もちろん、食品工場での使用が想定されているので、外側から見えるネジは無いようにして異物混入が無いようにしたり。

Foodly_トング交換可能

また、食材を掴む手の部分も交換できるようになっていて衛生的な配慮もされています。


――そもそもFoodlyを開発しようと思ったキッカケは?

とあるクライアントさんから、介護食を取り扱えるロボットの開発案件が持ち込まれたことがキッカケでした。

ところが介護食は同じメニューでも、たとえば提供する高齢者の咀嚼の状態に応じて5段階の柔らかさを用意しないといけないなど、非常に細かい指示があるんです。

先ほども話したとおり、ロボットは柔らかい物体を掴むことがあまり得意ではないので、とにかく介護食をターゲットにしたロボットの開発は困難を極めました

その結果、この開発案件は東京都の補助金事業だったので、開発から1年後に補助金を打ち切られてしまったのですが、その間にウインナーやちくわのような、ある程度の柔らかさの食材を掴む技術は実現できていたので、「あとは山盛りになった食材を個体で識別できるようになれば、ロボットで食材を掴んで弁当を作ることができる」と考えたのです。

そこで画像認識技術などを導入して、唐揚げのような不規則な形の食材が山盛りになっていてもそこから識別できるようにして、唐揚げなどの食材を掴んで盛り付けるロボットが完成したわけです。


――「唐揚げが掴める」というのがユニークポイントであれば、「(唐揚げが掴める)ロボットがいる唐揚げ屋さん」で商売をしても面白い気がするのですが、やはり食品工場で使われることがメインなのですか?

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そうですね。Foodlyが採用されている業界は「中食(なかしょく)」と呼ばれる、外食でも内食でもない、家庭以外で調理されて家庭内で食べる食品を扱う業界をターゲットにしています。

同じ食品を扱う業界でも、外食産業、内食産業、そして中食産業で違う業種扱いになっていて。

外食産業が扱う機械はたとえば大型冷蔵庫とか厨房設備がターゲットになり、内食産業だといわゆる炊飯器のような家電製品になり、そして中食産業は食品機械という分類になります。


――Foodlyが完成したことも理由ではあると思うのですが、アールティさんが中食産業に参入しようと考えたのはなぜですか?

会社立ち上げ時期の頃は教育事業がメインだったのですが、そこで教育を受けたロボットエンジニア達がさらに活躍できる、ちゃんと働ける場所が必要だということも感じていました。当時もロボットベンチャーの会社は死屍累々というか、とにかく自社が勝てる分野を探す必要がありました。

そんな中で、いろいろな人の話を聞いたり縁があり、何年も熟考して中食産業をターゲットにしようという考えに至りました。



アールティ社流の人材育成術

――ハードウェアもソフトウェアもやって、しかも独自のポジションを築くアールティさんですが、御社の事業についてもう少し詳しく教えてください。

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当社は主には3つの事業を持っています。

ひとつは創業時からやっている教育事業。そして、先ほどのFoodlyなどが含まれる自社開発の事業。あと、受託開発事業も手がけています。

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教育事業について、主な顧客層は大学以上、企業向けのものを行っていて、このスライドにあるように、組み込みパーツからマニピュレータ、そして教科書までも当社ですべて用意があります。

また、こうした教育事業で培ってきたものは、大学の研究室の先生などと連携して理論的な体系化を行っております。

そうした理論付けされた技術を持っていることも外部から評価されて、実証実験や試作などの受託開発の依頼が寄せられているという感じです。


――これらの教材・製品の幅広さを見ると、いろいろな会社からの引き合いも多いのではないかと思われますが?

おかげさまで様々なお話をいただいており、それらを約30人の従業員で対応しています。一人がいくつものプロジェクトを抱えて進めていたりもしています。


――そうなると、従業員一人一人の能力も重要ですよね?

実は教育事業で提供している教材は、うちの会社のスタッフのトレーニングでも利用されています

また、全従業員にマイクロマウスあるいはロボットレースを必ずやってもらうようにしています。そういう点もうちの会社のスタッフの強みだと思います。


――それはエンジニアの方以外もですか?

マイクロマウス研修_はんだ付け

はい、経理や広報のスタッフも同様にトレーニングを経験しています。うちのスタッフで半田付けをやったことがない人はいないと思います

「『ロボット会社に勤めているのにロボットを作ったことがない』というスタッフが社内に存在しないようにする」が私のポリシーです。

あとアールティでは、エンジニアの採用枠でロボコン経験者は優先的に採用しています

やはり、ロボコンに参加している人たちは何かしらのものを作りたいという想いがあったり、ロボットについて学びたいという意欲が強い方達なので、良い人材の方が多くいます。

マイクロマウス研修_社内大会01

先ほど「全従業員にマイクロマウスあるいはロボットレースをやってもらっている」と話しましたが、実はそれぞれのコンテストも社内で実施していて、全従業員はそこも卒業しないといけないですし、さらにエンジニアは社内コンテストを卒業後、本当のロボコンにも出場することも課しています。


――そこまで社員教育で育てられた優秀な方達だと、外部のロボット会社から人材の引き抜きに遭ったりしませんか?(笑)

おかげさまで、社員は「うちの会社が良い」ということで残ってくれているので、本当にありがたい話です。

逆にそういう人材を必要とされる企業向けには、トレーニングを提供しているので、ご興味のある企業さんはお声がけいただければうれしいですね。



人間とロボットが共存する世界にこだわる

――そろそろ最後になるのですが、中川さん自身あるいはアールティさんが目指す今後の展望などについてお聞かせください。

Foodly_協働02

会社のビジョンとして「Work with Robot」、つまり「ロボットとともに働く」ということを掲げているのですが、Foodlyも含め協働型ロボットの開発に注力したいと考えています。

これには2つの理由があり、ひとつはロボットではどうしても対応できない食材があるということ。もうひとつは、10~20年後にAIがもっと発展した時でも人間のエキスパートがいないとAIがトレーニングできないという危惧です。そのためにも、ロボットが世の中に増えても人間は残っていて欲しいと思っているのです。

そういう考えもあり、完全自動のロボット社会を目指すよりは協働型のほうを志向しています。

あと「中食産業以外へ進出しないのか?」と聞かれることもあるのですが、中食だけでもロボット化はまだまだ進んでおらず、課題は山積みなので、引き続き中食産業に注力していきたいと考えています。


――逆にロボットが人間のエキスパートを教育する・・・という未来はどうですか?

うーん、どうでしょう。ケースバイケースな気もします。

当然、人間は労働的な制約条件はありますが、人間はロボットよりも認識能力や判断能力はまだまだ高いと思いますし、なにより「美しさ」のような曖昧な判断もロボットはできない。

たとえば弁当箱に食材を盛った時の美しさは、人間が教えないとAIはいつまでも判断はできないので。そういう部分でも完全自動ではなく、人間がロボットのそばにいる世界を続けたいですね。



お友達紹介

コモ:それではお友達紹介のお時間になりましたので、お友達をご紹介いただけると。

中川:ROSCon JPを一緒にオーガナイズしている、OpenRoboticsのジェフ・ビグスさんを紹介します。

コモ:ありがとうございます。ジェフさんに伝言はありますか?

中川:「ROSとロボットの未来について熱く語ってくださいね!」と伝えてください。・・・まあ、ジェフさんとはしょっちゅう会っているのですが。(笑)

コモ:はい、今日はありがとうございましたー。



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