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【日本語解説】Unity 技術ロードマップ 2020 (第5回) ~「オンラインゲームの技術(Live Games)」について~

2020年4月1日に公開された動画「Unity Roadmap 2020: Live Games」の内容を日本語翻訳・解説します。

過去4回、「Unity Roadmap 2020: Core Engine & Creator Tools」というコアテクノロジーについての日本語解説を行いましたが、それらの記事はこちらのマガジンにまとめてあります。


今回の記事は「Live Games」、つまりUnityにおけるオンラインゲームに関するテクノロジーの技術ロードマップの紹介です。

UnityにはゲームサーバーホスティングサービスのMultiplayやボイスチャットサービスのVivoxなどのオンラインゲーム向けサービスがありますが、今回は特に新しく加わる(あるいは直近で加わった)・・・
 ・deltaDNA
 ・Game Tune
 ・Cloud Content Delivery
・・・という3つのオンラインゲーム向けサービスについて紹介・解説します。

それではどうぞ。


新規プレイヤーの70%以上が わずか1日で脱落する現実

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この20年間でゲーム市場にて起こった興味深いトピックスの一つは、(スライド左の『Oregon Trail』のような)パッケージ製品として仕事が終わるような時代から、(スライド右の『Crash of Clans』のような)オンラインゲームのように継続的にコンテンツを更新して人々を魅了し続けないといけない時代にシフトしたことです。

その結果、皆さんが開発したゲームコンテンツを非常に長期間ビジネス的に維持できるような恩恵が産まれ、8年間も継続している『Crash of Clans』はその中でも偉大な事例と言えます。しかし、すべてのオンラインゲームが『Crash of Clans』のようにうまくいっているわけではありません


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実際のところほとんどのオンラインゲームは、新規プレイヤーの70%以上をプレイ開始初日だけで失っています。(ちなみにこの数値はUnityが2020年に分析したAnalyticsの数値です)

これらのゲームに心と魂を入れているすべての素晴らしいゲームクリエイターの皆さんのこと、そして心と魂が込められたゲームからあっという間にプレイヤーが去ってしまうことに思いをはせると、悲しむべき統計データの一つと言えるでしょう。

そう、これこそが私たちが皆さんのオンラインゲームで解決しようとしている問題なのです。

皆さんにツールを提供し、なぜプレイヤーが皆さんのゲームから離れてしまうかを皆さんに理解してもらい、そしてプレイヤーを飽きさせないより良いゲームを皆さんが作れる手助けを、私たちはしたいと思っています。


オンラインゲーム向けツールへのUnityの基本理念

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今日話すトピックスに入る前に、Unityが開発していることの背景にある基本理念(principles)について少しお話します。

Unityは、開発者の皆さんが抱える問題が本当に解決できているか?を第一に考えています。

皆さんが開発したオンラインゲームで多くのプレイヤーが離脱していることをUnityは把握しています。そして、皆さんがプレイヤーをゲーム内に留めることができるような製品を提供したいとUnityは考えています。この問題を理解するために、Unityはあらゆる開発規模のクリエイターの皆さんから多くのフィードバックを集めました。

Unityを開発に使っているかどうかに関わらず、どんなジャンルのゲームを作っているかに関わらず、私たちのツールは開発者の皆さんのために機能すべきだというのが、Unityの基本理念の一つです。

プレイヤーのエンゲージメントを確実に向上させるツールを開発することが、Unityがここでやろうとしていることです。そして、これらのツールは開発者自身で使えるようにしたいと思っています。つまり、シンプルであるべきですし、コースウェアや専門スタッフも必要としない、そしてすぐ使える状態にあるということです。


プレイヤーのエンゲージメントを向上させる「deltaDNA」

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ではまずは、deltaDNAについて話したいと思います。

deltaDNAは2019年9月にUnityファミリーに加わった、オンラインゲームにおけるプレイヤーのエンゲージメントを向上させるための、興味深い開発者支援ツールです。


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それでは、deltaDNAがどのような問題に取り組んでいるのかを説明します。

前述の通り、ほとんどのオンラインゲームでは新規プレイヤーの70%以上が離脱しており、数週間後にはわずか数パーセントのプレイヤーしか遊んでいません。

当然ながら、プレイヤーがオンラインゲームをプレイしてくれないと収益には結びつかないので、明らかに皆さんのオンラインゲームビジネスの障害になっています。


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deltaDNAが取り組んでいることは、開発者の皆さんがより良いゲームを作るためにデータから適切な洞察(insights)を得て、プレイヤーをゲーム内に留め、収益を創出できるようにすることです。

では実際にはどういうことを指すのでしょうか?


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一つは「アナリティクス(Analytics)」です。プレイヤーがゲームで何をしているのか、どこで離脱してしまうのかを理解し、離脱ポイントの改善に役立てることができます。

次に「適切なプレイヤー分類(customer segmentation)」です。つまり、プレイヤーがどのようなゲームを好む・好まないか、そしてなぜそうなのかを特定し、より適切な体験をプレイヤーに提供できるよう試みることです。

また、ゲームやイベント内容をどのように改善するかを決める際に、開発中のゲームを公開して少人数で安全にテストできるようにすることもあるでしょう。

そして、的確にプレイヤーへメッセージを送ることで、どのプレイヤーがどんなゲームを遊んでくれるかなどのプレイヤー情報を得ることができます。そして、こうしたやり取りを通じて、ゲーム内でのメッセージングについてもプレイヤーごとにパーソナライズしたものにすることができるようになります。


測定(measure)、分析(analyze)、エンゲージメント(engage)のループ

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こうした測定(measure)、分析(analyze)、そしてエンゲージメント(engage)のループについて。

まず、測定ツールによって測定した部分からダッシュボードやアラートを活用して問題を特定し、そこから分析ツールで「なぜそのような傾向が見られるのか?」を把握するためにデータを深く分析していきます。このようなデータマイニングによる予測はファネル分析のようなものですね。

そして分析の結果、一旦解決策を見つけたとしても、それだけでは「(プレイヤー行動や傾向を)理解した」とは言い切れません。それに基づいてアクションを起こす必要があります。そこで、A/Bテストやターゲティングによるゲーム内メッセージングなどのエンゲージメントツールの出番になります。


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このようなアプローチによってゲームを改善できた事例として、Greener Grassというゲームスタジオの例が挙げられます。直近ではdeltaDNAを活用して、58%もの収益増加を達成しました。


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Greener Grassの人たちは、インタースティシャル広告がどのようにアプリ内課金に影響を与えるかが分かりませんでした。

そこで彼らが行ったことは、プレイヤーへのインタースティシャル広告の表示の有無によるプレイヤーのコンバージョンとリテンションに違いがあるかを確認するため、これら一連のA/BテストをdeltaDNAを使って行いました。

結果、プレイヤーの初回購入機会とゲーム全体の収益が大幅に増加しました。広告収入に影響を与えないように最適化することができ、1日のアクティブなプレイヤーあたりの平均収益(ARPDAU: average revenue per daily active user)を65%増加させることができました。

このようなテストを行うことで、ゲームのさまざまな部分のバランスを取る方法の本当の答えを見つけることができます。


deltaDNAの将来の機能:機械学習で特定行動を分析し、離脱プレイヤーを識別する

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deltaDNAに関する今後の予定について少しお話しします。

deltaDNAが強力なツールキットであることは前述のとおりです。deltaDNAは様々なA/Bテストを行えるだけでなく、非常に細かいプレイヤーのセグメンテーションに対してメッセージングを行うなどができます。

そして今年取り組んでいることの一つは、機械学習についてさらに注目していることです。これは現在、deltaDNAのアルファ版に機能として実装されています。

これはPredictive Segmentsと呼ばれる機能で、特定の行動をするであろうユプレイヤーを機械学習で識別することができます。たとえばゲームを離脱するであろうプレイヤーだったり、逆にお金を払ってくれるであろうプレイヤーだったり、そういう行動を予測しプレイヤーを識別します。本当にクールな機能です。


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deltaDNAにご興味がございましたら、ぜひウェブサイトへアクセスしてください。30日間無料ですべてお試しいただけます。

また、Predictive Segmentsのページもウェブサイトにあり、オファーにサインアップすることも可能です。


機械学習を活用して瞬時にゲーム調整し、すべてのプレイヤーに最高のゲーム体験を提供する「Game Tune」

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続いて、Game Tuneというβサービスについて紹介します。


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UnityがGame Tuneで実現しようとしていることは、機械学習のベストプラクティスを持ち込み、それらをゲーム開発者の皆さんが利用できる形に整備することです。

前述のようなテスティングをしっかり行っている人たちもいれば、とにかく早くリリースしている人たちもいるでしょう。しかしながら、多くのゲーム会社は機械学習やデータサイエンスを提供してくれるパートナーとのコンタクトの取り方すら知らないことを、Unityは理解しています。


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そこでUnityが構築しようとしているのは、すべての開発者が最先端のデータサイエンスをゲームで使用できるようにする、クラス最高のデータサイエンス製品です。

Game Tuneは、Unityの機械学習を活用してリアルタイムでゲームを調整し、すべてのプレイヤーに最高のゲーム体験を提供できるようにしようとしています。


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Game Tuneの素晴らしいところは、すべてのプレイヤーに均一に最高のゲーム体験を提供するのではなく、またプレイヤーをセグメント化してゲーム体験を調整することでもありません。

つまり、プレイヤーごとにが異なる形ではありながらそれぞれで最高のゲーム体験を得ることができる・・・ということです。

Unityがやろうとしていることは、すべてのプレイヤーが適切な体験を得られるような製品を作ることです。ゲーム内で一番夢中になれる体験をしてもらい、どうすれば長くゲーム楽しんでもらえるかを考えています。

これは大変画期的なアイディアと言えるでしょう。つまり、様々なタイプのプレイヤーのためにベストなゲーム体験を提供すべく、こういう形のリアルタイムでダイナミックにコンテンツを変えて配信できるようなゲームを皆さんが作れるようになる・・・ということです。


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では、実際にはどのようの機能するのか?を説明します。

Unityは、特定の目標に対して最適化することを行おうとしています。そして、そのほとんどの場合は「リテンション(=プレイヤーの維持)」が最適化したい目標です。

上記は、Hard、Medium、Easyのそれぞれの難易度のために3つの代替案を用意した様子を示しています。

開発者の皆さんが自分のゲームにできることと言えば、プレイヤーごとに適切な難易度を割り当てることです。たとえば、プレイヤー1はHardな難易度のゲームプレイを好むでしょう。なぜならこの手のゲームをプレイした経験が豊富だから(と分析で推測されるから)です。プレイヤー2はこの手のゲームプレイ経験はあるものの今はプレイしていないようなので、Mediumでプレイできるようにします。そして再びプレイヤー3はゲームが得意なようなので、Hardでのプレイ環境を提供します。

このようにGame Tuneは、どのプレイヤーに対してもそれぞれにマッチする難易度のプレイ環境を提供し、プレイヤーが望む最高のゲーム体験・チャレンジを実現します。


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Unityは、特に予測能力の大幅向上が期待できる強化学習モデル(reinforcement learning model)の導入などで、機械学習の更なる開発を進めております。

また、開発者の皆さんが行いたい事、たとえば広告表示やアプリ内課金オファーの頻度の設定をテンプレート化したいと考えております。Unityはこれらが使いやすく、また強化学習モデルがより洗練されたものになることを望んでいます。


プレイヤーに楽しんでもらえるようにしながらゲームの収益を伸ばす

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Game Tuneの実例を紹介しましょう。

Futureplay社の『Idle Farming Empire』というゲームの事例で、(Game Tuneの導入で)1ダウンロードあたり8%の収益増がもたらされました。


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実際に『Idle Farming Empire』をプレイすると、非常に良いチュートリアルのテンポ感に気づくと思います。

このゲームが抱えていた課題の一つは、適切なチュートリアルのテンポ感に確信を持てなかったことでした。つまり、プレイヤーにとってよいバランスを見つけることではなく、プレイヤーが持つ4つのプレイ速度(超速い、速い、遅い、超遅い)に合わせてチュートリアルのテンポ感を変化させることで、これを改善しました。

これにより、プレイヤー全員がゲームの知識をちゃんと身に着けた状態でチュートリアルを終えることができ、次のチュートリアルへ進むことができるようになりました。

その結果、プレイヤーの7日後のリテンション率がアップしていたことがデータで分かり、自然と収益増加につながったのでした。

これは本当に素晴らしい事例だと思います。なぜなら、収益増加に影響しただけでなく、プレイヤーがゲームプレイを楽しもうとする部分に影響を与えようとしたからです。


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Game Tuneはまだβサービスですが、ウェブサイトにアクセスしてサインアップし、SDKをダウンロードして製品をお試しいただくことができます。



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最後はCloud Content Deliveryです。


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実のところ、包括的で信頼性の高いコンテンツ管理配信ソリューションはあまりありません。オンラインゲームの開発・運営のほとんどのケースでは、様々なツール群にほんのちょっとSpread Sheetで管理する部分が混ざっていたりなど、ごちゃごちゃしたシステムになっていると思います。

これでは誰もが使いやすいシステムとは言えませんし、実用的でもありません。そして、これは多くの開発者の悩みの種だと思います。


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Unityはこの問題を適切に解決したいと考えています。

Cloud Content Deliveryは、誰もがどのコンテンツがどのビルドで使用されているかの確認手段などを提供するコンテンツ管理システムを持っており、ゲームエンジンを問わず便利でコスト効率の良い方法であります。


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このことはCDN以上の価値があるものだと考えています。つまり、CDNが持つすべてのコンポーネントを持ち、地球規模で分散し、信頼できる性能があり、そして100%のアップタイム(稼働時間)があることが重要だということです。

しかし、Unityは他のCDNがやっていることを置き換えようとしているわけではありません。Unityは、ゲーム会社のために機能するワークフローとエクスペリエンスを作りたいと考えています。


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それによるメリットについて。

まずは、皆さん自身のツールキットの構築やメンテナンス、新規スタッフの教育の心配をせず、また便利に且つ直感的に使えるようにすることで、ゲームの市場投入時期を早めることができます。

当然、CDNのように信頼性が高く、100%のアップタイムや高い費用対効果も欠かせません。そして、Cloud Content Deliveryにクラウドサービスを集めることで、断片的なコストがかからないようにできます。

また、会社内の誰もがコンテンツ配信の役割を担える(ようなダッシュボードが使えるようになります)。


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ここではひとつひとつの機能には触れませんが、重要な機能だけ紹介します。

アイデアの多くは、技術者ではない人にもワークフローを開放することです。つまり、非常に細かいパーミッションコントロールが可能で、誰もがリビジョンシステムに対して非常に細かいコントロールができるわけで、誰もがどのリリースバージョンに何が含まれているかを知ることができます。

非常に迅速に開発を進められるメカニズムを持っているので、わざわざデプロイのたびにメール連絡する必要もありません。どのリリースにどのコンテンツが含まれているかを記録するシステム(badging)を持つことで、一貫性が保たれるようになっています。

また、技術に詳しくない人がアクセスできるダッシュボードがあることはもちろん、APIを介してプログラム的に動作させることも可能です。


注目しているもう一つのニーズは、統合作業を必要とせずに既存のUnityプロジェクトとCloud Content Deliveryが連携することです。UnityはAddressable Systemアドレスを提供していますが、これと直接統合してコンテンツ管理できるようにしたいとしています。また、Unity Cloud Buildのような新しいクラウドサービスとの統合も進めています。

そして、CDNには低レイテンシーと高速なレスポンスタイムが求められます。Unityは、世界的なCDNリーダーであるAkamaiとのパートナーシップを通じてこれを実現します。


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Cloud Content Deliveryの正式リリースは2020年の第2四半期半ばごろを計画しています。まず、フルマネージドサービスとコンテンツ配信、それらのサポート機能などを備えた状態でリリースされます。

その後は、差分パッチ、永続的データストリーム、空間データクエリなどの高度な機能をサポートすることに注力しています。


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Cloud Content Deliveryもウェブサイトがあります。サインアップすると、現在進行中のパイロットプログラムに参加することもできます。



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