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往復書簡/N→S/2022年10月1日

お題「秋空」「おくんち」「柘榴」

『閉塞感と秋の空』

「タイムループをしているみたいだ。」

考えていた事が声に出てしまっていたらしい。
「タイムループって何ですか?」
と目の前に座る同僚からの問いが返ってきた。

【タイムループ】
同じ日を何度も繰り返し一向に明日へ辿り着かない現象の事。


そんな説明をして意味は分かってくれた様子だったが、だからといってタイムループをしているなんて突然言い出した人間を理解できなかったのだろう。相槌以上の声が戻ってくる事もなく互いに机の上の仕事へと目線を戻した。

タイムループをしているとしたら原因は、そうだな…フクロウを擬人化した姿の怪しげなおじさんに渡された赤い果実を口にしたような、夢を見たような、気がする。
その果実の名は”ザ・クロウ”——

疲弊を増幅させるしかない睡眠から目覚め、今日という一日は始まる。
朝のワイドショーを垂れ流している間に身支度を整えて、朝食を食べて、歯を磨く。家から職場までの間に出会う人達は決まって、同じ場所、同じタイミングで、同じ行動をとっている。やはりタイムループに違いない。

職場に着いてからも、多少の差異はあったとして、特段大きな出来事があるわけではない。ごくたまに特段大きな出来事があれば、それはきっと、時空を乱す無意識な"歪み"みたいなものが原因で、その歪みが何だったのかを思い出そうと行動してみるが、特段大きな出来事はそうそう起こりはしない。

勤務開始時間になって、いつも目の前にいるはずの同僚がいない事に気がついた。
「明日から新婚旅行に行くので休みをもらってるんですよ。」
そういえばそんな事を言ってたっけ。照れ隠しなのか後頭部をしきりに触りながら話すので、乱れた髪の間からは白い物がポツポツと混じっているのが見えたくらいだ。
同僚がいないという多少の差異で、いつもと少しだけ違う空気が流れた。

自宅に帰るとすぐに洗面所へ直行する。これも同じ。
洗面台の前に立って手洗いとうがいを念入りに行う。
仕事疲れが若干残った自分の顔が鏡に映っているが、変わりはない。ある年齢を超えてからは見た目にも大きな変化はなくなった。
だが、よく見たら目尻の皺やシミが増えた気もする。
変わりたいのに変われない日々の中で懸命に抗っているようで、それもいつかは限界が近づくだろう。
「タイムループであってくれよ…」
弱々しい拳が鏡に"コツン"と音を立てた。

疲弊を増幅させる睡眠からの目覚め。明日が今日になった。
今日もワイドショーでは、若手俳優の主演舞台挨拶や海外で活躍するスポーツ選手の話題、大規模イベントを開催したというYouTuber達の祭典も取り上げられている。新世代と呼ばれる初々しい集団が人気のようだ。トリに出てきた大御所の兄弟YouTuberは流石に貫禄があって……歳下?
「……老けすぎだろ!」

朝食のヨーグルトを取り出そうと冷蔵庫を開けると、スーパーで柘榴という果実を買っていた事を思い出した。まるで夢の中で見たアレと同じ赤色に吸い寄せられるように手にとった物体は、中にある粒を食べるらしく、効能の一つに老化予防と書いてあった。
いつも食べているヨーグルトにかけてみたら、酸味の中にほのかな甘味が広がってまあまあ美味しい。

ほんのひと手間を加えただけで変わるものなんだな。
洗面台の前で歯を磨きながら考えていたのは、さっき食べた柘榴入りヨーグルトの味。
これは、歪みにはならないだろうか?
そう思うと、少しだけ今日に期待が持てそうな気がしてくる。

鏡に映るのは今日も変わらない顔。
もう少しだけ抗ってみるから、そしたら、変わっていいんだよ。

「ネガティブを極めし者の定めかな変わらぬ黒髪嗚呼草草」

声に出た言葉が洗面所の中に響き渡って、目尻の皺がいっそう際立った。

巻尺様

この前こんな事がありました。
家に帰って着替えを終え、ふと机を見たら、置いたはずの定期がないんです。数日前にも脱いだズボンのポケットから落ちていたので、ポケットやカバン、その周辺を探してみましたがありません。ベットの隙間、ベットの下まで覗いて、見つかったのは髪留めとボールペンだけ。
バス停までの途中の道で落としたのかもと、再度着替えて戻ってみましたが、落ちてはおらず。残る可能性としては、バスを降りる時に上の空で携帯をいじっていたので、定期をかざした直後に入口に落としたのかもと考えました。
家に戻ってバス会社の電話番号を調べようと、携帯を持ってベッドに座った時、目の前にある机の上にはいつものように定期が置かれていました。
もう一つの衝撃は、頭の中で想像していた定期の色と違ったのです。確かにこの色の物体なら探している時も視界に入っていたなと…こういうのを老化と言うのでしょうか。

そんな老化な日々を過ごしておりますが、お元気にお過ごしですか?

最近は以前ほどメッセージでのやりとりもなく、この往復書簡が本当に近況の報告としてのお手紙のようにも感じます。
でもインスタのストーリーでは動向をチェックしているので、知っているといえば知ってもいます。ご健康で何よりです。
製作室も、稼働再開を待ち侘びていた人も多い事でしょう。

たまに忘れてしまいます。
「こんなにいてくれたんだ」と。
忘れずに維持出来ていれば、もっと違った感覚で過ごせるのでしょうが、難しいものです。
巻尺さんがいつも写真を撮って残しておくのは、その時を忘れないようにという感じでしょうか。写真NGと言って断ってばかりですみません。

最初の話に戻りますが、定期を見つけた時、ちょっとだけ幸せを感じました。
増えたものはなく、ただそこにある事を実感しただけで。
洗面台でよく落としてしまうコンタクトも、見つからず諦めかける度に、こんな所にまで飛んでいたのかという場所で見つけたりします。そしてやっぱりちょっとだけ幸せを感じます。
うまく文章に出来ませんが、こんな気持ちになるものが普段の生活の中にも沢山あるのかなと、あるとしたら、なくした時じゃなくていつでも感じていたいなと思ってしまいます。

こんな思考ばかり頭の中を駆け回っているので疲れるわけです。
最近ではそれをメモしておいて、いつか何かのネタに出来る日まで取っておきます。それが今回の「お話」の元です。

でもその前に前回の巻尺さんの「お話」。

これを読んだ事によって最初の話をもう一度読み返すと、想像で補っていた部分が明確に現れました。
実のところ最初の話、既に別れていると思っていました。
二作を読んで、脳裏には私が昔から好きな歌手・小松未歩さんの「さよならのかけら」という曲がBGMとして流れています。
1番と2番で男女の視点が変わる歌詞で、お時間があれば聴いてみてください。

さて、今回の私の「お話」ですが、読まれて思った事でしょう。
「おくんち」外すのかと。
正直に言うとおくんちについては書けるほど詳しくないし、思い出の引き出しもないので、初めから入れないつもりでいました。
文才があれば、おくんちキューピー達がウニスカの売り場を飛び出して人の代わりに庭先回りをして元気を与える。そんなファンタジーでも書いてみたいところでしたが、それは周りにいるどなたかが書いてくれないかなと期待しておきます。
エッセイとの違いを見せるのが課題で、物語と呼べるものを書くのはまだまだ難しいです。

次のお題は、
「紅葉」「焼き芋」「冬支度」
で挑戦してみてください。

話し足りなかった分長くなってしまいました。
お互い引き続き、今の現状を乗り越えていけるよう頑張りましょう。

ウニスカ

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