錯誤

「人ってどうして同じ過ちを繰り返すんだろうね」
息子の声が鼓膜に響いた。
咄嗟に目を反らしたがその先にあったのは妻の写真だった。

どうしてこんなことになったのだろう。
どんな小説も無意識に作者の性格が表れるように、自分を偽ることはピエロにならない限りできないのであろう。

どんなに取り繕っても事実は変わらない、
それでもあのときあんなことをしてしまったのは本当に自分たちから離れて欲しく無かったからだ。
自分の快楽のためじゃない。むしろ初めて飲んだ酒のように最悪の後味だった。それでも何故か飲んでしまう。そしていつしか癖になる。

あの痛みを忘れることはないが、もう謝ることもできない。
本当にそんなつもりはなかったのだ。本当に。
そんな事を考えていると、どこからか息子の声が聞こえる。

「きっと独裁者ってある人にとってはヒーローで、ある人にとっては悪者なんだよ。でもお母さんにとってお父さんはどっちだったんだろうね。」

「きっと後者だよ。まるで厳しい政治で身勝手に振る舞っていた秦の始皇帝のように見えていたんだろう。私のことは,,,」

震えた声が虚ろのような部屋に響く。

「そうかも知れない。でもね、僕は違うとおもうよ。確かに暴力はいけないことだけど、どうしようもないこともある。でもそれをわかってるからお母さんはつらかったんだ。お父さんの事を理解してるからこそ,,,」

そのあとはもう聞こえなかった。

かつて秦の始皇帝は占い師に「胡が神を滅ぼす」と言われ、異民族(胡) を警戒し、結果、彼の死後、息子の胡亥は国を滅ぼした。

もしかして自分もそうだったのかも知れない、見えない敵に向かって壁を築き、中では家族のためと言い聞かせ、力で解決しようとした。結局なにも知らなかったのだろう。
そしてこの国も終わる、かつて15年しか続かなかった秦のように。

「僕は救世主になれるのかな、僕のおかげでお母さんは救われたのかな。きっとそうだよね。後はお父さんを救わなきゃ、僕は息子なんだから。」

見上げた息子の振り下ろしたナイフが私の喉を貫いた。

こうして歴史は繰り返す。
学ぶ者も学ばぬ者も等しく同じ未来に向かって。

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