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字が汚い!

字が汚い!
新保信長・文藝春秋
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図書館で通りかかった棚の、ほんとたまたま視界に入った背表紙のタイトルで立ち止まってしまい、
「これは!」
と手にとった本。この著者さん知ってる!西原理恵子さんの編集さんで変な企画ものやってた人だ!!なによりタイトルがとても気になる!

手にとってみたら表紙には手書き文字で
「なぜ私の字はこんなに汚いのか?」
「何というか筆跡そのものが子供っぽくて拙いのだ。」
「そうだ、ペン字教室行こう!」
などなどの文が散りばめられています。そしてその字が確かにお世辞にもキレイでない…

わたし!わたしもそれ!!!

ということで借りて読んでみました。図書館はいいね…普段本屋では見かけない本との出会いがある…特に少し前の発行の本の、見逃しちゃっていたいい作品を見つけやすい…

こちらの御本、2017年の発行で情報は全然新しいですね。
タイトルとキャッチ文からして下手な字を上手くするまでの過程のレポート本かなと思ってたし、実際そういうところもあるのでそれも間違いではないんですけれど、内容はかなり多岐にわたっています。
昭和から現在までの字の流行りや傾向、いろんな方へのインタビューやそのご本人に書いてもらった字の掲載、字の上手い下手は立場には関係ないこと、意外な人の意外な字の上手さや、それに関する思い出話的な内容etc・etc……
文量もまあまああって、己の字が汚いというテーマからよくこんなに面白い話題を目一杯盛り込んで、しかも面白く読みやすい形で一冊にまとめてくださったなあと思います。
全5章立てで、
・なぜ私の字はこんなに汚いのか
・練習すれば字はうまくなるのか?
・字は人を表すのか?
・字にも流行があるのか?
・「うまい字」より「味のある字をめざせ」
となっていて、各章ごとに10話題ぐらいずつ小見出しがある形です。
編集さんをやっておられる方だからなのか、ご本人がとても企画力があるからなのか、話題と写真・画像資料は非常に豊富かつ邪魔じゃないバランスで、かゆいところに手が届く素敵な本です。

冒頭、ご自身の字に絶望するところから始まるんですけれど、もうね、ほんとにわかるんですよ、大人らしくない字しか書けない己にがっかりするその気持ち。。。わたしも44歳になるんですが、よそで堂々と書ける字では全然無いんですよね…縦書きより横書きがまだちょっとだけマシ?いやぁ……てぐらい…
昔漫画描いてたんで、それらを読んでくださってた方などはフキダシ外の書き文字などでご存知だとは思うんですが、会社の人に
「漫画描いてたって感じの字」
と言われたこともあるし、当然当時に編集さんには「これは何々って書いてあるんであってますかね?」て電話で確認されたりは当たり前、ひどいときには自分で自分の書いたメモが読めなくてどんな漫画描こうとしてたかを思い出せなかったり…しかもこの字でひところは事務員してたりもしていたんですよ…自家通販もしてたので宛名だって自分でそりゃもういっぱい書いたさ。手紙の返事だって販促物だってこの字で書いたよ。今だって日記だのTODOリストだの手帳だのモーニングページだので日々手書きで文字書いてるんだけれど、書けば書くだけ上手くなるだなんてことはないですね…意識してキレイに書く努力と工夫を日々続けないと字は上手くならないですよ…あとはなんだろ…コツの把握とかかしら…デッサン…デッサンよね…字は絵と上達過程の理屈が一緒…

神がかった下手てほどではなく、一応ゆっくり書いたら読めなくはないぐらいなんですけれど、本の中にも記載があるように
「字は情報伝達のためのものなので、字をゆっくりキレイに書くことはコストが悪い」
と私も(字が下手なくせに)堂々と考えておりまして、しゃかしゃかっと書いて略字も使って、間違ったら消しゴムや修正するよりぐりぐりって塗りつぶすし。
高校生の時にかわいい字を書く友達が
「自分の書いた字が汚い」
て理由だけで間違ったわけでもない字を消して書き直したのを見たときには
「嘘だろ!?」
と本気で驚いたものです。わかるよ…雑だから余計汚いんだよな…わたし、絵もそうだったよ…漫画の感想には大体
「話は面白いけど絵が汚い」
て書かれてたよ…自覚してるよ…すべてに置いて雑なんだよ…

文字ヘタクソトークしてるともう際限無いんですけれど、この本、先の章の題を見てもらったらおわかりのように「味のある字」に話題が落ち着くんで、なんかこう、安心するといいますか。字が下手な人に優しい…
そしてなにげに、著者さんの後半の字、ちゃんと最初の方よりも
「読みやすくていい感じ」
になってるんですよね。そこもビフォーアフター的な楽しみ方が出来る御本です。いわゆる表書き系は「下書きをすればよい」という具体的な解決手段も教えてくれているので、大変実用的でもあります。
それよりなにより、
「こ、この人こんな立場でこんな字なのか…じゃあ私これでいいや…」
て思える作例が山程入っているのがほんと、勇気出る…あの人とかあの人とか…特にこの…この人すっっげえな…的な…(気になる人は読もうね)

楽器だとかもそうなんですけれど、最近はYou TubeやTwitterなどで書道家さんや文字上手な人らが文字書き動画を上げてらっしゃって、わたしそういうの見るのもすごい楽しいんですよね。昔、すごいマメに漫画の感想のお手紙を送ってくださってた方とほぼ文通みたいなことを(しかも複数人と)していたことがあるんですけれど、おひとり、もうすーーーんごい字がきれいな方がいらして、その方のお手紙、いつもうっとりしていたなあ…自分の名前と住所がこのきれいな字で書かれてる…てすごいこう…感想いただいた、ってこととは違うポイントで嬉しかったんですよね。美しい字ってすごいね。力があるものなんだよね。

わたし本人は基本的に字が下手なので、人に褒められるてことはほぼほぼ無かったんですが、自分の字が嫌いじゃなくなったきっかけのひとつに
「漫画に書かれていたあの文字で(通販や手紙の返事が)届いてなんか嬉しい(意訳)」
といったお言葉をいただいたことがあって、そういう楽しみを誰かに与えられてるならまあいいかな、て開き直った感じです。そういう意味では私も
「いい感じ・味のある字」に落ち着いたてことになるんでしょうかね。
開き直ったというのが正しいでしょうけれど…

こちらの本の中で、いわゆるヘタウマに見えるけれども実はかなり計算されて書かれている書についてもお話があったり、見やすくなるコツだったりも載っているので、自分の字にお悩みの方がいらっしゃったら結構具体的な参考や励みになってとても良いのではないでしょうか。単純に読み物としても大変楽しいので、興味が出た方はぜひぜひ。おすすめですよ!

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