金の国水の国

金の国水の国
岩本ナオ・小学館フラワーコミックスαスペシャル　Kindleあり
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確か発売当時にツイッターのTLで
「この漫画面白いわーーー」
って流れてきて、この一冊で完結するんなら読みやすそうだな、て軽い気持ちで買ったんだったと記憶してます。手持ちの漫画では少なくなってきた紙媒体。絵の描画が非常に細かく繊細なので、これデジタルで買ってもいいかもなー。でもこのちょっと厚めなのをめくりめくり読むのもこの漫画は向いてるわよねーいいわよねー、て気持ちになる作品です。なんせほんとに面白いからね！
先述のようにこの漫画、この本一冊で完結するので面白いだけじゃなく大変読みやすいです。そう、わたしは1~2冊で完結する短編もとても好き…

話は「A国」と「B国」の諍いで始まります。その諍いを止めるため、神様が
「A国は国で一番美しい娘をB国に嫁にやり」
「B国は国で一番賢い若者をA国に婿にやりなさい」
と言い渡す、というところから始まります（ここまでで3ページしか使ってない神展開）。
ちなみに双方この約束をぶっちぎりで反故にするという出だしの安定感なんですが、各国の「受け取り手を押し付けられた」該当者同士がひょんなことから巡り合って「お互い『フリ』をしてうまいこと状況を納めましょう」て流れから話が動き出します。
おっとりしていて「100人ぐらいいるお姫様のうちのひとり」なA国の末のお姫様と、仕事の無いB国の町外れの学者の倅の出会いが双方の国を巻き込む大騒動になり、最後はそれはもう見事なハッピーエンド、でございます。
途中の面白さを解説しちゃうと読んだ時の感動が台無しにしかならないので、感想文書きづらいですね…面白いです、てしか言えなくなりますからね…600円かそこらでこの話が読めるなんてお得にも程がありますよ。「少女漫画ぁ…？」て思っちゃう人もそんなジャンルは関係ないのでぜひ読んで。面白いからね！

A国は裕福だけれど国の内部が乱れて技術力が落ちており、B国は技術と水資源があるけれど政治が下手で貧しい、と、それぞれの事情により、だからこそお互いがお互いの国を飲み込もうとしていたことが読んでいくうちにわかります。軽い話し出しのわりには設定は綿密ですし状況は入り組んでいるんですね。でも軽くて丁寧な読み口が、その難しさを読者に感じさせないのが、そこもまたこの作品の優しいところだと思っています。
そうなんですよね、この作品根底に流れるものももちろん、「当事者」の２人も、２人ともが穏やかでまっすぐですごく優しいんですね。だからこそ貧乏くじをひかされるんですけれど、諍い合っているお互いの国の人間である「相手」の美点を素直な気持ちで尊重しあい、かばいあうことが出来るんですね。そして自国を誇張することなく、問題を問題としてとらえ、しっかりと未来のために何をすれば良いかを考えることが出来ているんです。

わたしが大好きなのが完全に偶然の流れで発生したお姫様（サーラちゃん）の「対決」シーンで、ここ、おっとりとしたまま育ってきて怒ることを知らないサーラちゃんの、一世一代の大立ち回りなんですね。小さな猫一匹を心配して隣の国まで歩いて来るまでした心根の優しい女の子が、たった一人でいろんなものを背負って戦うんですよ。サーラちゃん最高にかっこいいです。
神様の条件の「美しい娘」は「賢い若者」に比べると目に見えやすいがゆえに、まわりの人間の心無く残酷な扱いを浴びることになります。サーラちゃんはそれらの「呪い」を浴びながらも、まわりの都合すべてを一身に負って、それでも黙って戦うんですね。
自己犠牲とか「黙ってなにかする」って展開がすっかり嫌いになってきた昨今の私なのですが、この場合、サーラちゃんはふたつの国を背負っているからこそのこの振る舞いで、彼女はしっかり「お姫様」です。決してキレイで好かれるだけの物語のお姫様ではなく、正しく責任を負うお姫様で、こういったところがこの作品にしっかりとした緊張感を出しているんですね。

このお話はめでたしめでたしもいいところの「おとぎ話」なのですが、その実、骨太の政治劇だと思います。最初の３ページからはこんな話だとはとてもとても先読み出来なかったのもあって、読み終えた時のびっくり感と「いいもの読んだ」感がまた大きいんですね。気持ちの良いお話です。キレイに始まりキレイに終わる、短編の鑑のような作品です。
サーヤちゃんのことばかり書いてしまいましたが、「賢い若者」の「ナランバヤルさん」の方もそれは見事な働きをされます。彼ら、彼女らをはじめとして、ふたりを支える周りの人間すべての思いやひとつひとつの行動が「国の未来を考える」ことなのだな、と学ぶことも出来ます。いや本当に、大きな会社の偉いおじさんらにこそ読んでほしいなこの漫画。偉くない若者だってたくさん読んでほしい。つまり誰にだって読んでほしい良作なんです。

もちろんなんですが、ただ単なる「面白い漫画」としても十二分に楽しめる一冊なので、
「あんまり長くない面白い漫画無いかなー」
て思ってる方はぜひぜひ。あっ、猫とか犬が好きな人もぜひぜひぜひ。
「美男美女」の漫画ではないですが、「美しい」物語です。