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新しいはじまりを感じた夜――NUANCE ONEMANLIVE『Case to Romance』

2023年10月6日、NUANCEのワンマンライブ「Case to Romance」が恵比寿LIQUIDROOMで開催された。4月に神奈川県民ホールで行われて以来のワンマンライブだったが、横浜で生まれたアイドルの集大成とも言える地元でのライブに比べ、アピールポイントがやや薄く集客面でも心配があった。ちなみにワンマンの前日、プロデューサーのフジサキ氏はnoteにこう書いていた。

今回のワンマン集客はいつも通り大苦戦、過去にないくらいの苦戦を虐げられているのですが、ここから『新しいはじまり』がスタートするような気がとてもしています。


当日は椅子アリのフロア席が8~9割ほど埋まっており、そこから一段上がった後方の立ち見エリアでは快適に見れる程度(察してください)の客入りだった。本来ならスタンディングで公演するべき会場なのだが、それが出来なかった集客数だったのだろう。そもそも何故LIQUIDROOMで開催するのかも疑問で、メンバーの川井わかが「いつかライブしたいと思っていた憧れの会場」と口にしていたのだが、それが理由だとは考えづらく単純に日程が空いていたからだと思う。

フジサキ氏が「ここから『新しいはじまり』がスタートするような気がとてもしています。」と書いているのは、新メンバーの城戸海月が加入してから初のワンマンなのもあるだろう。自分も映像では見たことがあったが生で見るのは初めてで、本公演の楽しみの一つだった。

ライブが始まって驚いたのは、前半に代表曲を集めたセットリストだった。ミライサーカス、セツナシンドローム、ハーバームーンにsanzanなど盛り上がる選曲で観客の心を掴んでいった。事前に告知されていた新曲の一つも前半のうちに披露され、まるでイントロが豪華なゲストボーカルを迎えてヒット曲を連発していたあの頃の東京スカパラダイスオーケストラのようで面白く、一聴して気に入ってしまった。『Carmine泥(なず)んで』という曲名で、なんと横浜の寿町(!)をテーマにした曲とのこと。寿町はいわゆるドヤ街と呼ばれる地域で決して治安の良い場所ではないのだが、それをテーマに歌うアイドルが出てくるとは。私事になるが20年以上前に関内の会社に勤めていた頃、先輩に「車で通る時は当たり屋がいるから気をつけろ」「車の中を荒らされるから停車してはいけない」などと注意されたことを思い出した。この文章を書いている時点(10月14日)ではまだ配信されていないが、アレンジも含めちょっと話題になりそうな予感がする。

ライブ中盤はアコースティックのバンド編成によるluxuryバージョンで4曲披露された。普段とは一味違うシットリとしたアレンジで歌うのが特色なのだが、さっきまで全力で歌って踊ってきたせいもあるのか、ややテンポが走りぎみに感じてしまい魅力は半減してしまった。今回のライブで、ここだけは残念な点だった。

ライブ終盤の23曲目終わりで、やっと本日初のMCタイム。そんな曲数をやっていたのかと驚いたほど、あっという間に感じた充実度だった。24曲目はもう一つの新曲『赤レンガ空中さんぽ』を披露。現場で聴いたときはメロディがアレンジに埋もれて分かりづらい印象だったが、MVであらためて聴いてみると初期っぽさも感じる良曲でSNSでも好評だった。映像も素晴らしくヌュアンスは活動歴に比べるとMVが少ないのだが、出す度に質は上がってきていると思う。

25曲目を最後にアンコールは無く終演。冗長さを感じさせず2時間キッチリに収めたライブで本当に素晴らしいと思った。


新メンバーの城戸海月は168センチという体をまだ持て余している感じが新鮮に映った。ダンスもダイナミックなのだが他のメンバーより半テンポ遅れてしまう箇所もあって、まだまだこれから良くなる余地がありそう。歌声も、ちょっとぶっきらぼうな感じで自分の好きなタイプ。蓮水恭美は見るたびに歌声がヌュアンスにマッチしてきた感じがして、その歌声におお~と思わず声が出てしまう場面もあった。汐崎初音はまるで初期メンバーのような安定感のあるパフォーマンスが頼もしい。川井わかは数か月前に発表された新曲『コロニアルスタイル』で「何かあったの?」というくらい歌唱力が上がっていて驚いたのだが、この公演でもその力を存分に見せてくれた。

と、メンバーのパフォーマンスについて文句は無いのだが、集客が減ってきている原因はどこにあるのだろうか。最近は地下アイドル業界全体で、いわゆる楽曲派(ここでは純粋に曲が好きな人という意味で)と呼ばれる層がゴッソリと居なくなってしまったので、その影響をモロに受けてしまったのかもしれない。かくいう自分もヌュアンスはワンマンのみの参戦で、対バンの類はまったく行かなくなってしまった。

しかし、この日に披露された新曲らがどれも素晴らしく、対バンでも見てみたいと思ったほど。ここ1~2年はメンバーの加入と脱退が繰り返され新曲もあまり出ない時期だったので、グループの運営に対してモヤモヤとした感情も正直あったのだが、ようやくそれが晴れてきた気分になった。

序盤に紹介した「ここから『新しいはじまり』がスタートするような気がとてもしています。」というフジサキ氏の言葉どおり、新メンバー加入だけではない「新しいはじまり」を感じた夜だった。

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